■ 抱かない男 【前編】
征士が俺とシなくなった。
大丈夫か?と言うぐらいにしつこかったのに。
突然にシなくなった。
何をというと、ナニをである。
この春、お互いに無事大学に入学し、東京で生活を始めた。
東京での学生生活は征士からの提案もあったのだが、もともと俺はこっちの大学にと思っていたし、親のマンションもあったから別段異論はなくて。
また、そのマンションが征士の住む予定の伊達家所有のマンションも意外と近くて、行き来には便利だった。
もともと、同室で友情の範囲を飛び越えてしまっているからか、近くにアイツがいるってのは、考えてたより快適だった。
不在がちな、というかほぼ放任の両親のおかげで1人暮らしには慣れていたけれど。共同生活を送った後の1人暮らしってのが意外とつまんなかった。
だから、大阪で過ごした高校生活時には、物足りなさってのを時々感じていたのだ。
それがこっちに来てからはなくなった。ましてや征士だから、1人になりたい時はわかっているようで。なんとなくが通じる「楽さ」ってのは他の誰にも感じたことがない…。
それがスゴイ事だってのは、わかってる。きっと、アイツに言わせたら「愛しているから」とか、臆面なく言うのだろうけど。
だからと言って、俺からは愛の告白なんかはしてやらない。
そんな訳で。
征士とは、いわゆる身体の関係はあるけど、恋愛ではない、はず。
柳生邸で一緒だった時から、変化はない。
俺が拒んでるだけだって、恐いぐらいの美貌な真顔で言われた事もあるけど。
(もちろん、拒否)
それって、必要か?
特別っちゃ、特別で。
いい関係で。
でも、人様に大っぴらに言う必要もない事で。
なんで、そんな言葉にこだわるのか分んないし。
(なんで俺がそんなに嫌なのかは言ってやらないけど)
押し問答も、3、4年も続けば流石の征士も疲れたのか。
この状態でもイイって言うようになったので、いいのかなぁと思っているんだけど…。
それが、関係しているのか、していないのか。
少し前から、征士が俺とシなくなった。
以前は、俺のマンションに遊びに来て、飯食って&飲んで、馬鹿な話でもして・・・。
最初は、そのままベッドへって感じだったんだけど。
いやベッド以外でも、シてましたけども。
最近は、シないで帰っていく。
何かあったかときいても、「何もない」というし。
「する?」とかストレートに誘っても、「今日はいい」「しばらく、自粛する」とか返事するし。
「その若さでEDか?」とか聞いたら、酷く凄まれた。(きっと光輪剣があったら、切られたかも)
「俺だって、溜まるっちゅうねん」とキレかければ、口だけでイカされた。
ゾクッとするような、綺麗な笑みを浮かべて、美味そうに飲み込みやがる。
――― ・・・変態。
征士の不可解な行動はよくある事で、それが楽しかったりするのだが、今回のは、何なんだかよく分らない。
征士恋愛論から言えばそういう気持ちがないとシなくなるそうだが、恋愛感情がなくなったとも思えない。
というのも。その辺は変わってないっていうか、まぁ俺、愛されちゃってる訳ね。
―――ほぼ毎日顔見にくるし、ちゅーとかは普通にするし、飲みやがったし、飯の面倒見てくれるし―――的な日々を送っている。
だから、ひっかかる…。
アイツのことだから、絶対的な理由があるに違いない。
ただ、全く見当つかないのが、悔しいやら、気持ち悪いやら。
なんとかして、原因を知りたいって思う。
別に、シタイからじゃなくて。
どちらかっていうと、好奇心ってヤツで。
探求心がむくむくと大きくなっていくのがわかった。
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私にとって東京での生活は、学問は基よりだが、当麻の近くにいたいとの強い希望がかなってすこぶる嬉しいスタートとなった。
逢いたいと思えば―――毎日だが―――逢える距離がたまらなく嬉しい。
一緒に住もうかどうしようか迷ったのだが、どちらも親がらみの住まいが提供されているので無碍にもできず、別々にしたが近いので問題はない。
高校生活を真面目に耐えきった自分を大いに褒めたいと思うのだ。
ほぼ毎日のように顔を見れば、やはり触れたくなって、シたくなって…。
今まで離れていた分を取り戻すかのように、シまくっていたら、ある日気づいてしまったのだ。
当麻のポイントと言うか、スイッチに。
もともと感じやすい体のようだとは思っていたが、確実に今までとは違う、強い艶を招く箇所があるのだ。しかも、いくつも。
スイッチを入れたら、どうなるのだろう?
興味はあるけれど、そこで悩んでしまう。
今だに恋人ではないと言いはる、頑な当麻。
私にしてみれば、『中途半端』な関係が続いているのだが、彼なりのこだわり、もしかしたら心的外傷の様なものがあるのだろう。
何らかしらの壁をつくる相手によがり狂う姿を見られたいか?
そんな風に抱かれて、当麻の矜持はどうなのであろうか?
――― 案外と、平気かも知れん・・・
当麻の思考回路に、通常予測は使えないから。
だが、自分であるならば、耐えられん。とも思うし。
スイッチをいれたら、そのまま性欲処理だけの関係になりそうでイヤなのだ。
身体だけの関係を望んでいるわけではない。
―――なので、しばらくというか、耐えうる限り、やめよう。
幼いと言われようが堅物と言われようが、きちんと言葉に欲しい。
私に対しても、自分自身に対しても。
言わなくても通じる事の多い関係であればこそ、ききたい言葉があるのだ・・・。
意固地な程に、口にしない自分の感情――気づいていないだけなのか、自覚したくないのか・・・。
待つとは言ったから待つが、現状のままなら進まない。
もしかしたら、以前、伸に「征士にしては順番飛ばしてるよね」といわれたのも気になっているのであろう。(伸にはばれている)
だから、よい機会かもしれないと思いつつ。
どちらにしても、今は機を見るかの如くに、動かずにいる事しかできない。
当麻が不思議に思っているもの知っている。
でも、素直に教えてなどやるものか。
少しは、私の事で悩めばいいのだ
後編は、タイトルに偽りありですが(笑)
2011.12.07 UP
by kazemiya kaori