■ Treasure Box 1  ・・・ トレジャー ボックス  



「女みたいな事言うな!」

このセリフに、キレた。


一瞬手が出そうになったが、拳に力が入っただけで動きはしなかった。

――― 殴っても何の解決にもならない…。

ましてや、愛しくてやまない人物であれば、躊躇するもの当然だろう。

もう10代20代ではないのだ。勢いだけで、という事は少なくなった。

ただ沸点に達した怒りで、いつも視界に入れておきたいはずの顔を今は見ていたくない。

目の前で自分と同じような怒りを溜め込んだ蒼い瞳を睨みつけると、無言で寝室に向かった。




共に暮らして、既に10年近く。

最初の内は、生活習慣の違いやら何やらで衝突する事もあったが、今はそう言った事は少なくなった。
変わりに、ケンカの原因となるのは、お互いの我が儘や思い込み――アイツならこうだろう的な――。
多くはないが、時々、二人の間に波風が起きる。

今回の場合は、当麻が長期出張の予定を、知らせていなかった事。

普段の征士なら、忙しくまたお声の掛かる事の多い当麻の出張について、寂しいものの口を出す事はない。

だが、先程訊いた日程は、『気をつけて行って来い』と笑顔で言えるものではなかった。

10月7日から、約2か月間。
しかも、今日は10月2日。

こんな長期の出張が、5日前などに決まる筈はない。

―――蔑ろにされている…。

征士は当麻に甘い。
それは本人も分かっている。
だからと言って、「何時のタイミングで言ったって、予定は変えられないから」と切り捨てられるような言い方をされてまで、平穏でいられるほどではない…。



しかも7日からならば、当麻は自分の誕生日の前に出発してしまう。

実は、当麻の誕生日に合わせて、プレゼントを用意していた。
正確には注文済みで、前々日に仕上がるので取りに行く予定だった。

―――喜んでくれるだろうか?驚くのだろうか?

勝手だと言われれば、勝手にではあるが、とても楽しみにしていたのだ。
内緒にしていて、サプライズを…。
何年共にいても、おざなりにはしたくない。
楽しい時間をなるべく共有していきたい。

そんな想いまで、否定されたかのようで。
とても悲しかった。寂しかった。

出張よりも、自分の気持ちを分かってくれない事が、怒りに変わったのだった。



――― 一人でいたい…。

きっと、今、口を開いたら、責める言葉しか出てこないだろう。

同じ思いなのか、一つしかない寝室に、その日当麻は入ってこなかった。


  


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愛しすぎが裏目に出るパターン(笑)

2011.10.06 UP
 by kazemiya kaori