心も精神も、たぶん魂まで。
互いを想い。支え合い。依存し合い。癒着し。入り込み、入り込まれ。混沌と。
どこまでが自分で。どこからがアイツなのか。
それほどまでに。長い時間をかけて、なった関係。なってしまった関係。
見えない部分であるからこそ、解らない程に深く結ばれている。
それは、線引きのように、ここまでが自分とハッキリと区分けできるものではなく。
あぁ、ここも。やはり、こちらも。と。
一か所一か所を見つけては、べりべりと引き剥がすような行為。
身を裂かれる程に、痛みを伴う作業。
想いを?思い出を?過去を。今を。未来を。
時間の長さと、想いの深さと、思い出の量に。
別れるために行う作業を想像し、裡の痛みに騒然となる。
気が狂うかも……しれない。
いや、もう、おかしいのかも……。
「せぃ……じ…、もっと………」
お前を忘れないでいいように。
求めれば、征士が愛情という名の快楽と、優しさという名の解放をくれる。
今までなら、満たされて、終わる行為。
幸せな時間。
それが、今は――――終わりに向けてのカウントダウンを意味していて、やりきれない。
後どれぐらい、こんな時を一緒に過ごせるのか………………。
■ Combat open 5
『美味しそうな肉をもらったから、今日夕飯を食べにおいで』と、伸から誘われ。
"最近ろくに食べてなかったな"と二つ返事で、当麻は招待されたマンションへやってきた。
伸の料理は上手し、最近征士のは食べられていないし、断る理由はない。
でも、それが幸いだと思ったのは、最初だけだった。
「先に軽く飲んでてね」
テーブルの上には、すでにワインとサラダとカナッペが用意されていて。
もてなし上手の罠が綺麗に張られていた―――事を当麻は知らない。
ワインに口をつけて、「んまっ」と言っている獲物を見ながら。
伸は、確かに痩せたと思った。
―――征士が、心配する訳だ
じゅうじゅうとメインの肉の焼ける香りがガーリックと共に広がり、食欲を刺激する。
時間を置かずに、好みのレアに近いミディアムに焼きあげたステーキが、当麻の前に鎮座した。
「いただきます!」
勢いよく、ナイフとフォークを手にとって、口に頬張る。
と。すぐに、その動きが止まった。
テーブルの向かいで同じような所作で肉を切り分けている伸を、恨めしい視線で見やる。
「・・・征士か」
肉の味でわかった。イベントの日なんかに、征士が特別に買ってくる当麻のお気に入りの老舗の牛肉。
伸は、手も止めず、にこりとして当麻の視線に含まれる小さな怨嗟を弾き飛ばした。
「美味しいそうな肉をもらったと言っただけで、僕はウソをついてないよ」
「うん。美味しい」と食べながらに間を持たせ、当麻の出方を伺う。
当麻にとって、いや仲間4人にとって伸は、1つ学年が上のためか、それとも育ちに寄るものか。
相談相手としてはこの上なく頼りになる存在。
一方で、話しくたくない事や隠しておきたい弱みをやんわりと上手に引き出されてしまう。
今の当麻にとっては、後者であることは明白で。
しかし、もう席についてしまっている時点で、どうする事も出来ない。
逃げられないよとでもいう風に微笑する伸を、諦めて見るしかなかった。
当麻が、観念した頃を見計らって。
「征士と何があったの?じゃないね。征士に何があったの?」
――― 流石に、良く判っている。
「征士が仙台に帰る」
「はぁ?そんな事一言も言ってなかったよ?」
予想外の台詞に、かなり間抜けな声が出て。
一回咳払いをしてから、諭すように話し始める。
「あのね、当麻。征士がね、君を離す訳ないだろ?寧ろ、征士は逆の心配してたんだよ。当麻がいなくなるかもって。だから…」
「でもな、仙台に帰るってのは、伊達の祖父さんとの約束だ。征士が約束を破るとは、思えない」
伸が全部言い終わらないうちに、当麻はヤケクソ気味に事実をぶちまける。
「確かに、征士が口にしたのなら約束は守るだろうけど。本当に言ったの?君の勘違いじゃない?」
いくらなんでも。そんな大事であれば、征士はまず当麻に話すだろうし。
自分に相談してくるはずがない。
「まぁ、電話で話してんの、盗み聞きしたようなもんなんだけど」
「なら。はっきり、聞くしかないんじゃない?どう考えたって、辻褄が合わないよ」
「誕生日に、話があるって言ってた。そん時に話すつもりなんだろう」
「なのに、それまでの間の君の行動がおかしくて、征士が僕のところに来たっていうの?」
どう考えてもおかしい事なのに。
――― 君の頭脳は、こういう事には働かないんだねぇ
伸は、こんなに痩せるほどに、精神的な圧を受けた当麻を可哀想だとも思うけれど。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」と、わざとらしく深いため息を吐き出し。
馬鹿な子供に話すように、ゆっくりと口を開いた。
「一回、征士と、きちんと、話した方が早いよ。どう考えても、君の思い違いだよ」
「そしたら――――決定的になっちまうだろうが」
ぽそりと洩らした呟きに。
そんな心配無用だよ!と大声で叫びたいのを堪えて。
「征士に迎えに来させるから」
この追い詰められっぷりに、ひとりで帰したら逃げかねないと直感し。
伸が携帯に手を伸ばすと。
「あ、コラッ」
征士が来るとの言葉を聞いた瞬間。
逃げられないと分かった当麻は、ワインボトルに手を伸ばし。
そのまま口をつけて半分以上残っていた中身を飲みほした。
依頼主が迎えに来た時、当麻は自分の思惑通りに正体が無い状態で。
椅子にも座っていられず、ソファに半分沈むように身体を預けていた。
「飲ませ過ぎではないか?」
言いながら。
征士は、正体が無くなくしてソファに沈み込んでいる大きな荷物を抱きあげる。
「勝手に飲んだんだから、責めないでよね」
「それで、原因は…………」
「征士が仙台に帰るって、お祖父さんと約束してるのを盗み聞きしたんだって。別れるのが辛いだって」
「………………………」
「当麻の勘違いでしょ」
「そうだな」
抱きあげている腕に、力を込めて。
やっと理由が分かり、ほっとするように表情を緩めている征士に。
役目を終えた長兄から、別れの挨拶がわりの嫌味が送られる。
「くだらない事に、僕を巻き込まないで欲しいんだけど」
でも。逃げ回る当麻を、惚れた弱みで追い詰めきれなかったのだから。
甘んじて受けるしかなく。
「助かった。ありがとう、伸。後日、説明と報告をする」
すまなかったという笑みで、礼を述べて伸のマンションを後にした。
ちょっと時間は開いちゃってごめんなさい。
当麻ひとり辛いまま、放置しててごめん〜〜。
2012.07.05 UP
by kazemiya kaori