征士&当麻Secret Valentine 2014
● Erotic ●
by スズシロさま
眠りに落ちてしまった当麻は無敵だ。
無敵なほどに、絶対起きない。起きない。何があっても起きない。だから征士は出来た事だった。
当麻が不動の横暴なまでの眠りの淵からようやく意識が覚醒に向かった時、体中が違和感を訴えた。
「!?」
腕が軋む。脚が動かない。目を見開いているはずなのに、目の前は真っ暗。
「−−何だっ!?」
思わず声を上ずらせて叫び、手足の自由を取り戻そうとするが、無駄だった。何か革のバンドのようなもので固定されているらしく、軋む音がする。当麻は慌てて身をもがきながら、昨晩の事を考えた。
バレンタインの夜に、ブランデーを征士とともに飲んで、そのあとベッドで夜更けまで楽しんだ。ごく自然に眠たくなって一緒に寝て−−。
背中に感じる感触は普段使っているベッドのものだった。
ならばここは征士と二人で暮らしているマンションに違いない。
「征士っ! そこにいるのか? 何の冗談だ、早く俺を放せっ!!」
このイタズラは征士が仕掛けたものだと判断し、当麻は怒鳴った。恐らく自分の縛られた−−しかも裸体の−−その姿を間近で征士は観賞しているはずだ。
「放せっ!!」
「起きた早々、元気がいいな。普段寝坊のお前とは思えない」
沈着な征士の声が返ってきた。
「何のつもりだよっ!」
「……」
返事はなかったが自分の下肢に何か冷たいものがかかってきた。
「っ!?」
ひんやりとしてぬめったその感触に当麻は思わず全身を引きつらせる。
征士が当麻の下半身にローションをかけているらしい。
「な、何っ……何だよ、一体っ……!?」
身を捩って逃げようとするが、自分は裸で全身をベッドに縛り付けられている。そのことが具体的に認識されてきた。
両手は頭の上でひとくくりに縛られた上でベッドの上部に固定。左右の脚はベッドの下部の柱に一本ずつ広げられて固定。その上で毛布や布団は勿論パジャマも下着も引き剥がされて敏感な部分にローションをかけられている。
2/14の金曜の次の日、土曜−−二人とも固定の休みだった。ならばこのまま明日の日曜までこのイタズラは続くかもしれない。
「征士っ! いい加減にしろっ!!」
征士の目論見が大体分かって、当麻は顔を紅潮させて怒鳴った。
「馬鹿野郎っどういうつもりなんだよっ!!」
「ここまでされて分からないなどと、ありえないだろう、当麻?」
ローションをたっぷりとかけて、未だ萎えている当麻の雄をつまみあげながら征士が言った。
「お前の望みをかなえてやるだけだ−−」
そのまま指にすくいとったローションを征士は後ろの穴に塗り込め始めた。
「……」
慣れているはずの感覚だった。だが、異常なほどに身が竦んで征士の指を大きく感じた。目隠しされているためにローションがどんなものかは分からない。だが、雄が早くも猛り始め体の中も見る間に熱くなっていく。
指が動き、中にローションを塗りたくるたびに。
「征士……これ、一体、何だよっ……何っ!?」
いつもとの違いに気づいて当麻が喚く。
足を可能な範囲でバタつかせて抵抗の意志を見せる。
「ほう、流石に当麻だ。違いが分かったか」
征士は期限の良さそうな声を出した。
「と、いうことは……だいぶイイのだな」
「どういう意味だ、馬鹿野郎! 早く説明しろ!」
「……察しの通り、これは媚薬成分が含まれている特別のローションだ。ネットで海外から取り寄せたのだが本当に効くのだな」
「ばっ……!?」
馬鹿野郎、と怒鳴る事も出来なかった。
そんなクスリが安全かどうか分かったものではない。そんなものを粘膜から直接取り込まされたのだからたまったものではなかった。
「説明書では危険はないと書かれていたな。ただ、気が狂うほど気持ちよくなるとだけ−−」
そう言って征士は当麻の内部をぐるりと二本の指でかきまわした。
「んぁあっ!」
当麻は思わず女のように甲高い声を立てていた。
媚薬効果があると聞いた途端に、明らかに体は通常よりも火照っていた。下半身を中心に熱を帯びて過敏になり、性欲が脳まで支配するように膨れ上がっている。
征士がわずかでも指を動かす度に甘いのに鋭い感覚が背筋を駆け上る。それで思わず身を捩るとシーツが背中の皮膚をこする。それにすら甘美な感覚が伴う。
「やっ……めっ、征士っ……お前、覚えてやがれっ……!!」
何とか引きつった声でそう己を主張するが征士は構わずにしつこく後ろにばかり刺激を繰り返す。
それによって当麻の雄は膨れ上がって立ち上がり天を仰ぐ。
自分でも、後ろへの刺激だけで固く屹立させてしまっていることは分かる。そのことに言い様のない屈辱を感じるが、自分ではどうしようもない。覆い隠す事すら出来ない。
征士の視線を感じて当麻は息を乱し、首を振る。
征士の視線は欲望だけではなく、笑みを感じさせた。征士の指先の動き一つで身をくねらせ喘ぐ当麻への笑み。
「や、だっ……!」
当麻は下肢を突っ張らせて何とか耐えるが異常なほどの性欲と快感の高まりはこらえきらないものになっていた。
征士は毎晩可愛がっている当麻の快楽の点へと容赦なく刺激を繰り返す。
指が増える。二本から三本へ。抽挿の動きは次第に激しくなり、当麻の敏感な部分を突き上げてくる。
「嫌だっ……!!」
言葉とは裏腹に欲望は快感によって膨れ上がり、快感は欲望によって破裂する。征士の指の動きだけで当麻は絶頂を迎え真っ白に放った。
腹まで飛び散った液体の感触と青臭い匂いに当麻は赤面し、目隠しされたまま征士のいる方へと顔を向ける。
「てめっ……許さねぇっ……」
「こんなものではまだ足りないのか?」
当麻の殺気に対して征士は平然としたものだった。
穴の中をなだらかに刺激して指を抜き、威勢の衰えた性器に触れる。媚薬をたっぷり吸わされたそれはわずかな刺激だけで首をもたげて白い涙をこぼした。その液体がローションに混ざり合い何とも言えず卑猥な光景を見せる。
「まだ足りないって、それはお前だろう!」
当麻が怒ると征士は笑い、一瞬、当麻から手を放した。
室内でごそごそと何かを取り出している空気を感じ、当麻は微かに怯える。
目も見えず、全く身動きが取れないこの状態では、征士を止める事も出来ない。
「征士……?」
不安そうな当麻の声にはモーター音が返事をした。
「や……痛っ、ぁ、ぅ……ん、くぅう!」
当麻が痛みを訴えるが、征士は構わずにバイブレータを中へと挿入していった。その大きさに当麻は苦しそうに息を吐いて眉根を切なげに寄せた。
小刻みのバイブの振動。
熱を帯びていたその部分に人には擬せられない太い棒が入っていく。
当麻のその部分は限界まで広げられて媚薬の快感がなければ到底、入れる事は不可能だったろう。
「あぁ……」
ビクビクと振動に合わせて体を揺らしながら当麻が仰け反る。
全身はいつの間にかびっしょりと汗が浮き、媚薬のせいか甘い匂いを放ちながら当麻はまた欲を体に表していた。
桜色に火照り変色した皮膚、ローションと己の愛液にまみれテカりながら勃ち上がっている雄。
限界まで広げられていながらも脚は閉じられようとしながら快楽に負けて開かれる。
「このようなモノをくわえ込んで勃たせるとはお前も大した淫乱だな」
後孔を容赦なく嬲っておきながら征士はそんなことを言う。
「ふ、ざけるな……っ……っかやろっ……!」
太い物に圧迫されて震えながら当麻は強気な口調を崩さない。
征士は遊ぶように前に触れてなで上げる。
「ぁあっ……!」
それだけで放ってしまいそうになりながら当麻は必死に己を押しとどめる。
征士はすぐに触れるのをやめローションを胸から鎖骨、乳首へとかけて塗りたくり始めた。
「ふっ……ぅうあっ……く、あぁっ」
どんなに我慢しようとしても声は漏れてしまう。
征士は当麻の体を知り尽くしている。媚薬を含んだローションを彼の全身に塗りたくりながら感じやすい部分への刺激を繰り返す。
押し、つまみ、撫で、転がし、こすり、嬲る。
そのたびに当麻は悲鳴のようにイイ声を立てては体を引きつらせた。
欲望はパンパンに膨れ上がり今にもはじけ飛びそうだったが理性のみで必死に堪える。その苦しさに白い涙がこぼれて首が震える。
「あっ……んんっ……」
寝室に当麻の声が淫靡に響き渡る。
「何を我慢している? イきたいのだろう?」
「……っるせぇっ……」
憎まれ口を叩いていても体は限界だった。
目隠しをされているために余計に征士の指の動きや息づかい、声をダイレクトに感じてしまう。
そして何よりも体の中の圧迫感。
機械の振動で擦り上げられる度に脳髄を快感が焼いていく。
「自分に正直になったらどうだ、当麻。我慢は体によくないぞ」
相変わらず余裕の笑みを含んだ声で征士が言ってくる。
「この変態っ!」
威勢良くそう言ってはみるが体が言う事を効かない。
脳が焼き切れてしまいそうな快感と全身のふるえが止まらない。
「当麻」
甘い声だった。
それと共に胸の尖端に電流のような快感が走った。
「!?」
当麻は体を何度目かに跳ね上がらせて快楽を押しとどめようとする。
だが小刻みに震える振動が左右の胸を交互にいたぶってくる。
「な、何っ……?」
声すらも怯えに震わせて当麻はその正体を知ろうとする。
ローションで濡れに濡れた胸、敏感になった乳首の上に征士はローターを滑らせていた。人には与えられない細かい振動が当麻の過敏に尖った部分を刺激しまくる。
「や、めっ……やめろぉ!」
当麻が喚く。
つけられたアイマスクの下には訳の分からない涙がこみ上がっている。
「嘘ばかりつくな、当麻。これはお前が望んでいた事だろう?」
「知らない、違うっ……」
「そうか」
そのときいきり立った当麻のモノにきつい締め付けが与えられた。
アイマスクの下で当麻は目を剥く。
ぎちぎちとバンドが嵌め込まれていくのが分かる。征士を止めたくても手足は全く動かない。
「何すんだよ、バカっ……キチガイ!」
「イきたくないのだろう?」
限界まで膨れ上がった欲望を特製のバンドで締め上げて征士は言った。
「正直になれるまで、こうしておいてやろう」
当麻は唖然としてもう何も言えなかった。
そうしている間に後孔を攻めるバイブの回転が上がる。征士が強度を上げたらしい。
ぬらぬらとローションを流しながらその部分から激烈な快楽と痛みがこみあがってくる。全身に塗りたくられた媚薬とローターに攻められて、当麻はもう何も言えず何も出来ない。
「征士っ……!?」
こんな遊びを何故彼は始めたのか。それを知りたくても声も出ない。言葉がまとまらない。何も考えられなくなっていく。
一体どれほどの時間を耐え抜いたのか当麻には分からなくなっていた。
「まるで全身性器のようだな」
征士がそう評するのも無理はない。どこを触れられても声が上がってしまい快楽と苦痛が順繰りに襲いかかってくる。
征士は執拗に当麻の上半身も下半身もローターでなで上げて責めるのを止めない。
「全身、いい色に染まって……実に淫猥で可愛らしい」
涎を垂らしている当麻の口に指を差し込みながら征士は言った。
「う……あ……」
当麻はもうロクに声も立てられず、反射的に征士の指に舌を絡めていた。
「ン……ンクっ……」
征士が指を引き抜くと開いた甘い匂いのする唇が残る。征士はそこへとキスをする。
「当麻」
抱き寄せる腕の仕草は限りなく甘く、こんな仕打ちを行った人間とは思えない。
当麻は虚ろな意識の中で征士の名を呼ぶが喉には力が入らなかった。
「お前が望むから−−」
繰り返されるその言葉に当麻は胸が苦しくなる。自分はこんな事は望んでいない。
バレンタインの後の休日は、ごく普通の穏やかな日常が欲しかった。
二人でいるだけで幸せだと思えるいつもの日常が。
「当麻−−」
不意に脚がラクになった。散々暴れてバンドが擦れた皮膚を征士が撫でる。征士が脚の拘束をようやく解いてくれたのだ。
「せ、いじっ……」
掠れた声で当麻はその名を呼んだ。
征士は両足の拘束を解くと愛しげに当麻の足首をなで上げた。
当麻は痛みをこらえて顔を顰める。
征士はベッドの下から当麻の足を持ち上げているようだった。
「え−−?」
足の裏に生温かい息を感じて、当麻は声を上げる。
やがて唇の感触が触れた。
「征士……」
「お前がそうして欲しいと望む事なら、私は何も拒めない。きっとそれを叶えよう。必ず」
平穏な日常、何もない繰り返しに満足していた。当麻はそう思う。
だがこの十年近い征士とのつきあいで、当麻は知っている。当麻が知る当麻よりも、征士は当麻の事を理解し知り尽くしているのだ。
その上での彼の言。
「俺が……望んでいた……?」
呆然として当麻は声を上ずらせる。
征士はやがて立ち上がり、当麻の上に覆い被さった。
乾いた息を吐きながら当麻は征士の匂いをかぎ取る。
征士は耳元の口を寄せ、囁いた。
「…………」
「……んだよ、今更っ……好きにしろよ、勝手にやってろ」
囁かれた直接的過ぎる欲求。羞恥に思わずそう喚き、当麻は腕を乱暴に何度も動かした。
「こっちもほどけよっ!」
「暴れるのではないか」
「当たり前だろ、ぶん殴ってやる。それにこれじゃどうしようもねえだろっ」
まるで手首の骨が外れそうな勢いで当麻はバンドを外そうと腕に力をこめた。
「私はこのままでも構わない。お前はとても愛らしいぞ」
「気持ち悪い事言うなっ……第一これじゃっ………!」
不満も欲求も伝わらない悲しさに当麻は顔を歪める。
「お前を抱き締められないだろっ!」
言ってしまってから後悔した。
重みを感じさせる迫力で征士は当麻を抱き締めてきた。
「当麻−−」
「馬鹿野郎」
征士が腕のバンドを外してくれる。宣言通り、殴ってやろうかとも思ったが、結局そうはしなかった。
当麻は征士の首に手を回し、締め付けるように抱き締めた。
「お前を、くれよ−−」
普段なら決して言えない欲の台詞を吐いて当麻はそのまま溺れていった。征士と二人だけの、欲だけの世界へと。
やがて重なり合い結び合わされていく欲の絆の奥に胸が痛くなるような感情が疼く。どんなに求め合ったとしても征士は当麻になれず当麻は征士になれない、分かたれた体のどうしようもない切なさ。
だからこそ一つに溶けてゆく熱い欲望の果てどこかで甘いチョコレートの匂いがした。
(終)
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■ 管理人 風宮香
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