■ 飲まずには いられない 1… 「酔っぱらいの本気」と「しらふの戸惑い」の続きw
仙台から送られてきた地酒の栓を開ける。
ブルーの瓶はスタイリッシュで、口当たりも軽く飲みやすいと評判の日本酒。
グラスになみなみと注ぎ、一気に飲み干す。
喉越しはまろやかで。
甘い芳香が鼻から抜け、直ぐ様、喉も食道も熱を帯びた。
二杯目は、もう少し味わうように。
ゆっくりと口に含み、舌にのせる。
旨い素直な酒は、水のように飲めるものだ。
杯を重ね、一升瓶が半分以上減った頃に。
遅れてきた酔いが、頭と身体に回ってきたのを感じ始めた。
――― 飲まずにいられるか
片や。
素面で口説きにくると言った馬鹿者は、その言葉を守らず。
ふらりとやって来る時は、常に酔っぱらった状態で。
部屋に入るなり、私を押し倒し。
最初の時と同様に、欲を吐き出す行為を求める。
片や。
もう付き合えないと話をした女性は、その言葉を信じず。
大学で顔を会わせる時は、彼女らしき所作を作り。
当然という態度を見せ。
叱責すると、納得できる答えを聞かせろと執拗に食い下がられる。
どちらかと言えば、前者の方が気になる比重は高いが。
どちらも、私にしたらやっかいな問題、しかも、自分が苦手としている感情面での問題だ。
だから。
――― 飲まずには いられない
言っても聞かない女性も辟易するが。
言うべき事を言ってこないヤツの方が、腹立たしい。
無理矢理に近い状態で、人を好きなようにしておいて。
『好きだ愛してる』と真面目な蒼い目を作って、言い募ったあげく。
素面で口説きに来ると宣言した馬鹿者は、素面でここを訪ねた事などないのだ。
あれから一月が過ぎようとしているのに、一度も。
しかもその間、忙しくて訪ねて来られないという訳でもなく。
来る時は、必ず酔っ払ってくるという体たらく。
しかも。
同じような行為と言葉を繰り返し――最初の時に感じた真剣は気のせいだったのではないかと思う程の――軽薄さで触れてくる。
一体。
羽柴当麻は、何を考えているのだろうか。
酔いがだんだんときつくなってくる。
ふわりと、散漫になった思考で。
泥酔したら、当麻が此処に来る気分が分かるだろうかなどと思う。
よほど、私は約束が守られない理由が知りたいのだ。
それほどに。自分は、当麻の言葉を信じて待っていたし。
………想ってしまっているのだ、ろう……
そんな風に。
あの馬鹿の事を考えてしまう自分に笑えてくる。
地面から浮くような感覚の酔いは。
腹立たしさも悩みも、小さな笑いに変える。
どうでもいいことにしてくれる事もあるようだ。
その寛大な気持ちを楽しもうとした時。
何故、酔った時にしか当麻が現れないのか。
口説くと言った約束が守られないのか。
答えが導き出された、ような気がした。
推測するに。
私との関係はどうでもいいことなのだ。
初めて当麻に組敷かれた時に、私を傷付けたりしないとは感じていたが。
この行為は、アイツにとっては傷付けることには含まれていないのだ。
きっと。
気心の知れた友人だというベースがシッカリと在る分、許される範疇だと、酔いに任せおおらかになった脳が判断を下した。
悪意はない、のだ。
ただ、私が想っている程に。
重みも真剣みもなかっただけだ。
何故、同性である男の私に手を出したかと言えば。
女性特有の手に余る我が儘を、私は要求しないからだ。
自分がそんな目に遭って辟易している所だから、理解も及ぶ。
面倒がなく、アルコールに浸っている時はまぁ許されるだろうと思える、都合の良い存在。
だから、当麻は酔っていないと私の所に来ないのだ。
それが、1ヶ月経っても。
素面で告白になどやって来ない、理由。
ずっと待っていても、何も起こらないし。何も変わりはしない。
だが、私にとっては酷い話で。
気づかないで過ごしていれば、何の問題もなかった気持ちを知ってしまい。
特別になってしまった男への想いを暖め。
口説くと言った台詞を信じていたのだ。
独り相撲もいいところで。
知らない内に、ファルスの主役を演じてしまっていたのだ。
当麻には、悪気も真剣味もないのだから。
私から、それを強要する気はないし―――できない。
深く繋がる度に囁かれた『好きだ』との言葉に。
耳元で告げられ、切ない程に喜んだのに。
セックスする時の常套句かと分かると――興醒めだ。
強い憤りも、深い悲しみも。
心の裡に沸いているだろう、自分。
それなのに、酔って感情の分別さえも上手く付かなくて。
乾いた嗤いが込み上げるだけだ。
己が愚かだと結論が見出だされた時。
ドンドン
玄関の扉が、無造作に叩かれ。
「せ〜じ、いる〜?」
軽薄な酔っ払いが、いつものようにやって来たのを知った。
9999のリクでいただきました「酔っぱらい〜」の続きです☆
こんな感じで4回ぐらい(予)続きます!
お付き合いくださいませ^^
2013.07.19 UP
by kazemiya kaori