征士&当麻Secret Valentine 2014
● 宝物を君に ●
by obachammさま
相手にとってはなんでもない物かもしれないけれど、俺にとっては大事な宝物
物に執着しなかった自分が唯一執着した
生きてきた、確かな証
仕事で外出している当麻に代わって、何時ものように掃除をしていると、当麻の部屋から風が吹き込んでくるのでドアを開けると案の定アンドが開けっ放しだった。
乱雑な机の上には見慣れない小さな缶が置かれてきになったが、開いたままの窓から風が入り込み、机の上のものをまき散らしているので、慌てて窓を閉める。
先日自分が贈ったバレンタインのチョコもすでに食べつくされ、その空き箱やチョコの包み紙、お菓子の空袋、ティッシュ、チラシ、メモなどが散乱していて、征士は顔をしかめながらゴミらしきものはゴミ箱へ、そのほかは机の上に戻しておく。
「全く、何度言っても治らんな。食べたあとのゴミは捨てろというのに・・・」
眼に付いたお菓子の空き箱を切り開いてたまった古紙と共に紐でくくり、明日のごみの日に備えて家中のゴミをまとめにかかる。
「私がいなければここはあっという間にゴミ屋敷だな」
世話が焼けると言いながらもそれが苦ではない。共に暮らしてからはもっぱら掃除は征士の担当になっているが、当麻の足りない部分を自分が補っているという行為自体が征士に満足感を与えてくれる。
だから、この一連の行為もなんの疑問も抱かなかった。当麻が帰宅するまでは。
「征士!お前俺の部屋に勝手に入っただろう?どこやったんだ?」
血相を変えて掴みかかってくる当麻に一瞬なんのことかわからずにあっけにとられる。
「な、何だいきなり・・・・・・」
「ほかしたのか?どこへ?ゴミはどこやった?」
からのゴミ箱を抱えて征士を問い詰める。
「ゴミ?…ああ、お前の部屋のゴミは袋に詰めてゴミ置き場へ…」
マンションのゴミ置き場は室内で、前日ならばおいておいても問題はない。それくらいの認識で征士は片付けたゴミを持って行っていた。
玄関のドアが閉まる音がする。当麻は一目散でそこへいったのだろう。征士は一体何に怒っているのか分からなかったが、当麻の後を追った。あの剣幕ではまたゴミ袋をバラバラにされかねない。
案の定、ゴミ置き場に当麻はいた。ゴミ袋を引っ掻き回して何かを探している。
「一体何を探している?」声をかけども返事は帰ってこない。
それほど多くはない中身をかき回してようやく何かを見つけたのか、大事そうに手の中でいじくっている。
「見つかったのか?」
征士がそれを何だと言わんばかりに覗きこもうとすると、手の中身を隠すようにして征士を押しのけ出て行ってしまった。
「何だ、後を片付けもしないで…。一体何を探していたんだ?」
手の中に入るくらいだから大きなものではないだろう。それでも征士には当麻がそれほど大事にしているものは思いつかなかった。当麻が散らかしたごみを再度きれいにしてから征士は家へと戻ってまた驚かされた。
「当麻、何をしている?!」
自室のベッドにトランクをおき、衣類を放り込み始める当麻に驚いて声をかける。
「お前にはゴミなんだろ!」
怒ったように無造作なその動作に征士はわけがわからないとお見ながらそれ以上当麻を刺激しないように声をかけ続ける。こういう場合、当麻は思いこんだら意地になる。
「すまなかった。それほど起こるとは、一体なんだったんだ?、お前が大事にしていたものとは・・・」
「言ってもわからない…」
「言ってくれなくては、また同じことを繰り返してしまう」
「もうそんなことにはならない、俺は出て行く」
「まて、どうしてそう単略的に考える?私は嫌だ、こんなことでお前とはなれる事になるなど考えられない。頼むからそう先走るな」
「所詮はお前も違ったんだ…俺の事なんてわからない…」
「違う、私はお前を理解したい、でも、お前が話してくれなくてはどう理解しろというのだ?頼むから私に教えてくれ、お前の大事なものとは何だったんだ?」
「俺は・・・・・・理解してもらえなくてもいい、ただ俺の世界を勝手に踏みにじられるのはごめんだ!」
「そんな気は毛頭ない。私だって当麻の事は理解したいんだ。干渉するなということか?お前のものに手を触れるなというなら触れない。だが、それでは悲し過ぎると思わないか?私達は共に暮らしている。お互いに必要としあっていると思っているのは私だけか?私は当麻を理解したいし、私の事も理解してほしい。当麻の好きなことも嫌いなことも、考え方も感じ方も、当麻のすべてを私は知りたいと思うのは、お前にとっては負担か?」
両肩を征士に掴まれ動きを止められても、征士の目を見ようともせずにそっぽを向く。その横顔を征士は食い入るように眺め、表情を読もうとする。
征士の行為を心の底から嫌っての行動なのか?それとも、理解してもらえない憤りから思い余っての行為なのか…
「私は、当麻と離れたくない。お前の大事な物を棄ててしまった私を許してはもらえないだろうか?どんな罰でも受けよう。だから、どうか教えてほしい。私は一体何をしてしまったのかを」
じっと見つめていると、当麻の表情が和らいできたのが解る。身体の力が抜け、食いしばっていた口元が緩み、当麻の瞳が征士をちらりと見つめてから再度伏せられた。
「お前にとっては……ゴミみたいなもんだから…」
「当麻にとってて宝物ならば私にとっても宝物だ…」
これから当麻が語るものがどんなものでもこれからは自分にとっても宝にしようと、脳裏によぎるのは自分が先ほど捨てたお菓子の空袋や、空箱、ティッシュだが、征士は固く誓った。
「呆れるかも……」
「呆れない。絶対に!」
どうやら当麻は恥ずかしいようだ。子供じみた行為だったと自分でもわかりだしてくれたようだが、征士は油断しない。当麻の心を再度傷つけてしまうのを恐れ、用心深く接する。
「……絶対に?」
上目使いで見つめてきた当麻の頬はほんのりと染まっている。照れているのか…抱きしめたくなるのをグッと堪えて征士は優しく、大きくうなずいた。
「絶対だ」
ゆっくりと当麻が動き出す。征士は抑えていた肩を離してその動作を見守る。
トランクの中から小さな缶を取り出した。
あの、机に置かれていた見慣れない缶だった。
よく見ると外国のカラフルな絵が描かれているが、所々剥げているのは長い間使われているからだろう。
きっと、当麻が小さい頃から大事にしてきたのだろう。慈しむように撫でながら当麻はその缶を膝へと置いた。
宝箱だ。
征士はそう直感した。そして、その箱が開けられるのを待った。ようやく自分も当麻の内へと招かれるのを許されたのかと思うと心が熱くなる。
中に何が入っていようとも、だ。
フタに手をかけてから、当麻は再度征士を見つめた。
黙って征士は微笑みながらうなずく。上手く微笑めただろうか?内心ではドキドキしていると、当麻も照れたようにうつむいてから、缶のふたをパカッと開けた。
缶の中は、キラキラ光っていた。
いちばん上には、さきほど征士が捨ててしまった、見慣れた物が乗っていた。
「これは・・?」
きれいに皺をのばされた色とりどりの銀紙やカラフルなセロファンが大事そうに入れられていた。
「チョコの包みか?」
「……ん」
征士の反応を見るように当麻の視線が注がれるのが分かった。
いちばん上には今回の原因でもある、捨ててしまった、今年征士が送ったバレンタインのチョコが包まれていた銀の包み紙だ、その下には見覚えのあるアルファベットの書かれた包み紙、昨年の洋酒が入ったチョコのものだ。征士が?いて当麻の口に入れると、もっときれいに?けと言って叱られたので覚えていた。破れたのと綺麗なのと二枚。
後は征士の記憶では定かではないが、それでも征士にはわかった。当麻と付き合いだしてからバレンタインで渡したものは宝として残されているようだ。
「何時から、集めているのだ?」
底には古い懐かしい銀紙も見られる。
「この缶に入っていたチョコを、全部食っちまってな。母さんがイギリス土産にってくれたんだけど、なくなって空になって、それが悲しくてな、四歳だぞ、いいか、子供だったんだからそこはスルーしろよ?泣いたんだ、そしたら、親父がアーモンドチョコの包みを開いて俺の口に入れてな、その包み紙をきれいに伸ばして缶に入れてくれたんだ。
これから大事なものはこうして入れればいい、そうすればこの缶はいつか一杯になる。空になったのは、又いっぱいになるために必要だったんだって。
まあ、数少ない俺の親子の交流記憶だけどな、それ以来、チョコの甘さもあったんだろうけど、気に入った包み紙とか、記念の時のとかを偶に入れてたんだ。
お前らと初めて交換したチョコのもある。誰からももらえないだろうってお互いに買ってきたのがこのチロルチョコだ。そしたらお前なんか袋一杯もらってきやがんの…。でも、俺のを一番に食べてくれたろ?その包み紙はこっそり持ってたんだ〜……あ、これこれ!
最近はあんまり包まれてないからな〜、箱に入ってるのが多くなって…こうして、たかがチョコの紙なのに缶に入れてみると、俺もまあ、捨てたもんじゃないな、と……」
そういって、銀紙を宙へ掲げて蛍光灯を反射させる。
銀紙を一枚一枚手に取って想い出を語る当麻の顔は懐かしい思い出に浸っていて、手が届かない過去まで行ってしまいそうだ。
「特に美味しかったのや、伸たちにもらったのもあるけど、やっぱりお前からもらったのが一番多いな。こうやってキラキラしてるのを見てるとな、お前の…!!」
ずっと当麻の言葉を聞いていたかったのに、自分の我慢が効かなかった。
当麻の手の中の紙をつぶさない様に、缶を落とさない様に、それでもぎゅっと抱きしめていた。
「すまなかった……本当に、すまなかった。そんな大事な物を、私はとんでもないことをしてしまった」
いきなり抱きすくめられ驚いた当麻だが、直ぐに身体の力を抜いて、手のなかの紙を缶に戻してふたを閉め、ぽいっとベッドに放り投げた。
そしてその手を征士へ回して抱きしめ返す。
「いいんだ、物が大事なんじゃない、想いが大事なんだっていうのは判ってるつもりだったんだけどな、お前にわかってもらってなかったのがきつかったんだな。お前なら、俺の事何だってわかってるって勝手に思い込んでた。キチンと言わないと分からない事もあるんだって、お前に言われて気が付いたよ。
勢いで出て行くって言ったけど止めてくれてよかった。知らなかったんだから仕方ないし、しまってなかった俺がいけないんだ。
だから、これからも懲りずにきちんと掃除はしてくれよ、な?」
「了解した。お前の大事な物は金輪際捨てたりしないと誓おう。だから、他に在れば教えてくれ。私が間違えない様に…」
「じゃあ、教えるから絶対に捨てるなよ?俺の大事な物…」
「誓おう。光輪の名に懸けて」
「大げさだな」
腕の中で当麻がクスクス笑う。缶の中身は多分当麻の人生の軌跡なのだ。他人にとってはゴミかもしれないけれど、その紙はその折々の当麻を表しているのだ。それ自体が当麻自身なのだ。
「お前の、俺への気持ち…も?」
「もちろんだ。」
征士のキスが当麻に降る
「で、どんな罰でも受けるって言ったよな?」
くすぐったそうに当麻が笑う。
「なんなりと、お前の望むままに…」
征士のキスが当麻の肌に散る
どんな罰でも今の自分にとっては苦ではないだろう。
「だが、この後にしてくれるか?今はお前に私の気持ちを伝えたい……」
「おれも……」
(終)
変なものを宝物みたいに集めてる当麻が書きたかったのです。
他人にはごみでも自分にとっては大事な物。そういうものってありますよね(^^)v
(obachamm様)
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■ 管理人 風宮香
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