■ 試薬が欲しい 3 
 




寝室に入って。その段になると。

珍しくも、ベッドに押し倒しているのは当麻だった。


「サービス、した方がいいんだろ?」


その様子を見上げつつ、それはそうだが、と征士は思う。

繰り返される口づけも、見せつけるように自ら上着を脱ぐ様子も…。



――― 愉しいが・・・、何か違和感を感じる。



互いに晒された胸を重ね、抱きしめ合いながらも。



例えば、不自然に急いでいる様な、何かに触れられたくない事を隠す様な…。



そう言った勘が働くという事は、きっと何かある。



頭の回転が速く、口も達者な当麻を相手にしていると。
悪意はないにしても、物事はそちらのペースで運ばれる事が多くなる。


だから、時折引っかかった時は、気をつける事にしている。
どんな、些細なことでも。


誤魔化すかのように、舌を絡める濃い口づけを繰り返す当麻を、味わいながら。
露わになった肌に手を滑らせ、細い腰と尻撫でながら。



「なぜ、当麻が行かないんだ?」



その言葉に、当麻の身体が一瞬、動きを止める。


――― 当たりか…


「もう、行った。以前、欲しい試薬があって」


サラッと言って、軽く流そうする当麻。
だが、征士が「そうなのか」と受け入れるはずもなく。
ヤキモチ焼きなのは、長い付き合いでよ〜く分かっているはずで・・・。



――― 何もないとはわかっていても。
      見知らぬ女と食事に言っていると知り、嫉妬するのは狭量であろうか?



何も言わないのは、大した事がないからだとは分かっていても。
一々、全ての事を話す必要なないとは思っていても。


笑顔で良かったな、とは到底言えない。
事後で聞いたならば、尚更に。



「不快だな」



魅惑的な裸体に惑わされずに、征士が不機嫌な声になる。


それを、宥める様に。
征士の雄に手を伸ばし、やんわりと包み込み。


「だから。今から『快』くなるんだろ?」


――― 何が'だから'だ。


紫色の瞳に険が立つ。


「怒んなよ、征士。お前、怒るとヤリ方がねちっこいからさぁ…」


気分的に、または意図的に、そうなる事も多いが。
事実を言われたからといって、この気持ちのやり場が他に出来るわけでもなく。
もちろん、当麻に向かうしかない訳で。


「試薬を手に入れるために協力させるのだから、覚悟していたのだろう?」


征士は、上に居た当麻をひっくり返すように組み敷いて。


その青眼を間近で見つめながら、人悪い表情で綺麗に笑って見せた。
















――― 腰が……溶け…る…


背後から征士に抱きしめられて。
侵入されて、ゆっくりと繰り返される動きが、頭の中まで掻き混ぜる。


「ぅ……んん…………あ………」


その時間が長いのか、短いのか。
他人の情事と比べることも、ないけれど。
やんわりと奥を貫きながらに、欲を擦り上げられ。


緩慢な波に翻弄される。


最初は、感じるままに気持ち良くなって。
次第に下肢に熱が集まり、解放を求めて疼きはじめる。
篭っていくしかない快感が、ぐにゃりと腰をとろけさせていく…。


「ああぁぁ…ぁぁぁ………」



声も掠れる程に。
啼かされているのに。
訴えているのに。
変わらない、征士からの優しい愛撫。

終わらせないように。
一番感じる内粘膜を、敢えて強く刺激しない愛撫。



ヤキモチ焼きの仕返しにしても、十分だと思う。



当麻自ら、耐えきれずに腰を動かそうとしても。
両腕で抱き締められて、制限を受け。
耳元に口づけをされながら、「まだだ」と囁かれる。



「………う……ぁ……ああ……ん…」



「ひどい」と口にしょうとするのに。
首筋に口づけされ、乳首を撫で上げられ、嬌声しか上げられない。


こうなると、どこを触れられても、ダメだ。
今まで性的に反応しなかった部分まで、中からの快楽と結び付けられて。
ぞわっとした刺激に変わり、甘い欲情を更に煽る。


腹を、胸を、内腿を。
好き勝手に動き回る指から。
波紋のように、場所を変えながら体中に広がり。
全身で、征士を、そして征士から与えられる快楽を求め狂う。


絶頂を迎えたいのに。
許されない。
甘い責苦。


ただ、煽るためだけに。
何度も、何度も。
ソフトに中を行き来する動きを与えられて。


「…あぁ…はぁ………、ん……」


こうなる事さえも、予見していたから自分からサービスを申し出たのに。
簡単にひっくり返られ。


「せい……じ……いか…せ…て……」


ゆっくりとしか動かされないその手に、自分の手を添えて。
強く早く刺激を欲する。


「とうま……………」


焦らすように抱いていた征士も、限界が近い。


背中から抱きしめている愛しい人は。
腕の中で、妖艶な程に乱れて。
交わった部分は、欲するように締め付けて。
解放を望んでいる。


些細な嫉妬であるがために。
口に出せずに燻った思いを晴らす、唯一の特効薬は。
自分を感じて発せられる甘い嬌声だったり。
自分を欲して仕方がないと言った媚態だったり。


存分に、味わったから。


やっと。
その人の望むままに。
奥まで激しく突き上るように腰を動かし。
同時に、当麻の欲を、自らの手が望むように強く上下に動かして。


「あああああ!」


程なく。


越えられずに苦しんでいたものが、溢れ出て。
身体の内側で、征士の脈動を感じながらに。
意識までもを、手放した。

 


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なんか、S気が強い様な・・・。もちっと、甘々がいいなぁ。

2011.12.1 UP
 by kazemiya kaori