■ Treasure Box 3
・・・ トレジャー ボックス 3
――― まだ、怒ってるかな…。
昨日の征士は久しぶりにおっかなかった。
今朝、ソファで寝ていたのに、声もかけずに出て行かれたから――朝も怒ってったって事だよな。
滅多に怒らないが、一回怒るとしつこいからなぁ。
深夜に近い時間に、こっそりと帰って来た。
「ただいま」の声もかけず。
廊下の電気もつけず。
できれば、今夜はベッドで寝たい。
ソファは、翌日つらい…。
征士が先に寝ててくれたら、万々歳なんだけど。
自分の家なのに、情けねーなーと思いながら、寝室の様子を伺う。
すると、隙間から征士が立っているのが見えた。
部屋の電気は消えていて、ベッドのヘッドライトだけがついている。
――― まだ、起きてる…。
ベッドサイドにある征士用のチェストに向かっていて、ドアの方には気を配っていないようだ。
一番上の引き出しから、寄木細工の綺麗な箱を取り出す。
――― 見たことない箱だな…。
蓋を開けると、中のものを慈しむように眺めていた。
――― 何が入ってるんだろう?
指を伸ばし、中の物を取り出そうとして、止めた。
そのまま蓋をして、元に戻す。
息を吐き、目を閉じる。
何かを思っているような間。
しばらくしてから、ライトを消して、ベッドに入っていった。
優しい懐かしような想いが込められた視線だった。
昨日自分に向けられたのとは、大違いだ。
だから、何が入っているか、非常に気になる。
しかも、一緒に暮らして長いのに、見た事が無い箱だったから…余計に。
しばらく、リビングで時間をつぶして、征士が寝入っただろうと寝室に向かう。
寝室に静かに入る。
そして、チェストから寄木細工の箱を取り出して、チェストの上に置く。
物音を立てず――征士は敏感に起きるから。
集中していた。
そして、蓋を開けようとした瞬間。
「お前には、見せない」
背後から、蓋を押さえる手が伸びてきた。
――― ひっ!
声にはならなかったが、びくっと体が震える。
「…起きてたのか」
やっと出した声は少し震えていた。
背中から覆いかぶさるようにいる征士が、当麻の手から箱を取り、再びチェストに仕舞う。
「30時間経つ前に、話をしようと思っていた」
共同生活には、ルールがいくつかあって。
――― ベッドは寝室のみ。
――― 中違いをしたら、30時間以内に和解する。
主に、征士から提案されて決まる。
当麻にとったら謎なのだが、そういう所は争っても無駄なので、受け入れているルールだ。
「まだ、怒ってんの?」
返事はない。
応える代わりに、征士が首筋に唇を押しあててくる。
うなじを軽く舐められると、ぞくっとしたものが走り抜けた。
やんわりと抱きしめながら、手のひらで下肢を撫で上げる。
――― 怒ってやがる…。やばい…かも…。
機嫌の悪い時、征士の抱き方はいつもと違う。
激しく感情をぶつける様な事はしない。
むしろ、ゆっくりと、焦らす様に―――意地悪く。
止める気のない手の動きは、服の上からずっと当麻をさすっている。
もう片方は、服の上から胸を指で撫で摘まんだ。
「ちょ…あ…あぁ…」
弱いところを同時に刺激されて、腰が砕けてくる。
身体を寄せてくる当麻を、そのまま傍らのベッドに優しく横たえると、耳たぶを甘噛みした。
いつもなら、口づけてくるような体勢なのに。
――― 怒っている時って、キスしてこないんだよな。
ちらっと見えた瞳は、昨日よりは穏やかだったけど。
――― 箱の中身のせい?気になる…。
それが、きちんとした最後の思考だった。
***********
服を脱がし、「綺麗だ」とも「美味しそうだ」とも「可愛い」とも思う肢体を味わう。
指も、胸も、鎖骨も、脇腹も、唇を滑らし、快感を誘う。
感じやすい身体は、すぐに熱を発して反応する。
「…ぁ……あ………あ…」
良く知っている身体だ。
どこが感じるか、どこが一番気持ちイイか…。
だから、そこをワザと外して、その廻りだけを愛してやれば、どんな風になるか。
「せ…いじ…」
快楽の波を凌ごうと、息を荒くしているの様を愉悦をもって眺める。
きつく閉じられた眼からは、涙が滲んでいた。
「なぁ…」
高まりをみせているのに、一向に触れてもらえない。
なのに、腿の内側も、その実も、さんざんに遊ばれている。
「何だ…」
征士は当麻の手が、自身に伸びるの、掴んで止める。
――― 直接、触って欲しい…。
恥ずかしくて要求できない事。
いつもなら、口にしなくても分かってくれる事。
すぐに与えられる事。
そんな優しさを、今は見せてくれない。
言ったとしても、触れてはこないだろう。
ただ、啼かされるばかり…。
「…だ…から……ぁぁ…」
更に、追い詰めるように、奥にも指を這わす。
もちろん、入れずに。
入り口とその周囲を、悪戯に刺激しまくる。
「はっ…ああ…も…う……」
――― 欲しい
蒼く潤んだ瞳が、焦点も妖しいままに、征士を見つめてくる。
もう少しその様子を楽しみたかったが、自分も当麻の媚態に煽られてて、限界だ。
誘うように蠢くそこに、ゆっくりと進んでいく。
「アアアア―――」
待っていたからか、それ以上の享楽なのか。
喉の奥から、悲鳴にちかい嬌声があがる。
固く勃つ当麻を手に納め、腰と一緒に激しく動かす。
「!------ 」
求めていた刺激を与えられて、声にならない。
背を仰け反らせて、気持ちイイと訴える。
シーツを握り締めている手を征士の首にまわして、安定しない身体を預けた。
「せ……じ………・せ…じぃ……」
ひたすらに、名を呼ばれる。
それが限界を告げるようでもあり。
一際、深く穿つと、当麻を共に果てた…。
――― これだけ求められて、やっと軽んじられていないと安心できる…。
自分を不安にさせる事のできる唯一の愛しい人。
気を失したその人を、抱きしめて眠りに就いた。
**********
「おはよう」
声をかけられて、意識を取り戻すと、征士の腕の中で。
朝だった。
―――失神したまま、寝ちゃったわけか…。
「・・・お前の誕生日だが…」
――― それでか。
寝ぼけた頭だったけど。
あんなに怒り狂ったのが何故か、初めて合点がいった。
「そっか…。忘れてた。ってか、気にしてなかった。ごめん、征士」
――― 何か、考えてたりしてくれてたんだろう…。
素直に言葉が出た。
心から出た言葉って分かるようで。
それをきいて、征士が口づけてくる。
いつもの優しい光を湛えた瞳が戻ってきていた。
――― やっと、怒りが溶けた…。
「プレゼントは間に合わないが、ケーキだけでも買ってくる」
「ありがと」
「自分の事に、相変わらず無頓着なのだな」
「まあな…。でも、俺も征士の誕生日は忘れないぜ」
――― お互いが、自分以上にお互いを想っている…。
それが伝わって、嬉しくなった征士から、当麻はぎゅぅううううっと抱きしめられた。
Hの濃度としてはいかがなもんでしょうか?
2011.10.06 UP
by kazemiya kaori