Special
スペシャル

『羽柴当麻の本気』

とらら様から後をまかされたら、とんでもない話になりました【風宮香】
 



「本気でこいって言ってんだろ?」


先程までの軽妙さとは、相反する雰囲気を醸し。
寧ろ、凄味を効かせて。


「だろ?」


追い打ちをかける。


その台詞に、暫し征士は怯んだものの。
すぐに反撃に転じてきた。


「ど、どうせお前の事だから、ベッドの上でなどと考えているのであろう」


――― 図星………(※1)

※1 それは風宮宅の羽柴さんです。
とららさんちではありません。

「それ以外での本気とやらを、見せてみろ」


迫力に押されてしまった動揺を隠すように。
引き攣りながらも、征士がふふんっと鼻で笑いやがった。


――― かわいくねぇ


「分かった。じゃぁ、それ以外での本気、だな」


負けず嫌いの俺は、受けて立つしかないだろう!





   ************************





『それ以外の本気』―――つまり、如何に征士に本気で惚れているかを示すってわけで。
本人に、分かり易く理解できるような形がいいのだろう。
つまり、眼に見えるのが手っ取り早い。


そう考え。
言い合いになった翌日から時間を作って、すぐに行動に移った。
具体的には、役所に届け出用紙をもらいに足を運んだのだ。
(※2)

※2 ネットでは無理だった時代背景。





そして週末に、夕食の用意を自分から申し出て。
ちょっとだけ豪勢なディナーにした。
といってもデパ地下で買い込んだモノだけど、征士にいつもと違うと伝わればよかった。


食事が済んでから、珈琲を給仕した後で。
ダイニングテーブルに、おもむろに用意したA3サイズの紙をテーブルに広げる。


「ずっと一緒にいよう、征士。だからサインして」


限りない永遠を誓うための、公的な用紙。


こういった書類には、左右どちらに名前を書くのかによって。
その後の立場が異なる。
だから―――「どっちの欄でも、いいから。好きな方に書いてよ」と、付け加えた。


どっちかが右側に書くことになるんだから、自分としては場所はどちらでもいい。書類上の立場でのこだわりは、特にない。
もちろん。征士との関係が、記名する場所や用紙の提出で変わるとも思っていない。


目の前の用紙を見入る切れ長の涼しげな紫の瞳が。
次第に大きく丸くなっていく……。


そんな顔されると、幼く感じて愛しさが増すから。
実は、驚かせるのがとても好きなんだ。




「よ……………養子……縁組届?」




多分、婚姻届けだと思っていたんだろう。
同性のカップルで、20代で養子縁組するのは珍しいと思う。
でも。
俺の本気が、提出できない形式だけのものであるはずがない。
骨の髄まで、征士への想いで溢れてる。


届出用紙から、視線をこちらに向けられたから。
『本気だぞ』と、真摯に見つめ返す。


「これが、俺の本気」


「お前の本気はわかった……。だが、今すぐでなくともよいか?」


戸惑うのも、よく分かる。
まだ、俺たちは学生生活を終えたばかりで。
サラリーを得る立場になったとはいえ、男女のカップルでさえ即結婚とはなりにくい年齢だ。
更に『婚姻』ではなく『養子縁組』という形式になるのだから。
即答は難しいと分かっていた。


「いいよ」


本気が伝われば、いいよ。
急がないから。


当人である俺達の意識が、一番に大事なんだけれど。
こういったことは、親族に事前に相談すべきだと分かってる。
征士のような家柄なら、尚更だ。


もっと言えば。
別に、提出しなくたってかまいやしない。
形式には、拘らなくてもいい。




ずっと一緒にいよう。
この想いが、本気だと伝われば良かったんだ。




そして。
征士からの『今すぐでないのなら』という返事に安堵させられる。
ゆくゆくは、提出するのもやぶさかでは無い――。
つまりは。
コイツも共に生きていくことを、望んでいるという事。
それだけで、自分は大いに幸せだ。



だから。
この後に、更なる幸せが付いてくるのは――なんのご褒美なんだろう。

征士へ本気が伝わり、『今すぐでないのなら』の答えに喜んでいた俺に。
耳を疑う程に、歓喜させる台詞が届く。


「その代わりに、私の本気をみせてやろう―――ベッドの上で」


「まじ?」


公的な縁を結ぶと言う腹をくくった俺に対する、即決出来なかった後ろめたさからか?


どんな理由にしても。
その申し出は、もちろん、有難く受け入れる。


満面の笑みを浮かせて――――。





   ************************





ベッドの上での、征士の本気。


その甘言に浮かれて。
いわれるままに先にシャワーを浴びて、寝室で待っていると。
おそろいのバスローブのままで征士があらわれた。


「当麻はそのまま、横になっていればいい」


征士が乗りかかって来て、うっとりする様な口づけを交わすと。
柔らかい舌の感触とこれからの期待に、下肢が昂ってくる。
その変化を感じて、征士がバスローブの裾をはだき。
露わにしたペニスに愛撫を加えはじめる。
口内に含まれてねっとりと舐めあげられ。
口に納まりきらない幹と実は、指からの快感で満たされて。
めったにない、過剰で執拗な接触に。
早々と。吐き出したいと、無くなった理性が訴えてくる。
息を吐き出しながら耐える自分の立場は、いつもと逆だ。


なすがままでいると。
首を動かす征士の揺れる金髪と白い項が、網膜に焼き付いてきて。
自分の所有欲を満たされ、そのまま性欲を煽って仕方がない。


『限界、挿れさせて』と言おうとしたら。
絶妙のタイミングで、身体を起こし跨ってきた。
――― よく分かっていらっしゃる





自分に負担のないペースで腰を落とし、俺を最後まで呑み込んでいく。
全部が繋がると。膝と使って、ゆっくりと征士が身体を上下に動かしはじめる。

そこまでは、ありえる事だったのに。

慣れてきた頃合いで、一瞬動きを止め。
見下ろしたままで、征士がにやりと嗤った。


「あっ、すげっ」


急にペニスを包む内壁の圧が高まり。
纏わりついてきて、奥へと誘い込まれる様な錯覚。


「んっ」
「…っぁ」


征士も、気持ちがいいんだろう。
眉間の皺が深くなってきている。


快楽を絞り取られる様な感覚に、指先までが熱くなって。
激しい血流が身体中を駆け巡っているのが分かる。
でも、一番解けそうに熱いのは繋がっている場所だ。


たまらず突き上げると、「はっあ」と壊れた音階の声がエロく響く。
それなのに動きは休まるどころか、一層激しくなっていって………


――― げ、限界、かも………


「ちょ、せ……いじ、たんま」


いくらなんでも、早すぎる。


「…………な……ぜだ……?」

「もう、持たないから」

「我慢する事は…………ない」


俺の手を取ると、自らの性器に導き握らせる。


何も言葉にしなかったが、征士の欲に潤んだ瞳は。
一緒にイきたいと訴えてて。
そんな顔されると……ますます、だめだ。


征士の動きを邪魔しないように、手首をシェイクすると。
ますます粘膜が怪しく蠢いて、熱の濁流が全てを持っていく。


ぎりぎりまで追い上げられていたから。
一気に限界を超える。


「ッア!」


己の事に集中しすぎてて。
自分の指先が濡れ、征士がほぼ同時に達したのを後で知ったぐらいだった。









荒い呼吸が納まってから。
身体を離した恋人に。


「こんなの初めて〜」


どっかのバカ女が言う様な台詞を、自分が言うとは思わなかった。

早々とイカされてしまった照れ隠しだけど。



――― でも。ホント。初めてでしたよ。
    すごい『本気』をいただきました…



何年も続いている俺たちは。
たくさんえっちをしている関係だったから。
つい疑問が口に出る。


「なんでいつも、こうしないんだ?」


「長い時間触れ合っていたいからに、決まっているではないか」


なるほど。
征士さんが本気を出すとミコスリハンになっちゃうんだもんなぁ。
そりゃ、ちょっとお物足りないわ。お互い。


隣に横たわっている顔を覗きこめば。
征士は、照れたように少し赤っていたりするもんだから。

――― かわい過ぎるだろっ

完全に、お手上げです。


「お前の本気、凄かった」


「負けていないであろう?」


お前が負けず嫌いで、良かった!
心の底から思ったけれど、口には出さない。
その代わりに。


「勝ったためしがない」


そう笑いかけてから。


「リベンジさせて」


征士を抱き寄せて、頬にキスを送ってから。


こっちの本気も、見てもらう事にした。

終わり

******************************

とらら様、すみません。
と言いつつも、楽しかったです(笑)
ありがとうございました!




Special に戻る
はじめに
 戻る



25th SAMURAI TROOPERS