■ 馬に蹴られろ! 2
・・・ CASE 2 遼 。




部屋で駄目なら、外でどうよ。


満月のきれいな夜に、思いきって提案した。

「なぁ、今から散歩にいかねぇ?今夜は満月がだからさ」

「出られんだろう」

安全のため夜間は外出禁止。
鍵はナスティが管理しているので、出られたとしても、閉められない。
まさか、短時間でも夜中に開けっ放しはできない。

―――でも、出られたら、いいって事だよな

自然と顔が緩む。
それが笑顔というよりも、ニヤケ顔だったらしく、征士には睨まれた。

「ロープ結んだら、帰ってこれるじゃん?」

「そこまでして、月見か?」

「だってさぁ…もう暫くしたら…離れ離れだろ?」

少し寂しげにして見せる。
もちろん、演技だけど。
でも、本心だけど。

最初から1カ月間を目途に様子見ようとしていた。
だから、後2週間強しか一緒にいられない訳で。
その間、満月は今日が最後。

って、これは口実。
部屋がダメだから、征士を外に連れ出すための。

優しいというか、どうでもいいことはどうでもいいというか…。
征士は、まぁいいかと言った様子で「では、付き合おう」と返事をくれた。


――― やったー!




ロープをしっかり手すりにくくりつけてから、ベランダから飛び降りる。
まだ身体は戦士であった事を覚えていて、音も気配も消せた。

帰って来る時も、たぶん問題ないはず。
あ、征士、腰痛で…。
いや、そしたら、俺が玄関に回れば、いいか。


など、考えていたら、湖への道すがら、樹の根に躓く。
とっさに隣にいた征士が腕を掴まれ、転ばずに済んだ。

「さんきゅー」

言いながら、「コケないため」って、手をつないだ。
そんな事さえ、普段はできない。

ふっ…と征士が微笑み、「こそばゆいな」と言った。
そう言えば、キスはしてるけど、手をつなぐの初めてだ…。


――― 順番間違えてる。


俺は、拘らないけど。
コイツは、きっと気にする…タイプだよな。
わかっちゃいるけど、自分の想いっていうか欲望っていうかが勝っていて。
本人が「いい」って言ってるんだから、いい事にして、イイ事をさせてもらおう。




向かう湖は、高台の柳生邸の真下にあり、一直線で駆け下りる事も可能だ。
よく秀は時間短縮と言って、駆け下りている。

でも今夜は、お散歩さながら、大周りに緩やかな坂道の方を歩く。
だって、シたいのはシたいが、こんな特別な二人だけの時間もいい。
(もちろん、お楽しみも待っているし!)
男同志なんだから、なかなかない機会。
握った手のひらが、自分だけ妙に熱い。

「そういや、ナスティが最後に温泉で疲れをとるって企画してたよな」
「刀傷に効くという伝説がある秘湯だそうだな」
「俺たちにはちょうどいいかもなぁ」

他愛もない会話。
なのに、指を絡めているだけで、特別な関係の会話っぽく感じるのは、気のせいではないはず。
その証拠に、征士の表情は優しい。

俺の事を「いいと思っている」といったセリフに嘘はない。
自分の気持ちばかりに夢中だけど、征士もいつからか想っていてくれていた。
温度差はまだあるかもしれないけど、この手のひらから熱が伝わるように、近づいていければいいい…。




やっと湖畔に辿り着く。
昼間、俺がよく昼寝したり、征士が素振りしたりする大きな木陰のある湖のほとり。

月明かりが湖面に反射して、思ったより明るい。
その月光に、とっても好みの横顔が晒される。


「初めて夜来たが、綺麗だな…」
お前の方が綺麗だよとは、月並みなセリフは言わないけど。
その貌を見つめたままで、言うよ。
「そうだな」

「戻ってよかったな」
少し感慨深げに、呟く光の君。
「あぁ」


姿だけでなく、心まできれいな征士。
最初はその堅苦しさに辟易したが、そこまでして守るのは美しい世界。
顔色なくすほどの優等生の仮面の下には、真っ直ぐで真剣で優しい征士の世界が隠れている。
その事を知ってからは、抱きしめずにはいられなくなるほどに惚れ込んでしまっていた。


そっと抱き寄せて、腕の中に納める。
景色に見とれていたからか、抵抗はなくすっぽりと入ってくる。

大きな樹に凭れさせる様にして、頬にキスする。
それから、淡く光るような紫の瞳に『いい?』と言葉に出さず訊いてみる。

―――わかるだろ?

すると、征士は優しく微笑んで、その眼を閉じた。


許可をいただいたから。
遠慮なく、口づける。
キスは、いや、キスだけは、お陰さまで、だいぶ慣れた。
っていうか上達した。


何度しても、嬉しい。
気持ちイイ。


軽く唇を啄ばんで、舌でなぞって。
柔らかさを堪能して。
「…ん…」
吐息が漏れてくる。


――― 征士も気持ちイイ?


空気を求めるかのように、薄く開いた唇から舌を滑り込ませる。
口内を舐めあげて、征士の味を楽しむ。


――- 甘い…


腰にまわしてる腕に力を入れて、引き寄せて。
もっと、深く合わせて、貪る。


どのぐらい夢中になっていたのか、征士の頬が上気してくる。
と、苦しくなった征士が首を振る。

「…はぁ…」

離した唇の端から、唾液が伝って落ちる。


――― エロいよな…


堪らなくなって、少し身体を離すとシャツの釦を外していく。
月光が、均整のとれた胸と腹部を照らし出す。
白い肌が、なんとも艶めかしい…。


最初が青●ンってどうよ。って思ったけど。
こんなシチュエーションも、幻想的でエロくていいよなぁ…。


「せーじ、大好き」


耳元で、囁きながら。
そのまま耳朶を―弱いって分かっているから―舐めてみたりして。
指は胸の突起を摘んでみる。


「…く…ぅ…」


耐えきれないような吐息が漏れる。
眉を顰め、目を閉じて、耐える様な表情が、ソソル。


―――もっと感じて欲しい―――。


だから、そっと下肢を撫で上げながら、唇を胸に這わせる。


「…と…うま…」


俺のシャツを掴んでいた手が、髪に絡みついてくる。
もっとして欲しいのか、やめて欲しいのか。


――- 後者でも、やめてやんないけど。っていうか、止まらない


目を瞑って、征士の胸にキスを続けていると、光が満ちて来るような感覚に襲われる。
征士から発っする色香が、そのまま光に感じられるなんて。
本物の月光にも劣らない光。


「せーじ、アイシテル」


そう言いながら、下肢を撫でてていた手を止めて、直に触ろうと釦とチャックを外そうと…。






その時。






「わ゛―――-――――」
ズザザザアザアアザザ!!!!!





すぐ横の崖に近い坂道から、大声と、それに負けない物音が聞こえてきた。










綺麗な月に誘われたのは、あの二人だけではなかった。
ほんの少し前の時間。
カメラを手に、同じようにベランダから脱走した人間がいた。

今日は満月。
闘いで、すっかりできなかった写真撮影を久しぶりにしてみたいし。
もう長くはいられないから、湖面に光る月を映しに行こう。

庭からの撮影を試みたのだが、木が生い茂り、湖面のアングルが気にいらない。

急な坂を下りながらも、ベストショットポイントを探すか。

足元は不安定ながらも、降りて行く。


と、大きな樹がレンズに入った。

皆が憩う、場所だ。

レンズを向けると、人らしき影が端に映り込む。

――― 誰だろう?

足元のバランスを気にしながら、ズームすると、顔のアップが映された。

美しい顔だなと思った後に、それが月明かりに照らされている征士だとわかる。

――― 少し苦しそうな表情…。

――― どうして?

少しズームダウンすると、征士の肩の当たりに青い髪が映り込んできた。

――― え?当麻…?ええええええええ?

動揺そのままに、足元から転げ落ちた。





「わ゛―――-――――」
ズザザザアザアアザザ!!!!!

「遼!」「遼?」


「 ご、ごめん。邪魔するつもりはなくて、ワザとじゃなくて。
  つ、月がきれいっで…。撮影で。ほんと、ごめん!!! 」


うずくまりながらも、あわわわわと焦る大将。


足首を押さえているその姿に、「痛めたのか?遼」と征士が声をかける。


あまり色っぽい征士を見てしまって、真っ赤になり、俯いたまま顔を上げられない遼。



それを察して&嫉妬も少しあり、当麻が二人の間に入った。

遼の腕をとり、肩をかして立ち上がらせる。

「ありがと。当麻。ホントにごめん」

邪気の無い大将を責める事は、もちろん、できず。


内心 『どーいうことだよ!どーなってんだよ!あ゛―――――!』 とは、なりながらも。


「帰ろうぜ」と言うしかなかった。



素早くシャツの前を留めた征士が、近くに落ちていたカメラを拾い上げる。


「壊れていなければいいが…」



―――俺はね、俺は…、お前を壊すほどにシたかったんだ…。



当麻の願いは、お月様には聞き入れられなかった。

  


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最初が青●は、お月さまが許しません!(笑)

2011.10.13 UP
 by mazemiya kaori