■ 一緒に暮らそう 2 ・・・ 最初のお話。征士大学4年の11月。





当麻が、帰ってくるのを待っててくれるのは、とても嬉しい。
だが、自分の家に帰っていくというのを見送るのが、途轍もなく寂しい。

扉に青い髪が消える瞬間。
わかっていても。
大袈裟でなく感じる喪失感。

やっと海外から帰って来たからだろうか。
離したくない思いが強すぎて、自分でも戸惑うぐらいだ。

また、誰もいない家に帰る当麻を想像すると。
人の気配が無い静かな家は、冷たく感じるだろう。
更に、帰したくなくなる。



予定していた箇所まで終えた征士が、パソコンの画面の電源を落とすと、日付が変わっていた。
さっと風呂に入り、ベッドに潜り込む。
普通のシングルベッド。
広くはないはずだ。
身体つきは小さくなく、むしろ背も肩幅も大きい。

なのに、もの足りないのは。
ここ三ヶ月間、「狭い」とか「暑い」とか言いながら眠る日が多いから。
抱きしめたり、抱きしめられたり、腕まくらをしてみたりしながら、過ごすから。

贅沢が日常に変わってきている証拠。

だから。
とても寂しい…。




一緒に住みたい。
当麻が帰ってきてから、切実に思うようになったのだ。

就職を東京に決め、春から社会人となる。
その時には、実家の持ち物であるこのマンションを出ようと以前から思っていた。
収入も手にする事となるのに、親の世話になるというのが自分には受け入れがたかったし、何よりも仙台に帰る気がないのに、伊達のマンションに居続ける事は憚られると感じていたのだ。

伊達家嫡男には、十分な仕送りがあるのに、アルバイトをする理由は引っ越し費用の捻出するために他ならない。
ようやく、そちらも目途がついてきた。




「征士、何か食わしてくれ」

3日ぶりに現れた当麻は腹ペコで。
いつもの様に、冷蔵庫にあるもので簡単に用意をする。
今日はきのこのホイル包み焼き。胡椒をきかせた秋の味覚で、当麻も好きなものだ。
すぐに出来上がり、ご飯と共に出すと嬉しそうに食べ始めた。


テーブルの向かいでその様子を、眺めながら。
ずっと続けばいい。と思ってしまう。

――― 当麻はどう思っているのだろうか?

でも、征士は悩まない男なのだ。

自分の想いは、よくわかっている。
そして相手の想いは、相手のもの…。

ならば、言葉で問いかけるしかないのだ。
想像も予想も予言も、できないし、しない。

「当麻」

自分でも、驚くほどに真剣な声が出た。

熱々のアルミホイルをもうちょっと開けようと苦戦していた当麻が顔を上げ、少し驚いた表情になる。
――― それ程に、真顔だったのだろう。

「春になったら、一緒に暮らさないか?」

ここ数日、高まりに高まった思いが、やっと言葉になった。

「別にいいぜ。真剣な表情してるから、何事かと思った」

「軽いな」

いいとの返事だが。
悩まないまでも、口に出すには労力がいった台詞だ。

この温度差に、感覚の違いに、いつも驚かされる。
それが、楽しくもあるのだが…。

「重くしてどーすんだよ。21、2歳でプロポーズか」

征士も、流石にそこまでは思っていなかったのが正直なところだ。
ただ一緒に居たいと、思ったままを言っただけだった。

実際、よく考えてみれば、そうなるのかもしれない。
当麻の方が、本質を掴んでいる…。

「まぁ…そうなるのかも、しれない、な。」

なのに。

「俺は勘弁だ」

「傍にいたいし、帰る場所になりたい」

「ははは。やっぱ、プロポーズだ〜」

茶化す様にしか笑わない当麻。
想い合っている相手と一緒に暮らす事は、結婚という形式はとれないが、まさにソレだと思うのだが。
征士の綺麗な顔の眉間に、縦皺が入る。かなり、茶化され不機嫌を顕わにした。

その不満顔に答える様に。

「飯食べるのに、一人じゃない方がいいかなってぐらいで考えときたい」
「一緒ではないのか」
「違うだろう」

当麻の中では、違うらしい。
その感覚は本人しかわからないから仕方がないものの。
ならば、どこが違くのか、何が嫌なのかを知りたいと思うのは当然だろう。

「では、なぜ勘弁なのだ」

すると、当麻はう〜と言葉にならない音を発した後。
席を立ち、テーブルの向いの征士の所まで来た。
そして、にっと笑ってから、征士に口づける。

「一緒に暮らすから、追求すんな」

そう言って、深く追ってこようとする征士の舌から逃れ、また食事に戻った。

こんな時の当麻に訊いても、自分の納得する答は帰ってこないので。
(むしろ、分からない基準で話をされて、ケンカになる時がある)

今日の所は、追求を止めておく。
口の中に、キスの名残で胡椒の味が残っている。

―――きっと、一緒に暮らしても、ピリッとした辛さが少しあるのだろうか?

そんな気がしながらも。
春から一緒に暮らせる幸せを、感じる事にした。

END



  


    ← BACK       
■ 一緒に暮らそうTOP
■ 征当倉庫 TOP 

プロポーズ失敗(笑)

2011.10.25 UP
 by kazemiya kaori