「俺が新しい恋人だからだ」
当麻の「恋人」発言。
真顔で彼女に対峙したのは、真実味を出す為ではない。
彼女が驚かされたのは当然だが、少なからず、私も動揺したのだ。
隠す為に無表情を装ったのだ。
――― 咄嗟の嘘
何故か……ひどく悲しかった。
ただ、彼女がさっさと去ってくれたのは、助かった。
■ 飲まずには いられない 3
演技とはいえ。
ふてぶてしい性格が作った発言は堂々としていて、説得力があった。
手慣れた様子で私の腰に腕を回してきたのも、功を奏したのだろう。
そういう意味で、今までの濃厚な接触が無駄ではなかったとも思える。
普通であれば納得できない「同性の恋人」発言が、意外にも受け入れられたのだから。
酔いが一向に醒めない頭が、ゆるゆると現状を分析している。
後で彼女の口から周囲へ波及するであろう『同性恋人』事件を、冗談だったと弁解をする必要があるが。
濡れ落ち葉のように張り付かれていた女性からの解放が、正直有難かった。
今は。
当麻が気転を効かせてくれた事に、素直に感謝しなくてはいけないのだろう………。
結局。
私はこの男に助けられるのか。
前回も、そうであった。
彼女との関係において、最後まで踏み込めないでいた私の窮地を救ったのも、当麻だった。
あの日から一か月。
『好きだ愛してる』などの彼の戯言にずっと困惑させられていたが。
最後に助けられてしまったのだから、これで良しとして吹っ切らなくてはならないだろう。
ちょうどいいタイミングだった。
彼女の件も、当麻の件も。
一気に片が付く―――― スッキリ………できる。
自分の中では、納得いかない感情を抱えながらも。
腰に腕をまわしたままの男に、取るべき行動を告げた。
「当麻、お前も帰ってくれないか」
暫く、距離をとればいいと思う。
所用だと理由をつけて会わずにいれば。
継続的になっている不似合いな関係を、解消できるのではないかと思う。
気軽にストレスと性欲を解消する相手になれと云われても、もう困るのだ。
私は―――馬鹿正直に特別な言葉を待っていたのだから。
これ以上。
当麻の勝手な価値観によって作られた関係を――純粋に友人でもなく恋人でもない関係を、続ける気はこれっぽっちもなかった。
一か月たった。
引き際だろう。
自分の想いが……空回りしかしないのなら……もう手離すしかない。
「へ?」
飲んでいない筈なのに、理解が出来ないらしい。
告げた言葉に動こうとしない当麻を、促す為に。
もう一度、言わなければならない。
虚無感と哀愁が喉をせり上がり、声は硬く冷たくなった。
「帰れと言っている」
「帰れって言われて、はいそうですかと帰る訳ないだろ。
言われて帰るぐらいなら、征士のとこには来ないって」
相変わらずよく回る口が、言外に意味を含ませる。
それが何を意味しているのか、汲み取ろうとするのも疲れる。
「もう、いい! 帰れ、そしてもう来るな!
私は、これ以上セックスに付き合う気はない!」
噛み合わない会話に、声を荒げて。
一方で、自分の発言をいぶかしむ。
――― セックス……というのか、あれを?
……いうのだろうな。
挿入行為があったという意味では、セックスなのだろう。
深い愛情が存在しなくても。
男同士でも。
「さっきは、自分で誘ってたじゃん」
「忘れろ。気が変わった」
腰にまとわりついた腕を引きはがし、捨てるように離した。
真横に見ていた瞳を、正面から睨みつける。
いまだにアルコールに犯されている視覚野は。
二つある青色を、空とも海とも思わせるほどに深く魅せる。
懐かしく愛おしい、古来の人間が憧れる色彩。
――― この色を、もう間近で視る事は無くなるのだ。
「辛そうな貌しながら、なんでそんな事言うんだよ」
「辛くなどな――」
途中で。
抱きつかれ、言葉が止まってしまった。
やはり。反応が遅くなっているのだろう。
引きはがした腕が伸びてくるのが見えたのに、動けなかった。
そして。
当麻の言葉に―――更に動けなくなる。
「俺は、帰らないしセックスもする。
正式に付き合う前から、別れる話みたいな貌すんな。
お前は俺に口説かれて、これからもずっと一緒にいるんだよ。
……俺さ、素面で口説きにくるって言っただろ」
「今頃か?」
「今頃だよ。
遅くなってごめん。
って、覚えていたって事は……もしかして待たせちゃった?
でもさ――俺にもココロのジュンビってもんが…」
「心の準備……お前がか?」
今の今まで。
好き勝手に振る舞ってきた男が。
心の準備――――――。
「おいっ。なに笑ってんだよ」
不覚にも。
身体が震えるほどに、笑いが起きた。
そして。
抱きしめられた暖かさを。
やっと、素直に実感できる。
――― この暖かさは嫌いではないのだ
ひっさびさの続きです!
お話ちゃんと繋がっていると、信じてUP(笑)←コラッ
本当にマイペースで書かせて頂いてます!
お付き合いありがとうございます^///^
2013.12.06 UP
by kazemiya kaori