「せーじ いる〜?」
素面(しらふ)のままで。
勇気を出して、玄関のドアを叩いたら。
アルコール特有の香りをまとった征士が、扉を開けた。
■ 飲まずには いられない 2
「飲んでんの?」
「あぁ」
いつもと同じように、上がり込んで。
部屋の奥にふらふらと向かう征士の後に、続きながら。
珍しいな、と思う。
コイツは酒が嫌いじゃない、むしろ好きだというのは知っているし。
アルコールに強い体質なのも知っている。
ただ、『酒はたしなみ、楽しむものだ』と常に言い。
べろべろに酔っぱらって訪ねる俺に小言を並べるヤツが。
足元も危うい程に、独りで飲んでいるなんて――初めてだ。
リビングに入り、ローテーブルの向かいに座ると。
目元が紅く染めてた綺麗な貌が真正面にあって……惹きこまれる。
見様によっては愛らしく、見方によっては妖艶で。
何を思っているのか分らないは雰囲気を発しながらに。
グラスの酒を呷る征士は、視線を合わせようとしない。
普段のキチンとした居住まいは影も形もなく、無防備で。
やっとキチンと話をしに来たつもりなのに。
すぐさま、近寄って押し倒したくなっちまう。
見たことのない、隙だらけの征士。
で、その隙間からは、色気が駄々漏れ。
口説くのは、いただいた後でもいいのだろうかと思案するが。
それだと今までと同じになっちまう。
だから、ぎゅっと握りこぶしを作って踏みとどまる。
俺の葛藤など、全くわかっていないだろう目の前の麗人は。
「なかなか旨いぞ」と、日本酒を別のグラスに注ぎ勧めてくる。
「旨いけどさぁ」
受け取ったグラスは、唇を湿らせる程度に口をつけ。
すぐに、テーブルに置いた。
飲んでる場合じゃない。
「けど、なんだ?飲まないのか?そう言えば、お前は飲んでいないのだな…」
珍しいと言外に含みを持たせた言い方は―――。
毎回飲んだくれて訪ねていたのを、責められているような気持ちにさせられる。
はい。反省してますよ。
何度も何度も、肌を合わせたけど。
来る度来る度、酔っぱらってて。
そのまま、押し倒してました。
と言うのも。
初めてが、酒の勢いのままでヤっちゃって。
まぁ、征士も憎からず想ってくれてたのも、感じて。
あの日は、幸せに浮かれて帰ったものの…………………。
一人になって考えれると。
「憎からず」がどの程度なんかがわからなくなった。
征士が女と付き合うと言った時でさえ、どうかんがえても自らアプローチしたわけではないし。
憎からず思っていた程度で、押し切られ付き合う事になったのだろう。
その流れのままで、あの時女は寝室にいたんだ―――。
じゃぁ。
俺は違うのか?
何をもって違うと言えるのか?
正直、不安になった。
一回きりでもいいと、酔った頭で考えてた自分はもういなくて。
一度触れて味わってしまえば、手離す事なんて無理だ。
執着が増せば、増すほど。
真剣に想えば、想うほど。
征士を望めば、望むほど。
征士が。
俺をどの程度、想っているのかは見えなくなった。
なんで受け入れてくれいるのかも、解らなくなった。
だから。
飲んで、箍が弛まないと。
勢いが付かないと。
恋人面で訪ねられなくて。
そんなこんなで、今日まで来てしまった。
いつまでも続けられないと。
一か月間の葛藤の末に、素面で口説きに来たわけで。
かなり、かな〜りの勇気を出して。
飲まないでアパートを訪ねれば。
征士が、ぐでんぐでんに酔っぱらいってる。
それは、アルコールで潤った唇から。
信じられない台詞が出てきた事でも、証明される訳で。
「酒がいらないのであれば、セックスでもするか?」
「ちょっ、ちょっと、たんま」
そ、そりゃ、シタイケド!
今日は、先に話をするって自分に課しているんだって。
本当に酔ってんだな…。
征士からセックスに誘われるとは思わなかった。
「酔っていなければ、無理か」
ぽつりと呟かれた声が、卑屈な嗤いを含んだような気がして。
『無理じゃない』『むしろ、素面な方が自信あります』って、即座に否定したかった。
なのに。
答える前に邪魔が入った。
――― トントン ――― 「征士、いるんでしょ?」 ―――
無粋に間に入ってきたノック音と、女の声。
おぼつかない足取りで玄関に向かう征士の後を、あわてて追いかける。
俺の時と同様に。
征士が無言で扉を開ける。
と、見覚えのある女が、ドアの内側に滑り込んできた。
――― まだ……続いてたのか…………!!!!!
沸き上がった嫉妬が、一瞬で沸点に達する。
やっぱり、来るもの拒まずなんだろうか………。
俺だけのモノにしたいのに。
征士にとっては。
俺も、言い寄ってくる相手の中のウチの一人なんだろうか……。
誰に何と怒りをぶつければいいか、分からないままで震えていると。
「もう 話す事はない」
「私はあるわ。理由もなく付き合えなくなっただけじゃ納得できない」
征士の邪険な口調と、女の台詞で。
理性と思考が状況把握に動き出す。
素面で良かった――素早く理解できる。
征士は別れたつもりで、女が食い下がってる。
そんな状態だろう。
地面にめり込んでいた気分が、一気に浮上する。
誤解の衝撃から、早々と立ち直り。
勝手に追い払う協力を、申し出たのは―――純粋な独占欲。
「俺が新しい恋人だからだ」
女に向かって、宣言する。
手放したくないってのは、強く共感できるけど。
――― 征士は俺のモノだ
「こ、恋人………本当なの?」
「男に取られたってのはプライドを傷つけるから、征士は黙ってたんだ。
しつこくすんな、さっさと帰れ」
ヘタレな羽柴さん登場w
ヤルことやってるのに、約束守ってないwww
2013.07.24 UP
by kazemiya kaori