当麻&征士 Love Valentine 2014
「ニゼロイチヨンゼロニイチニ」
Act.2 Evening
by 陵 桜華 さま
仕事を通常よりも早めに終え(会社から帰宅指示が出た)、駅前のスーパーに寄ることもなく真っ直ぐに帰宅した私は同居人の発言に驚かされた。
「なあ、褌着けたことあるか?」
「あるにはあるが」
趣味だとか実家の慣わしだとかという理由ではなく、褌を身に着けたことはある。子供の頃に祭で身に着けたというレベルだ。このレベルならば日本に巨万といるだろう。
「小田急百貨店行ったんだよ」
「新宿まで行ったのか」
「ちょっと本屋も行きたかったし」
「で?」
「そしたらさ、売ってたんだ」
「何を?」
「褌」
「褌を?」
「そう」
「何故?」
「褌の日だから」
「いつ?」
「今日」
「今日?」
「そう」
同居人の解説によると、本日2月14日は日本ふんどし協会が認定した”ふんどしの日”だそうで、何故2月14日なのかというと”2(ふたつ)”と”10(とう)”と”4(し)”で”ふんどし”なのだそうだ。
「チョコもいいけど、ふんどしもね。だってよ」
売り場を写真に収めてきたとスマホの画面を見せてくれた。
なる程。確かに、その様なポップが掲げられている。
コピーが書かれたポップも珍妙だが、更に珍妙なのが、所謂”顔はめパネル”である。
失礼ながら、若干萎びた観光地に設置されているイメージのあれで、写真に収められているものは、ふんどしを纏った男女ペアがモデルのようにポーズを決めている姿である。
「顔を入れてきたのか?」
「いや。独りでしたら変だろう」
二人でしても変だと思う。
「で?」
「ああ。もちろん」
言うな。
「買ったよ」
見せるな。
「俺が青で、お前が緑」
出すな。
「ちょっと勇気が無くてさ」
広げるな。
「どうも一人で試すのは」
存分に一人で試せば良かったではないか。
「帰るの待ってたんだぜ」
帰宅指示が出たのは16時半頃。そこから真っ直ぐ帰宅したので、まだ時間は早い。夕飯の支度に急いで取り掛かることもない。
だが、褌に取り掛かる必要もないように思う。
「せーの、で着替えようぜ」
デニムのボタンに掛かる手を私は止めた。
「待て。締め方は知っているのか?」
しまった。これでは褌に興味があるようではないか。
おっと、そうだった、と同居人は店頭に置いてあったというパンフレットを取り出した。
「一番簡単で、抵抗なさそうなのを選んだから」
褌にも種類があり、褌と言われて一般的に想像される締め込み姿の威勢のいい男衆が締めるものは、六尺褌という。一本の紐状の布を締めるためフィット感が良くずれにくく祭向きだが、日常向きではない。用を足すときに面倒だからだ。
前面に布が垂れ下がる、所謂、赤フンの形状が越中褌という。腰に紐をくくりつけ、布を尻から股にかけて通し、腰に結わえた紐に引っ掛けるというだけのシンプルな形状で、通気性がよく日本の夏に最適だ。
「俺が買ってきたのが、これ」
もっこ褌。
腰紐と長方形の布が組み合わされた形状で、その点では越中褌と同じと言えるが、紐と布が初めから縫い付けられている。パンツのゴムが、紐でできているという具合で、片方の腰で紐を結べばよいだけだ。
いよいよ、良くない展開だ。
ここまできてしまっては、断る理由が無いではないか。
褌姿で人目に晒されるわけではなく、二人しかいない居室で着用してみようというのだから、恥ずかしさとは無縁だ。
片足を入れて腰紐を結ぶだけの形状ゆえに、困難さとも関係ない。
帰宅後、コートとジャケットを脱いで手を洗っただけで着替えていない私は、ワイシャツ・ネクタイに褌姿という変態的様相に陥るわけだが致し方がない。
私は同居人に目で決意を伝えた。
「Let's fundoshi!」
同居人の掛け声で、私達はそれぞれデニムとスラックスを脱ぎ、パンツも脱ぎ捨てた。
流れる動作でテーブル上に広げられている褌に手を伸ばし、片足を入れ、紐を掴み、キュッと粋に布が擦れる音をたてて紐を結んだ。
「ほぉ」
・・・悪くない。
同居人は、「へぇ」「おお」と幾つかの感嘆表現を発しながら前屈みになってみたり、振り向いてみたりと装着感の確認に余念がない。腰紐を結んでいるので、しっかりと締めている感覚はあるのだが、鼠蹊部にゴムが入いっていないため緩やかで開放感もある。
「なんか、これ。ブリーフとトランクスのいいとこ取りって感じだなぁ」
は、は、はしばの、きん○○○、かぜもないのに、ぶ〜らぶら
と調子よく音程の外れた鼻歌を披露するほど気に入った様子だ。
因みに、伏せ字箇所だが、正しい歌詞は”きんどけい”であって”きんた○は”ではない。
なる程、大事な箇所を締め付けない開放感はあるのだが、スーツの下がこれというのは、どうも安定感というか、仕事をする上で姿勢を正す感じがいまいちしないのが納得行かない。
「私は仕事では遠慮する。それに、トイレで無駄に話題になりそうだ」
「そうだよなぁ〜。前開きじないパンツって普通にあるし、窓使わないで横から引っ張り出すのも普通だけど。何かの弾みでケツが見えて、伊達さんは変わったパンツ穿いてますねって言われるのも困るよな」
臀部が縦ひも一本になるのは六尺褌で、越中褌ももっこ褌も、ふんわりと隠れる形状なのだが、ゴムで固定されているわけではない為、何かのはずみでTバック状態に陥る危険性はゼロではない。。
金髪、独身、Tバック。
いかん。
絶対に、ダメだ。
社内で話題になりすぎる。
「仕事ではダメってことは、家ではいいってことだな」
「まあ、そうなるな」
「風呂上がりに着る?」
「そうだな」
「朝、パンツに履き替えるのか」
「忘れず履き替えねば」
「手伝うぜ」
「赤子ではないのだ。一人で履き替えられる」
「忘れたら困るだろ。だからさ」
それ以上言うな。何年過ごしているというのだ。
貴様が言いたいことが分からん私ではない。
「夜の間に脱がしておいてやるというのだろう。それには、及ばん」
「なんだよ。せっかく親切に言ってやってるのに」
「そうではない。この風通しのよい形状だ。少し布をずらせば、着用したまま挿入可能ではないか」
「伊達サン。何年過ごしてても驚かせてくれますわ」
「それは、新鮮で良いことだ」
「では早速、実験に取り掛かりたいのですが」
「なる程。そちらの準備は万端のようだな」
「では、実験はベッドで」
「望むところだ」
(終)
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