■ Combat open 4
征士が、明らかにいつもと異なる状態だと自覚したのは、5月も半ばになってからだ。
明らかにいつもと異なっているのは―――羽柴当麻。
ゴールデンウィークが終わってから、忙しいらしい当麻とゆっくりと話す時間は無かった。
遅い帰宅が続いたり、泊まり込みで仕事をしたり、かと思えば早々と寝ている。
用意している食事も、手を付けたり、付けていなかったり。
今までであれば。
10日も続けば、『くそ忙しいっっ。』とか不平不満を漏らしつつ、ストレス発散の希望(我がまま)を言う事が多い。
例えば、有名パティシェのスイーツが食べたいとか、旨い飯(肉が多い)が喰いたいとか、ドライブに行きたいとか。
言葉数が増えて、寝る時間が延びる、といった傾向が見られた。
現状は、全く違う。
当麻からのこう言った要求は無く、それどころか、言葉を交わす機会が無い。
生活時間帯をワザと変えている様な、避けられているとしか―――考えられない。
原因が思い浮かばないから、困惑するのだ。
GWの旅行は、大層気に入って楽しんていたし。機嫌も良かった。
不快な事象があったとしても、小さな事であれば2・3日で普通に治るし。
自分に関係ない事であれば、愚痴の一つも零すというものだ。
それが、今回はない。
統合して考えれば。原因は不明だが、自分に関する事で。
しかも、触れられたくない事なのか、または話すのが面倒くさいのか。
何らかしらの理由で、話したくないと察するが。
過去に。一度、こんな風になった事があった。
最終結果は良かったものの。
追い詰め過ぎたのか、そこに至るまでにえらい目に遭った。
との、昔の苦い経験が、征士の脳裏によぎり。
どうしたものか、と考えながらに。
まだ、腕の中にいるのだから。
救い様があるはずだと、思う。
それは、自分なのか当麻なのかは、わからない。
―――― どちらなのだろう?
ひとりの世界で当麻が思考を始めると、征士には思いもよらないスピードで回り始め。
想像もつかない結果を生んでいる事がある。
取り返しのかない結果を出される前に、なんとかしたい。と。
10日ぶりに、「たまには、しようぜ」とアルコールの芳香を漂わせながらのキスをされて。
「何を考えてる?」とベッドの上で訊ねても、「せいじのこと」とはぐらかされて。
酔いに任せて、答える気が無いのは見てとれた。
常に触れていたいと思う恋人の素肌に久々に感じて。
欲のままに、当麻の望むままに貫いたものの。
こんなに真意を、想いを、掴めないままに、身体を合わせた事はなかった。
でも、抱かなければ、余計にやり場のない不安を煽られるのは必定だ。
親しんだ身体からは、脳隋が痺れるほどの快楽が伝わるのに。
幾ら名前を呼んでも。
高い声で啼かせても。
「もっと……」と強請られても。
元々の薄い腰が、更に骨ばっているを感じて。
征士は、夢中に溺れていく事はできなかった。
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あの夜から、一週間後。
思い余った征士が、会社帰りに伸のマンションを訪ねた。
「当麻がおかしいのだ」
「いつものことじゃないの?」
「私が、伸にこんな事を頼むのは初めてではないか?」
「確かにね。少し話を聞こうか?」
先程、電話で訪ねていいかと連絡した時の内容だ。
当麻がやって来て、ぎゃあぎゃあ騒いでいく事はあっても。
二人が付き合い始めてからこうした形で、征士が伸の処に来る事は今までなかった。
また、もし何らかしらの事があれば、当麻がやって来ていただろうに。
それも、ない。
つまり、それほど'おかしい'のだと。
その険しい声と経緯は、十分に物語っていた。
―――― まったく…世話のやける
伸が、リビングに征士を招き入れると、さっそく話し始められる。
「具体的には・・・そうだな。とにかく避けられている。話をしようとしないというか、その時間を作らせないような行動をとられる。」
「けんかとか、なにか怒らせているんじゃないの」
「いや、心当たりがない。それに、生活上の業務連絡みたいなのは、あるのだ。しかも酒が入ってる時は、妙にご機嫌だ。」
口には出さないが、GW以降、素面でない当麻を抱いた記憶がない。
する時は常に酒を飲んでいる状態。
そんなこと、今まで、ない。
「直接聞けば?」
「それも考えたのだが、たぶんはぐらかさすだろう。しかも、下手に私から動くと、手の届かないところ、海外とかに逃げそうな・・・気がしないか?」
昔の事だが、征士の落ち込みようを伸は覚えていた。
「かもね。当麻は自分が結論出すまで、かまわれるの嫌がるからねぇ」
当麻がここにかけ込んでくるのは、自分で答が出たのに。
納得できない事や予想外で落ち着かない方法しかなくて。
ストレス発散するために来るのだ。
「頼みというのは、これを口実に当麻から聞き原因を出して欲しい」
そう言って。
仕事用の鞄とは別に持っていた紙袋を、伸に渡した。
受け取りながら、中身を見ると。
食材らしきものが包装紙に包まれており、ワインも入っている。
「まぁ、僕は、征士みたいに甘くないから、はぐらかされないけどね」
饒舌に話す事も。
仕事帰り、しかも11時近くに、仲間とはいえ人の家を訪問した事も。
征士にしたら、珍しい行動だ。
伸は、切羽詰まった感を見てとって。
「早速、明日にでも、仕留めてあげるよ」と諾の返事を返した。
困った時は、伸にいちゃん。これ、常識です(笑)
あと、2〜3回、続きます。
2012.05.24 UP
by kazemiya kaori