思い出すのは、日常のささいな楽しかったこと・嬉しかったこと。
こんなにも、征士に愛れて、満たされた日々。
こんなにも、離れたくない自分。征士を愛してしまっている自分。


でもそんな風に征士を育ててくれたのは、伊達家な訳で。
帰るときが来たら、感謝こそすれ引き止めるわけにはいかない。






■ Combat open 3 
 






結局。当麻は家を出るのが遅くなり。
連休明けだという事で、溜まっていた海外からの仕事をさばくのに時間がかかり。
更に、余計な事も考えらりしていたので、なかなか終わらず、深夜に帰ってきた。
征士には遅くなる旨を連絡しているので、先に休んでいるはずで。
リビングは明かりがついているが、寝室は暗くなっていた。


――― 顔を見ないで、言葉を交わさないで、ホッとするなんて


ケンカしたときとは違う、深い安堵感が、逆に自分の現状を強いてくる。
考えないようにしたいけれど。やはり、止まらない。
本来、自分は考え込む性質なのだった。


入浴を済ませたのに、しばらく考え込んでいた為に身体が冷えてきてしまった。
夏には早いこの季節は、朝晩はまだ肌寒い。
ベッドに潜り込んで、先に寝ている体温高めの人物に暖かさを分けてもらおうと擦りよると。
無意識の征士が、腕を伸ばしてきて、抱きしめられる。


――――― お前さぁ、こんなに俺の事好きなのに……


好きなのに……に続く言葉は、『別れるの、な』。

その決定的な一言を聞くのが怖くて、当麻は逃げ出したかった。
ホントに、海外とかに逃げたい。と。
歳がまだ20代も前半ならば、そうしたかもしれない。(実際一回やっている)


ただ。もうすぐ30歳にもなろうかというのだから。
いい加減向き合わなくてはいけない問題で。
うやむやにしたら、きっと後悔する年齢で。


――― わかってる


だから、その時を待っている。
自分から聞きて、すっきりしてしまいたいような気もするし。
聞いたが最後、となる関係を知っているから―――訊くのが怖い。












それから。問題に向き合うのを先延ばしにするように。
当麻は征士から逃げ回っている、に近い状態を続けた。
最初の日に先に征士を寝かせておいて言葉を交わさない、という事に味をしめ。
ずっと。先に帰って寝てしまうか、遅く帰る、もしくは帰らないで研究所に止まる、等で日々を誤魔化す。


しかし、余りにも続くと不審に思うだろうから、時々は、征士の起きている時間に帰る事も織り交ぜた。
―――ただし、その時は、かなり酒を飲んでから。
そうすれば、おかしいと聞いていくる相手に、まともに答えなくて済む。酔っぱらいで済むから。


今も。
玄関まで迎えに出た征士に。
酔ったままに、抱きついて。


「こんなになるまで、飲むな」とお小言を始める唇に、自分からキスをして。


「たまには、しようぜ」と身体を密着させる。


確かに。セックスになれば、問い詰められる事もないだろうけど。
それをさせない為に誘う訳じゃない。
酔って心の閂がゆるむと、触れたくなるのが止められない、からだ。
避けている分、今まで潤沢にあった触れる事の暖かさと熱さに、飢えてしまう。
もう一緒にいられる時間が短いから、と思えば尚更だ。


――― 例えるなら、死期の近い家族との関係みたいなものだろうか。


酔った頭で、そんな事を考える。
そばにいると別れが切なくて苦しい。だけど、もう、一緒にいられる時間は限られている現実。
だから、貴重な一瞬一瞬を感じるために傍にいたい。


――― ・・・そう、俺たちの恋愛は「死期」が近い。


「何を考えてる?」


ベッドまで抱きかかえるように連れて行かれ。
口づけの合間に、いぶかしむ様な視線で見下ろされても。


「ん〜、せいじのこと」


腕を伸ばし、征士の首を引き寄せて。
もっと、と続きをせがむ様な仕草を見せると。
少し諦めたように、紫の瞳が閉じられ。
次に開いた時は、欲だけを孕んだ色に変わったのが見て取れた。








身体中で、征士を感じながらも。
まだ残っている意識は、別の処にむかってしまう。


自分で考え、落ち込み、追いこんでしまう。
悪い癖。自嘲するが、止まらない。
いつも止めてくれていた征士にも、話せない。
当麻は、常に知性と理性でうごいている。
だから、感情が心の中で爆発してあばれれば、治める術に疎い。
コントロールが効かない。


――― だから、イヤだったんだよ。
     こうなるのは、なんとなくわかってた。
     だから、最初「恋人」になるのにも抵抗があったし。
     電話の後に、記憶を封印してたんだ。


「当麻、当麻!」


集中していない事をわかっている征士に。
名を呼ばれながら、激しく責め立てられて。


「………あぁぁぁ……はっ……」


快感に追われながら、感情のはけ口にするかのように、高い声で啼いて。


――― はやく、やき切れてしまいたい


そう思いながら、征士に縋りついた。









 


   ←BACK   NEXT →
■ 征当倉庫 TOP

なんか、当麻、可哀想?
(可愛い当麻になるはずが、可哀想な人になってきた、ような……)

2012.05.22 UP
 by kazemiya kaori