「いや?」 当麻が聞いたのは、差し出した手を征士が握ろうとしなかったからだ。 「普通、手などつながないだろう」 憮然として応えると、あまり周囲を気にしない恋人は人の悪い笑みを浮かべた。 「そうでもないぜ?暗いし、誰も見てねえよ。 それに、その手、冷たそう」 夜景のきれいな、ということでクリスマスイルミネーションの輝く夜の東京で今夜はデートとしゃれ込んだ。案の定、通りはカップルだらけである。 「みんな自分たちのことしか考えてねーって。ほらほら、手袋忘れた人は素直に俺のポケットの中に手入れろって」 しぶる征士の手が半ば強引に当麻のポケットに入れられる。ダウンジャケットのポケットの中は、確かに外よりはるかにあたたかい。 「・・・あたたかいな」 「だろ?」 お前の手が冷たいんだよ、と当麻が答える。 幾分低血圧のきらいがある当麻も指先が冷たいときが多々あるのだが、それは食事を丸一日以上抜いたときとか、ひどく緊張して何か仕事をしているときだったりする。いつだかテレビゲームに熱中しているときの指が、ぞっとするほど冷たくて、怒ってゲームのハードの、コンセントごと抜いて説教をしたことがある。 食事と、少々のアルコールが入った状態で、リラックスしているのだろう、今夜の当麻の手はあたたかい。 指をからませて握った当麻の手から、逃れるように征士は手をひいた。 「ちぇ、なんだよ」 「・・・やはり、手をつなぐのはやめだ」 「なんで」 「・・・欲情するからだ」 立ち止まった当麻はたっぷり数秒ほど、それは見事な間抜け面をしてみせた。 ************************ 終わり |