■ 青い眼の愛しい人 4 ・・・ 記憶がなくとも、抱きしめる
寝る時になって、当麻が上に圧し掛かってきた。
青い眼がいたずらっ子っぽく笑っている。
そして、軽く頬に口づけたと、唇に触れてくる。
昨日とは違う深いキス。何度も何度も、逃がさないように、私の顎を掴んだまま。
「してみようぜ。征士。思い出すかもしれないからさ」
濡れた唇を間近で見て、男相手なのに、色っぽいと思ってしまった。
「それで、思い出したら、スケべぇだといわれるのだろう?」
「そうじゃなくても、すごいスケベぇだったから、安心しろ」
そうだったのだろうか?だから、昨夜大笑いされたのか?
「まかせていいか?」
「もちろん」
正直、抱く側と抱かれる側、どちらなのか興味もあったが、当麻にきいたとて「思い出せ」しか言われないような気がする。
抱かれる側なら恐怖もある。だが、どちらかがそれを受け入れなければ成り立たない関係なのだから、今さらだ。
ならば、任せてしまえ。
*****
征士をベットヘッドに寄りかからせて座らせると、その上に跨る。
少し上から征士を眺める。あんまりない角度だよなぁ。と思いながら、何度もキスした。
絡める舌が、いつもより硬い。征士、緊張しているみたいだ。
「初めてするみたいだな」
「初めてみたいなものだ。お手柔らかに」
受身な征士ってのも、珍しい…。
いつもは、絶対主導権をくれないからできないけど…今なら、ヤッちゃえるかな?
まぁ、変な思いさせて、記憶が戻らなくなったらイヤだから、しないけど。
それぐらい考えてないと、やってられない。
たどたどしく俺を抱きしめてくる征士。
戸惑っているような。
どうしていいか、分からないなんて、あるのかよ。お前が。
征士の首筋を舐めながら、徐々に唇を降ろしいく。パジャマのボタンをはずして胸にも脇腹にも。
どうしていいか、わからず、されるがままの征士。
「うっ」
ズボンと下着を引っ張ぱり、いきなり口に入れてやった。
ひとしきり舐めてから、「気持ちいいだろ?」と上目使で聞いてやる。
ドキッとしてるかな?
「征士」はそうされるの好きだもんな。
「ああ…」上ずる声がかえってきて、ほくそ笑む。
俺の口の中で、質量の大きくなった征士も気持ちいいと応えている。
征士の上に、ゆっくりと腰を降ろしていく。
ほぼ愛撫されていないから、ちょっとキツイなぁ。
行為自体はなれているものの、こんな状況は初めてで。
なんか犯してるみたいだよな。とか思いながら。
普段はあんまりしてやらない事ばかり、大サービスだ。
最後まで納めてから、動き始める。
自分のイイところを刺激するように、少し角度をつけて。
・・・気持ちいい。
「どっち…だと思っ…てた?」
動きながらだから、息もあがる。
「か…考えてなかった…」
あまり反応も動きも少ない征士。
表情だけは、気持ちよさそうだけど。
ちがう抱かれ方は、新鮮で少し興奮するかもしれない。
そう誤魔化してみたけど、やっぱ、寂しい。物足りない。
いつもみたいに、煽って快楽を引きずり出してくれよ。
いつもみたいに、しようぜ、征士。
「征士」がいい。
言葉にはしないけど、ならないけど。
快楽のためか、違うのか・・・涙がこぼれ落ちる。
閉じていた目を一瞬開けると、気持ちよさそうな、何かを伺うような征士の視線と合った。
*****
その眼をもっと見たい。
普段は明るい聡明な青色なのに、少し寂しげな蒼い色になる時がある。
なぜその眼が、私の心の奥を引っ掻くのだ?
実際、頭の奥が引っ掻かれたように痛くなる。
記憶の蓋を開けようとするかのように。
なのに身体は気持ちいいと、もっと当麻を感じたがった。
思い出せない。
息があがり、記憶も何もかもどうでもよくなって、快感を追いたくなる。
私の身体が当麻とのセックスを覚えているのか、快感を追いたいだけなのか、自然と腰が突き上げるような動きを始める。
「・・・ぁ、は・・・。・・・う」
自分以外のリズムの刺激に、当麻が息をもらす。
その声をもっと聞きたくて、自ら動いている当麻の腰骨に手を添え、強く引き寄せた。
「ああぁぁあ」
快感が強いのか、一瞬ぶるっと身を震わせて、動きを止める。
なのに、中は…イヤらしく蠢いて締め付けてくる。
「す…ごいな……」
病みつきになりそうな刺激を欲して、何度も何度も繰り返し当麻を追いたてた。
苦しそうに縋りついてくる身体を抱きしめながら。
「…もう…イキ…ソ…」
耳元で吐息とともに艶っぽい声がする。
当麻が自身に手を伸ばすのを、上から共に握り締め、扱く。
ぎゅうぎゅうと私を促す様に、私を包んでいる箇所が煽動を繰り返す。
「私も…」
お互いの波が一つになり、欲を解放した。
ゆっくりと繋がりを解き、「当麻」と声をかける。
呼ばれて目を開けた当麻の瞳を見入る。
あの蒼色を探すように、確かめるように瞳を覗き込む。
「きっと思い出す。だから、そんな悲しそうな眼をするな」
気だるい眠気に抗うように話しかける。
やはり、あの時の猫との眼に似ている・・・そう思いながら、眠りについた。
会社帰り、もう少しでスーパーだという、小さな三差路にうずくまっている物体があった。
その物体―――猫と目があった。
寂しそうな蒼い目。
首輪をしている、きっと家がわからなくなったのだろう。
蒼い目で、寂しそうにされると、どうしようにもない。
昔の当麻の顔が浮かぶ。胸の奥が痛くなるような感覚。
私は、気がつくと、猫を抱き上げようと手を伸ばしていた。
大人しく抱きあげられたのは、ケガをして身が竦んでしまったからだろう・・・。
突然、一方の角から自転車がでてくる。結構なスピート。手には携帯電話。こちらを見ていない。
危ない!
猫を抱きあげ、よけようと後ろに飛びのく。
一瞬猫があばれ、逃げないように意識した瞬間、バランスを崩した。
自転車をかわせはしたものの、勢い余って背後の壁に、頭をしこたまぶつけてしまった。
ぐらりと視界が揺れて、暗くなる。
・・・夕食は、当麻の好きな・・・にしよう。米を研がないと足りない・・・。
そのまま、記憶がなくなった。
目が覚めると、また、隣に寝ている当麻を背後から抱きしめていた。
―――私の大切な蒼い眼の当麻
無意識でも抱きしめる、当麻への愛の深さを我ながら褒めてやりたい。
そして、更に強く抱きしめ、うなじに口づける。
このくらいでは、一向に目を覚まさないのは知っている。
いつものように着替えると、リビングからキッチンへ。コーヒーと朝食の用意。
買い出しもしていないが、料理もあまりしていないから何かあるだろう。
・・・スクランブルエッグとサラダと、パンでも焼いて。何か果物は?
コーヒーには、砂糖たっぷり。
「おはよ〜」とあくびをしながら、当麻がリビングに入ってくる。
起こされずに起きてくるのは、私を気にかけてくれているからだろう。
甘いコーヒーを飲むと昨日のように尋ねられる。
「記憶、もどったのか?」
一瞬、戻ってないふりをしようかと思ったが、昨日の悲しげな蒼い瞳を思い出して正直に答えてしまった。
「すけべぇだからな」
END
最後のセリフを言わせるためのお話でした!
2011.09.07 UP
by kazemiya kaori