――― 無事に勝って生き残った暁には…。




■ 馬に蹴られろ! 1
・・・ CASE 1 伸 。




―― 同室でホント良かった。合意があれば、即GOだもんな。


智将として決戦を指揮した少年が、自室でにーやにーやしていた。

あの戦いが終決した後、鎧戦士達は、柳生邸に一時的に身を落ち着かせた。
もしかしたら何かが起きるかもとあるかわからないと、しばらく様子を見る事にしたのだ。
部屋割りは前と変わらず。遼は一人、秀と伸、当麻と征士がそれぞれ同室で。
その部屋で、ベッドに腰掛けながら、「どっちのベッドでシようかな…」と青少年らしくない事を考えている。

ちょっと前までは、同室と言う事が、苦痛と言うか、生殺しの状態であった。

それは――両想いになったのに、征士が口づけだけしか許してくれなかったから。

――― ちゅう だけ…。

思考は不健全でも、身体は健康なので、そりゃ、辛い。
敵を目の眼にすれば別ではあるが、それ以外は拷問に近しい。

何故ならば、光を冠にいただいた美しき光輪様は…。

セックスして腰痛が原因で、負けて死んだらイヤだから、スルのは終わってからと言った。
勝って生き残れと、おっしゃった。


だから。
ずっとずっと我慢してた。
でも。

最初はバタバタとしていたが、ここ数日間で何となく生活のルールやリズムが出来て落ち着いてきた。
何より征士から、戦いの間に感じてた静電気みたいなピリピリした緊張感がなくなった。

――― だから、もう、いいよなぁ。

その事実と、以前征士が言ったセリフを思い出して、当麻はにんまりするのをやめられなかった。



――― 無事に勝って生き残った暁には…



生き残った!生き残ったとも!!

条件は満たされた!
やっとやっと触れられる。
やっとやっと解禁だ。

すっとした優美なその姿、華が色を失うほどの艶やかな顔。
同性だけど、惹かれて仕方がなかった。
ずっと、あんな事やこんな事をシたいと思っていたのだ。



よく我慢した! 俺!
さぁ、約束通り!
もう、カウントダウンは、始まっている!



一人、ベッドの上で妄想してごろごろして。座りなおして、にま〜とベッドを見つめたりして。

「何をにやけているのだ。気持ち悪いぞ」

風呂上がりで、タオルで髪を拭きながら部屋に戻ってきた征士が声をかけた。

その声色は、非難に加えて「こいつ大丈夫か?」の呆れが半々。


視線を上げると、ほんのり上気した薄ピンクの肌、まだ濡れている髪の征士が――。

――― た、たまりませ〜ん。

「そりゃ、今夜の事さ」

「何かあったか?」

髪をタオルで拭きながら、何か予定でもあっただろうか?と記憶を辿ろうする征士。

「そろそろ、約束果たしてもいいだろ?」

ああ、と思い出したような表情になる。
そして、「忘れていなかったのだな」と苦笑した。

「死んでも忘れねーって」

キスしようと近付くと、手のひらで静止させられる。

「そうだな。まぁ、とりあえず順番だから、風呂に入って来い」

なんやかんやと言って逃げるかも、と思っていたのに。
嬉しい肩すかし。

「やった〜」

当麻は着替えを手に、風呂に文字通り飛んで行った。








――― さすが征士。男に二言はないね。
     約束、破れない性格だしな。

喜色満面の表情のまま、烏もびっくりの行水で戻ってきた。

「早いな」

「でも、ちゃんと洗ってきたし!いざ!」

「ちょっと待て」

「なんで」

「消灯まで待て」


共同生活の決まり事が、ここの数日で出来上がったていた。
その内の一つ、消灯は午後11時。
ただの時刻、午後9時30分。

あと、1時間半。

それって、長いの?短いの?
今の我慢に比べたら、たかが1時間半。
でも欲情くんは、クラウチングスタートって感じで。
いや、もうピストルは鳴ったって感じで。
されどもの、1時間半。

――― 長いだろ…。


「それまでの間、数学を教えてくれ」

消灯までお預けは、決定事項の様だ…。

――― はいはい、熱を冷ますのに数学はイイデスヨネ


すっかり勉強ができていなかった戦士達も、日常に戻るには勉強しなければならなかった。
世界を救ったとは言え、特待生になれる訳もなく。
当麻以外の4人は猛勉強を初めていた。

「キスしてくれたら、教える」

――― さっき、止められたから。

仕方がないとため息をつきながら、征士が触れるだけの、いつものキスをする。

もっと深く…と調子に乗ろうとすると、征士の手が喉を掴む・・・。

――― ちぇっ。

少し名残惜しそうに当麻が身体を離した時、バーンと扉が開いた。

「とーま、ここ教えて!」

一瞬、二人で目を合わせ、会話をする。
『やはり、消灯まで待って良かったであろう』『そうだな』

「秀、私も数学を教えてもらうところだ」








結局、遼や伸も来たので、リビングに移動して勉強会になった。

大きなダイニングテーブルに、それぞれ腰かけ真剣に教科書・参考書を開いている。
ただ、勉強の必要のない当麻だけが、反対を向かせた椅子の背もたれに顎と腕を乗せ、質問が来るのを待っていた。

いつもの状況。

―――なのに、当麻の様子がおかしい・・・。

伸は当麻の異常行動をチェックしていた。

何度も何度も、時計を見るし。
征士の事も何度も見てるし。
表情は、フヤケテいる。のを、何とか引き締めようとしている。

「征士、当麻変じゃない?」
「いつもの事ではないか」

当麻が、遼の数学を教えている時を見計らって、何かあったの?と言外に、隣の征士に声を掛ける。
だが、征士は特段と気にかけている様子もなく。
「何かあったら言ってね」と小声で告げた。








「ア――――!」と叫びだしたいぐらい長い1時間半がやっと過ぎた。

―――長かった。

「そろそろ11時だ。消灯だな」と征士が言ってくれなかったら、時間にルーズな自分が、不自然にも「寝る時間だぞ」と叫んでしまいそうだった。

―――もうすぐだ。

征士と連れだって、足取り軽く階段をあがる。

めっっっちゃ、ウキウキっていうか。
いよいよだ〜って、わくわくで。

部屋に入るなり鍵をかけ、腰を抱き寄せて口づける。

「いきなりか」
「早くシたいもん」

そう言って、さっきまでの触れるだけのキスではなくて、深く味わうために唇を重ねる。

「せーじ」

息継ぎの合間に、名前を呼ぶ。
と、閉じられていた瞳が、うっすらと開く。
初めてみる様な、険のない潤んだ菫色。

――― うっれしいなぁ〜

夢中になって征士の口内を貪ると、「ん」と吐息と共に唾液がすーっと口の端から流れ落ちる。

それがどんなに煽るのものか、自分でも知らなかった。

――― もっと、欲しい

ドン

音がするほど乱暴に征士を身体ごと壁に押し付けて、逃げ場をなくす。
口づけたままで、両手でシャツを引き出して、そのままの胸と背中に滑り込ませる。

くすぐったいような、違うような、変な感覚に、身を捩って「とう…ま…」と押し返そうとする。

「だめ。せーじ、好き。もっと触らせてよ」

耳元で囁いて、そのまま耳朶をぺろりと舐める。

「…う…」

置き場のなかった腕がゆるりとあがり、当麻のシャツを掴む。

「ココ弱い?」

「よせ…」

「もっと、するに決まってんじゃん」

そう言って、甘噛みしていく。

「とうま…」

――― イイ感じになってきた〜。

そう思った時。




トントントン




「征士。当麻。ちょっといい?」

馬に蹴られるのを恐れない人物の声がした。

視線でどうする?と問うと、征士は顎でドアを開けろと示す。

しぶしぶと言った態で、鍵を開けて扉を引く。

こそには、やや呆れ顔の伸が立っていた。

不貞腐れて怒ったような当麻と、衣類の乱れた征士を一瞥して。


「 あのねぇ、僕は繊細でね。

 夜中に隣から睦言とかあえぎ声とか聞こえてきたら、眠れないんだよ。

 寝たら起きないお子ちゃまの遼や秀とは違うの。

 君らの関係はどうこう言わないから、悪いけど、ここにいる間は自粛してくれる?」


いうだけ言って、伸はさっさと消えた。

「だ、そうだ」




―――何でわかるんだよ!

当麻は無言で、ベランダに出た。


「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜」


心の叫びが、そのままに大声となり、柳生邸の静かな庭に響き渡った。


  


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そりゃ、ばれる様な気配を出す方が、お馬鹿さん!

2011.10.08 UP
 by kazemiya kaori