■ Treasure Box 4 ・・・ トレジャー ボックス 4





出発前夜。
約束通り、ケーキを征士が買ってきた。
最近当麻の気に入っている店『Amuot-uotedemo』のデコレーションケーキ。
二人なのに18cmなのは、甘い物大好きな主役のためだ。

共に音痴なので歌わないが、幾つになっても蝋燭を吹き消すというのは定番だろう。
火が消えると「おめでとう」と微笑む。
「さんきゅー」っと言いながら、さっさと蝋燭を取り始めるのは、早く食べたいからだ。



「なぁ、征士」

切り分けられた6分の2個目のケーキに手をつけながら、声をかける。

「誕生日のプレゼントさぁ」
「あぁ、用意しているのだが、間に合わない。2か月先だ」

「んじゃ、それクリスマスプレゼントにまわしてよ。今欲しいのがあるんだ」

12月に入るまで戻ってこない恋人の我が儘。
もちろん、NOとは言わない。

「何が欲しい?」

当麻も、それがわかっていて、言っているのだ。

「あの箱の中身が知りたい」
「箱…?」


当麻にしてみれば、征士からの線引きを受ける事はほとんどない。
なのに、あの時「お前には、見せない」と言われた。
喧嘩中とはいえ、とても珍しい事。今まで、なかった事かも…。
それが、ちょっとショックで、多いに引っかかっている。

更に言えば、箱の中身を見ている様子も、気になった。
優しい想いが滲むような視線。
いつも、自分にしか向けられないはず、の視線。

「寄木細工のヤツ」

全部知りたいとは大げさだが、そんな事を要求してるような自分に、照れて少しぶっきらぼうになった。

それを見て、征士が嬉しくなってしまうのは、仕方のない事だろう。

「大切なものが入っているのだ」
「見たことなかった」

「隠していた訳ではないが、見せる機会があるとは思っていなかった」
「何が入ってんの?」

「お前と中違いした時に見る事が多いな。気を納める特効薬」
「…ふーん」


面白くなさそうな反応。
拗ねているような様が、あまりに可愛くて、ついつい勿体ぶってしまったが。
やめなければいけない頃合いも、長い付き合いでわかっている。


「今、見に行くか?」

立ち上がり、フォークを握っていない方の当麻の腕を取って、移動を促した。






引き出しから綺麗な細工の箱を両手で取り出し、チェストの上に置く。
それから、退いて当麻に引き渡した。
背後から、今日は優しく抱きしめて、蓋を開けるのを待つ事にする。


開けさせてもらえなかった箱が、今日はOKが出た。
満足気に、興味津津で、蓋に手をかける。


征士の大切なものが仕舞われている箱。

趣味の物?例えば…剣の鍔とか?小さな美術品?まさか宝石?
「女みたいな…」が喧嘩の地雷だったから言わないけど。
女みたいに綺麗な箱に収集って。。。と思ってしまった。


そうっと、蓋を開けると、写真やイラストが目に入る。


―――ハガキ?


あっと、認識した瞬間、当麻は顔と言わず身体と言わず、血が上り真っ赤になった。

「見覚えがあるだろう?」

―――あるも何も――海外に留学していた時に出したハガキ――。

十年以上前のもので、しかも筆不精の自分は、ほとんどポストカードを送るだけに近かった。


「これ…って…」

「離れていて、一番辛かった時を思い出すのだ」

抱きしめる腕に、自然と力が入る。

「どんなに愛しているか、も。そして、今がどれ程、恵まれているか…」

蓋を元に戻して、くるりと当麻を自分に向ける。

そして、ゆっくりと唇を合わせる…。

ケーキの味が残っていて、甘い。

「私にとって最悪ではないと、確信できる特効薬」

「お前って、ホントに…」

俺の事好きだよなぁ…と言いかけて。

自分以外に『大切な物がある』と思い、拗ねていた自分に気づいているから、口にするのをやめた。


―――俺も…同類かも…。


「俺達って、ホントに…」と言い直そうとしたが、深い口づけに消されてしまった。

誕生日当日に一緒にいられない分、前祝いを行うようで。

大きな手が、当麻の身体を優しく撫で続けている。

当麻は征士の背中に腕をまわし、そのお祝いを受取る事にした。


END


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設定としては、30代前半の二人でした。
フライングですが、お祝いお祝い!
最後に、とららさま、リクありがとうございました〜☆
書けて楽しかったです!

2011.10.07 UP
 by kazemiya kaori