当麻&征士 Love Valentine 2014



「ニゼロイチヨンゼロニイチニ」
Act.1 Morning


by 陵 桜華 さま





何年、何十年と共に時を過ごしても、青いたれ目の同居人の発言には驚かされる。
「褌いっちょでベロタクシー乗り回してさ、ANAの搭乗口まで漕ぎ着けたんだよ。そんで、搭乗チケットをどこから出したと思う?」
朝のコーヒーを楽しもうとザッセンハウスのコーヒーミルを操りながら、同居人の突拍子もない問いに回答する私は律儀だ。
「下帯を緩めたら券が出てきたのか?」
「そうなんだよ。横からぐいって引っ張ったら、ぺろんって出てきたんだよ。よく分かったな。さすが、征士」
「それで、飛行機には無事乗れたのか?」
「いやぁ。すげぇとこからチケット出てくるな。何で、こんな所にチケット入れてるんだ、って驚いた所で目が覚めた」
何故そこで疑問に思ったのだ。褌姿でベロタクシーを操縦しているという自由過ぎる夢なのだから、そのまま飛行機に乗れば良かったものを。それに、ベロタクシーは運行エリアが規定されているのでANA搭乗口(羽田空港か?)に乗り付けることも現実には不可能なのだが。
「もう、食べるのか?」
「いや。とりあえずコーヒーだけでいいよ。朝飯はいつも通り征士だけ先に食べてくれ」
フリーのプログラマーである同居人は、世間が寝静まった頃合いに面白いロジックが思い浮かぶことが多いらしく必然的に夜更かしになりがちだ。ただ、最近では夜更かしに体がついてこなくなってきたのか、夕食を摂取した後、22時頃に目蓋が落ち始めて一眠りし、夜更け前の3時に起床して一仕事、その合間にデスクでうたた寝をするパターンが増えつつある。
サラリーマン生活を順調に送る私は、出張などの予定が無ければ決まった時間に目覚め、ほぼ決まったメニューの朝食を摂取し、決まったパターンで身支度を整え、仕上げに安らぎとエネルギー補充のためにコーヒーを淹れる。そのコーヒーはインスタントではなく、ザッセンハウスのコーヒーミルで挽いた豆で淹れなければならない。
豆腐屋か新聞屋のように3時に起きて一仕事済ませた同居人だが、まず何かを飲んで胃袋を起こさないことには食事が食べられないため、私が淹れるコーヒーを味わい、私を見送ってから朝食を摂取し、私の分の食器も含めて後片付けを行う。
そして、天候を判断したうえで洗濯機に命令をするのである。
「今年も寄って帰ろうか?」
「ん〜。天気次第だな。無理すんな」
バレンタインだからと今更騒ぐ私達ではなく、祭りの夜に最寄り駅近くにある24時間スーパーに寄り、祭り用に集められたが用いられることなく売れ残った品を買い求め、普段は店頭に並ばないため味わえない物を堪能するのが慣わしとなっている。
「予報では、今日の雪も降り続いて積もるそうだな」
「4時ぐらいから降ってるぞ。俺、積もる前に買い出し行くわ。先週みたいに、ひもじい食卓は嫌だし」
先週土曜日は東京でも雪が積もった。
しかも、何十年ぶりの大雪で30センチ近く積もったのだ。
天気予報で雪が降るとは言われていたが、車で出掛けるのにも支障が生じる程の積雪になるとは思っておらず、大袈裟な天気予報だと二人してうそぶいていた。
結果、天気予報は正しく、嘗て天空の戦士と名乗っていた男の”天を感じる力”はすっかり錆びていることが判明した。
「ああいうのって、やっぱり少年じゃないと発揮できない力なんだなぁ。オッサンには無理だわ」
ちなみに、嘗て水滸の戦士と名乗っていた男にメールで確認すると、周囲の水が凍える感覚がしたので金曜日の会社帰りにホームセンターに立ち寄り、雪かき道具を買い求めたそうで、感覚が鋭敏か否かは年齢ではないことが立証された。
なお私の場合だが、気象よりも心の光と闇に敏感なのは幼い頃から継続して変わっていない。
それが負担で人付き合いが苦手だったが、ある程度大人になると、どうすれば敏感にならずに接することができるか己の心をコントロールできるようになり、社会人生活を支障なく過ごすことができている。
「そうだな。先週は、食材が乏しくなってしまった。では、頼む」
日経新聞を手にトイレに籠もる。本日も快便なり。
これもいつも通り。


(終)


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