当麻&征士 Love Valentine 2014



Dangerous chocolate 2 

by スズシロ 様


 三学期が訪れた。
 冬の日々、年末年始も当麻は征士と会っていた。部活がある時は学校で顔を合わせ一緒に帰った。大晦日から新年は、同じ神社の境内で迎えた。
 最初は胡散臭くてなれなれしいだけだった当麻の存在に、征士は次第に慣れていった。
「次のテストに合格したら今度こそキスしてくれるか?」
 だから初詣の後、境内でそんなふざけた事を言われた時には本当に頭に来た。
「私は女ではない。そういうことは女に言え」
「そこらの女じゃなく、征士が俺にキスしてくれることに意味があるんだけどね」
「意味が分からない!」
 怒りながらも、夜の雪道を征士は当麻と一緒に歩いていく。歩く先は、伊達家の方角。いつの間にか、当麻が常に征士を送ってくれるのは当たり前の事になっていた。
 そうやって三学期が開けて、席替えがあった。くじ引きで席を決めるのだが、どういう訳か当麻と征士は隣の席になった。それから自然と一緒に昼飯を食べるようになった。休み時間も一緒に行動するようになった。
 二人の距離はあっという間に縮まっていった。
 一月は瞬く間に過ぎていき、二月になった。その頃から教室の中は妙にそわそわした空気が漂い始めた。
「……」
 二月のある日、学校からの帰りに征士が黙りこくって眉間に皺を寄せている。
「何か考え事か?」
 当麻が聞くと、征士は苦笑して頭を振った。
「最近、教室や廊下で女子とやたらに目が合うのだ。目が合った後、皆怒ったような顔をして小走りで逃げる。私は女子に何かしてしまったのだろうか」
「何言ってるんだ」
 当麻は噴き出した。
「何だ、それは?」
 征士が当麻を振り向く。
「そりゃお前、今度の儀式で高得点を取れるってことだろう? 悩むような事じゃない。むしろ喜ぶべきだろ」
「儀式?」
「バレンタインだよ」
 当麻はあっさりと言った。
「ああ……」
 うっかり失念していたらしく、征士は納得した様子で、その後ため息をつく。
「お前、毎年、いっぱいチョコ貰っているんだろう?」
 そう言って当麻は征士の背中を軽く叩いた。
「貰っていない訳ではないが、それはそれで悩みの種でな」
 征士は憮然として言った。
「悩みって、何で?」
 当麻が大きく顔を寄せてのぞき込んでくる。
 顔は笑っているが、目が笑っていない。その険のある表情を怪訝に思いながら征士は頷く。
「私は甘いモノが苦手なのだ。毎年押しつけられても困る」
「……甘いモノ?」
 当麻は驚いて目を丸くした。
「甘いモノが苦手だと言って断っても、女子達は皆傷ついた顔をする。中には泣き出す者もいる。女子を泣かすのは言語道断だから受け取るが、一人で食べきる事は出来ないし、家族に渡そうにも姉などにはからかわれてしまう……毎年、忘れたい行事の一つだ」
 それが事実なので征士はそう言った。
 呆然としていた当麻だったがやがて大きく噴き出して大笑いを始めた。征士の背中をバンバンと叩きながら。
「何だ、一体」
「最高! それでこそ征士だよ!」
 笑われているのが面白くなくて顔を顰める征士に、当麻は言った。
「それじゃ今年のバレンタインは一緒に過ごそうか、征士?」
「何でそうなる?」
「……俺、甘いモノが好きなんだよ。チョコレートなんて大好き」
 嬉しそうに笑いながら当麻は言った。
 そう言って征士の肩に抱きつく。
「征士、チョコレートの処分に困っているなら俺にくれよ。食べ物無駄にしちゃいけないだろ?」
「……お前が食べてくれるのか?」
「ああ。だけど、女の子から貰ったチョコを他の野郎に食べさせるなんてバレたら顰蹙ものだから、征士、こっそりやれよ? 人目につかないように俺の家に来てくれ」
「当麻の……」
 征士は毎日のように当麻に家まで送られているし、一度は部屋の中に彼を招いている。だが、逆の事はなかった。征士は当麻がどこに住んでいるのか、どんな家に住んでいるのか知らない。
「ん?」
 へらへらと笑っている当麻。征士の真っ直ぐな視線を感じても、たじろぐ事がない。
(当麻)
 学校に行けば当麻と一緒にいるのが当たり前のようになっていた。だが、実際には出逢って三ヶ月と経っていない。こうして思い返してみても、征士は自分で驚くほど当麻の事を何も知らない事に気がついた。
 甘党であることは今知ったが、抜群の頭脳を持つ問題児であることを覗けば、どこに住んでいてどんな家族構成で、どこの中学の出身で、どんな趣味でどんな特技を持っているかなど、本当に何も分かってない。
 それでも当麻といる事は居心地がよく、なれなれしさも憎めなくなっている自分が不思議だった。
「そうだな、お前の家に行ってみたい」
 だから征士はそう答えた。
 当麻に聞かれるがままに征士は正直に自分の事は何でも応えていた。
 当麻はある程度以上、征士の事を把握して、征士の事を理解しているだろう。だから、自分も当麻の理解者になりたいとごく自然に思った。
「バレンタインは一緒に過ごそう」
 そう言ってから気恥ずかしさを感じて征士は顔を赤らめた。男同士でバレンタインを過ごすにしてもこういった事情があるわけなのだし、何もおかしいことはないと思う。それでもバレンタインにこそこそと当麻の家に行ってチョコレートを渡すというのは本当におかしな儀式のように思われた。
(何を気にしているのだ、私は……)
 征士は闇に向かって頭を振り、妙に浮ついた気分を追い払った。
 当麻は笑いながら征士を抱き寄せ、その表情の変化をずっと見ていた。



 バレンタインの日は朝から大変だった。
 登校すると下駄箱の中には当然のようにチョコレートとラブレターが入っていた。その後教室でも、女子生徒から義理チョコを送られ、机の中には置き手紙があって屋上や校舎裏に呼び出された。
 一日中呼び出しにつきあったあげくに苦手なチョコを渡され交際を迫られたり泣かれたり、征士は14日の一日だけでへとへとになってしまった。
 幸いその年の2/14は土曜日で学校は半日しかなかったため、征士は帰りのHRが終わると同時に教室から一目散に逃げ出した。当麻が慌ててそれを追いかける。
 デパートで配られる大きな紙袋をあらかじめ征士は用意して持ってきていて、それにチョコのプレゼントは全部入れていた。女生徒に呼び止められないように大急ぎで玄関に行く。そして下駄箱の中にはやはりチョコが詰まっていて、征士はぐったりとため息をついた。
「そう嫌そうにするなよ、女の子が見てるぜ。それにどうせ食べるのは俺なんだから、そんな気落ちすることないだろう」
 追いかけてきて征士の隣のポジションを取りながら当麻が言う。
「そうか、そうだな」
 征士は気を取り直した。
 それから二人は人目を避けながら当麻の住むアパートへと向かった。
 わざと人通りの少ない裏路地から裏路地へ移動しながら、早足に歩く。
「当麻、家はアパートだというが、ご家族の方はいるのか。もしも誰かいるのなら、何の手土産もなしに伺うのは……」
 礼儀作法にうるさい征士はそんなことを言い出した。
「いや、俺の一人暮らしだから気を使わなくていいよ。俺はチョコさえあればいいんだからさ」
 当麻は辺りを見回し誰も見ていない事を確認しながらそう答えた。
「そうか……?」
 まだ高校一年生の彼が一人暮らしである事に征士は違和感を覚えた。だが今まで授業をサボリ放題でいられたのも、彼が保護者と一緒に暮らしていなかったからだと考えれば合点がいく。
「ご家族は何か事情があるのか」
 思わずそういうことを聞いてしまうのが征士の欠点である。
「……さあね」
 当麻はそう含み笑いを漏らすだけで具体的な事は何も答えなかった。
 それで聞いてはならない事を察した征士は気まずそうになりながらも薄暗がりの細い小径へとついていった。そこが当麻のアパートの前の路面だった。
 アパートは大通から外れた寂れた路地にあり、大きな日本家屋がいくつか並んで建っていたが人の気配はしなかった。アパート自体も二階建ての古い建築で壁にはびっしりと蔦が絡まり人が住んでいるようには見えなかった。
 少し呆気に取られながら征士はアパートを登り、当麻の後をついていった。
 当麻が部屋の鍵を開けて征士を中に入れた。
 どこにでもあるような和室の2LDKだったが畳の上には保護のためにカーペットが敷いてある。開け放たれた襖の向こうに布団が乱れたままのベッドが見えた。意外と片付いて見えるのはモノが少ないせいだろう。
「まあ気楽にしていけよ」
 当麻はそう言って玄関からすぐの台所を通り抜けて居間として使っている部屋に入っていった。征士も靴を脱いでそろえ、ついていく。
 こたつテーブルの手前に当麻は鞄を置くと台所に戻り薬缶でお湯を沸かし始めた。
「適当に寛いでいてくれ、今コーヒー入れるから」
「ああ」
 征士はテーブルの前に座り、紙袋と鞄を置いた。
「凄い数のチョコ貰っていたな。流石征士さん」
 からかうように当麻が言う。
「チョコをくれると言っても、私にとっては難儀な事なのだ。それは前に話した通りだ」
 征士は憮然として答える。
「だけど俺なんて一個も貰えなかったんだぜ」
「それは当麻が、授業にあまり出てこず顔も覚えて貰っていないからだろう」
 拗ねたように言う当麻に征士は困ってしまう。
「そうかねえ……」
 お湯が沸いたので当麻はマグカップにインスタントコーヒーを用意して征士の元へと持ってきた。
「それでは早速、当麻、チョコレートを貰ってくれるか」
 征士は紙袋を当麻の方へと差し出した。
「ああ、うん。征士、俺からもお礼として渡したいものがあるんだけれど」
「礼?」
 きょとんとして征士は目を瞬く。
「去年の期末テストの時から征士にはお礼したかったんだよ。教科書もノートも見せてくれたしテスト前には面倒見てくれたし。そういうのへの、ほんのお礼」
 そう言って当麻はテーブルの隣の食器棚の中に手を突っ込んだ。
「そのようなことを気にしていたのか」
 当麻の軽そうな調子からそんなことは想像していなかった。征士は、意外だったがそういうことをきちんとしたいという当麻を邪険にすることはできない。だが想像していなかったので驚いた。
「はいコレ、チョコレート」
 ところが当麻が差し出してきたのはハートマークの飛び散った赤い包装紙にくるまれたバレンタインのチョコだった。海外のものらしく、英語ではないアルファベットのカードがついている。
「チョコレート!?」
 征士は眼を剥いた。自分はチョコを食べられないのでわざわざ当麻の家までプレゼントを運んできたというのに当麻がチョコをくれるという。
「バレンタインだし、愛の告白のつもりだ」
 ふざけた軽快な調子で当麻はそう言った。
「私はそういう冗談が大嫌いだ!!」
 幼い頃からそういう悪質なからかいやセクハラを受けてきた征士は激怒した。
「そう怒るなよう、美人が台無しだぜ。それに俺は冗談で言っているつもりはないんだけどね」
「これが悪質な冗談じゃないなら何なのだ!」
 征士は益々怒りだした。
 当麻の事を知りたいと思ってアパートまでついてきて、結局ふざけてからかわれただけではないか。
「んー……だからさ、征士、甘いモノが苦手なんだろ。それでちょっと協力してやりたくてさ」
「協力?」
「甘いっていったって色々な味があるだろう? そのチョコ、チョコなんだからそりゃ甘いよ。でも海外じゃ、甘いモノ苦手な奴にも結構食べられる、おいしいって評判のモノなんだ」
「甘いモノが苦手な人間にも、評判……?」
 怒るのをやめて征士は当麻からチョコを受け取りしげしげと包装を見つめた。やはりアルファベットで何を書いてあるかは分からない。征士の全く知らない言語であるらしかった。
「ネットで取り寄せたんだけれどね。俺も色々調べてみたけれど安心出来るブランドのモノだよ。だから征士はそのチョコ食べてみて、甘いモノへの抵抗をなくしていったらいいと思うんだ。前に征士、食べ物を粗末にするのはよくないって言っていたろう? 甘いモノも食べられるようになったら嬉しくない?」
「……なるほど、当麻のやりたいことは分かった」
 真面目な征士は大きく頷いた。
 確かに甘いモノへの抵抗がなくなるように協力してくれるというのなら、征士にとっては大した”礼”である。それにわざわざネットで海外のブランドまで調べて取り寄せてくれるという苦労もしてくれている。
「ふむ……」
 しかし長年苦手だった甘いモノ。食べるのは抵抗があり征士は手の中の小さい箱を見つめる。
「貰ってくれる? 俺の気持ち」
「ああ……」
「貰ってくれるならせっかくコーヒー入れたんだしここで食べて行けよ」
 テーブルに置かれたマグカップのコーヒーは独特の匂いを放ち、まだまだ温かそうだった。
「そうだな」
 征士は決意を固めた。それが当麻の苦労に目に見えて報いる形になるだろうと思ったのだ。
 それに家に帰ってから隠れて男から貰ったチョコを食べるというのも心臓に悪い話である。うるさい姉妹達にチョコの送り主や事情を尋ねられたら誤魔化す事だって難しそうだ。 そのリスクを考えたらここで食べてしまった方が良い。
「それではこれが私からのチョコだ。遠慮せずに食べてくれ。私はこのチョコをいただこう」
 そう征士が言って、二人はバレンタインに男同士でチョコを交換しあった。
 当麻は紙袋の中から綺麗なラッピングのチョコを取り出して開けて食べ始めた。征士も当麻のチョコの箱を開けて、中から出てきたボトル型のチョコレートを見た。
「……ブランデー入りか」
 それならば確かに甘味に抵抗のある人間にも美味かもしれない。
 征士は一人でそう納得し、6個入っているうちの一つを食べた。甘いが刺激のある不思議な味がした。
「どう?」
 チョコを頬張りながら当麻がきく。
「ふむ……なかなかだ」
 甘味が苦手なのは本当なのだが、食べた瞬間に強く惹きつけられる感覚がした。何だか癖になる味だった。征士はもう一個、口の中に放り込んだ。
「おいしい?」
「……」
 妖しい感覚が襲ってきたのはその後だった。動悸がして、体温が次第に高くなってくるのが分かった。体が熱くなると同時に、汗が噴き出てきた。全身、特に体の中心が熱い。自分の身に異変が起こった事が分かる。
 だがその異変の意味が分からず、征士は目の前の当麻を見、それから玄関を振り返った。もうこの部屋にはいたくなかった。
「どうした征士?」
 笑みを含んだ声で当麻が聞いた。
「帰りたい? 体、どっか悪いのか?」
「……当麻?」
 当麻は目を潤ませ頬を紅潮させている征士の手を掴んだ。
「帰さないよ、もう二度と」
「当麻……」
 自分の体に異変が起こり、当麻にも異変が起こった。征士はそう思った。
 当麻の青い目の奥に見たことのない光がある。底冷えするような光。それは非常に危険なものであることは分かったが、手首を捕まれて動けない。そして自分では認められない事だったが、当麻に手首を捕まれただけで、体の中心が跳ねるように感じていた。
 それは快感だった。
「一体、何をっ……」
 当麻が動けないでいる征士の手を引いた。征士が体のバランスを崩す。当麻は征士に抱きついてきた。唇を、吸われた。
 征士は目を大円に見開いた。
 今までの当麻の言動一つ一つが脳裏で閃いた。当麻の征士への好意は悪質なからかいだと思っていた。だが、そうではなかった。
 今自分は当麻の仕掛けた罠に嵌められて、もう身動きも出来ないでいる。
 そのことが分かった。
「放せっ!!」
 征士はそう怒鳴り、当麻を力任せに突き飛ばすと鞄を持って逃げようとした。
 だがよろめいて倒れた。全身に、力が入らない。皮膚の上を学生服がこするだけでも快感に体が痺れてしまう。
 今では征士は大きく息切れを繰り返しながらカーペットの上に突っ伏していた。
「まだ分からないのかよ、バカだな征士」
 当麻はくつくつと笑いを漏らしながら立ち上がり、征士の傍に行くとその柔らかい金髪を撫でた。
「当麻……?」
 当麻の唇が再び降りてくる。
 征士は何故か拒む事が出来なかった。唇の触れた先から甘い衝動と欲望が次々にこみあがってきて体が震えるのが止まらない
「お前のために用意した特別なチョコだったんだよ」
 甘いチョコレートの匂いを放ちながら当麻がそう言った。
「特別……?」
「そう、媚薬入り」
 当麻はそう言って間近から征士の顔をのぞき込み、笑む。
「こうして近くで見てみると本当綺麗なのな、征士の顔。赤くなっちゃって凄い可愛い」
「……媚薬……」
 その非現実的な言葉の意味が脳に染みいる。
 だが今の自分の体の状態を考えれば、それが事実だという事は否応なしに分かった。
 当麻は征士の学生服の第二ボタンを掴み、乱暴に引きちぎった。
 そこで征士は自分の置かれている立場がようやく現実のものとなって理解した。何とか逃れようとあがくが、手足はまるで泥の中に埋まっているように自由にならない。
 のろのろと腕を上げるのを当麻はたやすく抑え込む。
「楽しもうぜ」
 当麻の手は抵抗らしい抵抗も出来ない征士の体からボタンを外し前をはだけさせる。学生服だけではなく下に着ていた白いシャツからも。剥き出しになる白い肌。二月の空気にさらされてたちまち粟立ち乳首はぷっくりと膨れ上がる。
 当麻が指先で乳首を弾くと征士は背筋を反り返らせ甘い声を立てた。
「あっ……」
 だがたちまち激しい羞恥と怒りに襲われて、征士は手を振り上げ当麻を平手打ちしようとした。
 その手を掴み挙げ、当麻はぞろりと舌を指先に這わせる。
「無駄な抵抗はやめておけよ、今のお前に俺に逆らう力はない」
 そう言い切ると、当麻は力で征士を抑え込み、のしかかる。
 脚で脚の動きを封じ、学生服のベルトに手をかけた。
「やめっ……」
 叫びたくても声が出ない。舌がロレツが回らない。
 たちまちベルトは抜かれて、当麻の手により、征士の両手の縛めとなった。
 征士は頭の上で両手を一つに結ばれ固定されてしまう。
「馬鹿者っ……」
 回らない舌、弱々しい声で征士が何とか抵抗を試みる。だが既に体は押し上がってくる快感によって弛緩し、麻痺させられたも同然だった。
 当麻はズボンのファスナーを下ろし征士の脚から衣服を剥ぎ取りにかかった。そんなことはされた事がない。悪夢のような二分間が過ぎ、征士は下肢から全ての衣類を取り去られた。
 禁欲的な学生服の上、それに対し下半身は全裸。しかも雄は欲を表し赤く鋭く立ち上がっている。そんな状態で征士は当麻の前に転がっていた。
「すげえ、興奮する……っ!」
 呻くように当麻は言い、喘ぐような声を漏らして征士の雄に触れてきた。
「や、めっ……嫌だっ……」
 生理的な嫌悪感に襲われて征士が悲鳴を上げる。嫌悪感があるはずなのに、触れられれば触れられるほど欲望が次々にこみ上がってきて止まらない。悲鳴さえも焦がれて喘ぎ越えのようだった。
 当麻は既に十分に固くなっているそれを扱き立て、両手で責め上げて行った。
 征士は快楽と嫌悪感を耐える。目元を赤らめ、眉根を寄せ、口からは絶え間なく焦がれた息を漏らし、全身をしっとりと汗ばませて耐える。当麻はそのサマを観賞する。
「無理するなよ、それともそういうプレイか? 我慢すればするほど、イった時気持ちいいもんな」
 当麻は耳元でそう囁いた。
 瞬間的に怒りがこみ上がってきて征士は下から当麻を睨み上げる。視線だけは、まだ征士らしく生きていた。
 当麻はその表情に全身を震わせ舌なめずりをする。
 そして両手に力を込めた。
「ひっ」
 襲い来る快感に征士が悲鳴を上げる。
「あっ、あぁっ………うぁっ」
 声--。それが当麻を責めて縛る。目から耳から征士は当麻を刺激し欲望で縛り上げる。そして征士の欲望は白く濁って当麻の指を汚した。
 その堕ちた欲望の証を当麻は征士の眼前につきつけた。
「征士さん、これなあに?」
「……っ」
 征士は必死に顔を背けて当麻の指から逃れようとする。それでも当麻の指は征士の目を追いかける。
 征士は限界まで身を捩って当麻に抵抗と否定の意志を示す。その唇に当麻は汚れた指を擦りつけた。ぎょっとして征士は当麻を振り返る。
 その目前で、当麻は濡れた指を一本ずつ舐め上げていった。
「俺は甘党だけれど征士のコレだけは別だな」
 まるで美味だとでも言うような台詞。
 それを聞いて征士は自分の中の何かのタガが完全にぶちこわされた事を知った。


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