■ さわやかな朝を君と迎う …
素敵なイラスト様w に寄せて
「この不届き者が!…………と…とうま…?」
マンション横の植え込みに、闇にまぎれて隠れていた男を、征士が怒声と共に捕まえようとすると。
よく知った人物の特徴―蒼い髪と瞳―が眼に映り……。
「なぜお前が?ここに?」
「なぜって………………」
答えにくそうな当麻が言葉を濁していると、その背後でがさがさと茂みの揺れる音がした。
「あいつか!」
征士は驚きを引っ込めて、当麻を置き去りにして音のした方に駆け出した。
上背のある男が、マンションの敷地を通り抜け、暗がりに消えるように走っている。
どうやら、征士はその男を追いかけていったようだ。
何事だ?と思いながらも身体が動き、当麻もその後を追いかけていく。
全速力に近い速さで走る征士の後ろ姿を見つめながら。
――― 俺、ずっと追いかけてるんだけど
あの戦いの最中から、ずっと征士を追い求めていた。
子供の遊びで済ませたくないから、今まで何も言わなかったけれど。
大学生活も4年目、卒業まで一年もないのだから。
そろそろ、想いを告げてもいいだろうか。
訳のわからないままの追いかけっこは、先頭の人間が建物の中に消えて、敢え無く終了。
オートロックのマンションに逃げ込まれ、取り逃がした征士が肩で息をしている。
「…………出てくるのを………待つか」
明かりのついた部屋を睨みながら、忌々しそうに征士が呟く。
「アイツなんなの?」
「ストーカーだ。皐月から連絡があって、捉まえに来たのだ。
最近、頻度があがって困っていると訴えられて。
これだけ近く住んでいたならば、ストーキングしやすかっただろうな。
―――そう言うお前は、なぜ、あの場所に居たのだ」
当麻が不届き者呼ばわりされた場所は、皐月の住むマンションの植え込みだったらしい。
去年、東京の大学に受かった征士の妹が上京したのは知っていたが、住んでいるの場所は知らなかった。
通いなれた征士のマンションから、徒歩約10分という距離。
「いや、征士の所に遊びに行ったら。お前が出てきたからさ。後を……」
「声をかけろ、不審者ではないか」
夜間の外出などしない征士が慌てて出ていく様を見て。
どこに行くのか、知りたかった。
こんな時間に呼び出されて、出向くなんて。
余程の関係の―――女がいるのかと。気になって、気になって。
だから、気配を消して付いきて、近くの植え込みに隠れたのだ。
「本当のところ、不審者なのかもしれないぜ?」
「この状況で、笑えん冗談だな」
「俺、征士のストーカーかもな。ずっと見ていたいし、一緒に居たいなぁなんて」
「居ればいいではないか。友人なのだから。ストーカーではないだろう。」
「ん〜〜〜とさ、一緒に居るとさ、触れたくなったりするんだな、これが。
それって、友人じゃないじゃん?」
学生生活を送るために、互いが上京してから3年の月日が流れている。
途中、当麻が留学でいなかった期間もあったが、共に過ごす時間を増えれば増えるほどに。
やはり、ただのお友達のふりには限界がくる。
傍にいると。
自然と、勝手に手が伸びそうになる事も。
こっち見て笑えよ、って思ってしまう事も。
その声で、もっと俺を呼んでよ、って願う事も。
日に日に、そんな想いは強くなる。
ただ、きっかけと、タイミングがなかっただけ。
――― よく、辛抱したよ。もう、いいよな………限界だよ
「友人でないなら、ストーカーか?それは幾らなんでも飛躍のし過ぎだ」
「俺、飛ぶの得意だから」
自分のいっている意味が、隣の鈍感男に通じているかは分からない。
だから、ひとり言を装って、当麻が想いを言葉にする。
「飛ばさなかったら… 告白、拒絶、ストーカーって順番かな……?」
「2番目に、拒絶が来るとは決まっていないだろう?」
気づかない。無視される。関係ない事を返す。
そんな当麻の予想はいい意味で裏切られ、驚きに目が見開かれる。
自分でも、間抜けな表情かもしれないと思いながらも。
「征士、今口説いてイイ?」
マンションに視線を投げながら、ふっと征士が笑う。
「こちらの片が付いてからだな」
「じゃぁ、片付けるか」
「どうやって?」
そんな事が出来るのかと不思議そうな征士に目配せしてから。
当麻が、マンションの外側に郵便受けに歩み寄り。
先程電気がついたフロア、6階の住人の名前を確認する。
「皐月ちゃんに電話して、坂下・岩本・上田・上郡・山根ってヤツが部活にいないか訊いてよ」
「同じ部活の人間なのか?」と言いながら、征士が携帯電話を取り出す。
「征士が追いかけて捕まえられないんじゃ、陸上やってる奴だろ?
皐月ちゃんって陸上部だったよな。適当な理由つけて、近くのファミレスに、そいつを呼び出させてくれ」
電話で話すと、案の定、皐月には心当たりがある様な返事で。
当麻の言うとおりだったらしく、征士は「早く言わんか!!!」と怒りを向ける。
征士とイイ感じの話になってたんだから、そんな事は後廻し。とは、更に怒られそうだから、当麻は口にはしなかった。
近所のファミリーレストランに皐月を独り座らせて、ストーカー犯が現れるのを待つ。
なんの警戒もせずに、呼び出されてほいほいと来たのは、いっそ哀れだが。
征士はもちろん、当麻も同情など微塵もなかった。
席に着いた頃を見計らって、男の隣に当麻、皐月の隣に征士が席を取る。
そして、腰を降ろすや否や、征士が口を開いた。
「ふられたからと言って。つけ回すとは!!何と男らしくない!」
「ふってないよ。付き合ってもない」
怒りを露わにする兄に、妹が冷静に訂正をする。
その会話に、第三者の当麻が割って入り。
「告白ぐらいしろよな」
「お前が言うな」
「何の話?」
ストーカーを無視しして、3人での会話が進められ。
皐月の疑問に答えたくない当麻が「ほら、言え。告白しとけ」と男を殴る。
罠に嵌って呼び出された事を重々に承知しているのだろう、素直なほどに言葉を出した。
「皐月さん、付き合って下さい」
「嫌です。当然でしょ。つけ回すようなストーカーとは付き合わない!
後、お兄ちゃんに任せていい?もう、寝ないと美容に響くし。
付き合ってらんないわ。坂下ってわかっただけで、いいわ、私」
「だそうだ」
当事者の皐月は、犯人が分かった事と、あまりに興味のない人物だった事で席をたった。
もちろん、兄への信頼もあると思われる。
「俺、皐月ちゃん送ってくるわ」
当麻が皐月に続いていくと。
征士が向かいの男に凄みを効かせて、眼を細めた。
「では、二度とこのような迷惑をかけないで済むように、少し話そうか」
―――説教。
延々とストーカー行為が如何に卑劣で迷惑か。
また、人の気持ちを不快にさせ、動揺させるか。
そうした感情を湧かせる相手に、想う人が答える道理があるかどうか。
当麻が戻ってきて席についても終わる事はなく。
犯罪行為を犯した人間が、身体と精神の体力を奪い尽くすまで続けられた。
やがて、うっすらと空が白み始める。
征士の隣で、難しい貌を作りながら半分眠っていた当麻が意識を覚醒させて。
レジから紙とボールペンを借りてきて、男に差し出す。
一筆、したためさせるためだ。
「ほら、書け」
それが、終わりの、解放の合図だった。
まだ、言いたそうな征士だったが。
「金輪際、ストーカー行為をしない」と誓約した文字を見て、鉾を納めた。
よろよろと帰っていく男に背を向けて。
二人並んで、爽やかな初夏の朝陽を全身で受け取る。
すっかり、日が昇り。
きらきらとした光と風が朝を演出しているのが、嬉しいほどに気持ちが良い。
「なぁ、『ストーカーとは付き合わない!』とか言うなよ」
「夜通し付き合わせたのだから、多めに見よう」
どちらともなく、笑いが洩れて。
ん――――っと、当麻が伸びをして。
腰の手をあてて、やり切った感の強い征士を横目で見る。
眠ってないのに、スッとした立ち姿。朝陽を浴びて、一層輝く金の髪。
光が、こぼれてくる―――――――。
その様にさえ、惹きつけられて止まない。
「ひと眠りしてから、講義に出るか」
流石に徹夜での講義は疲れそうだと、真面目な征士が今日の予定を口にして。
「俺、自主休講でいいや」
「よくないだろう」
「起きる自信がない。あ、おまえんちで寝ていい?起こしてくれる?」
「かまわん」
征士が是と答えたので。当麻は、本当に叶えたい事を口にする。
人は一度「YES」と返事をしてしまうと、その後の要求に対して「NO」と言いづらくなるのを知っているから。
「じゃ、片付いたし。寝る前に口説いてイイ?」
「起きてからにしてくれ。眠れなくなったら、敵(かな)わん」
まじまじと征士の整った横顔を見ると。
悪戯っぽい笑みを浮かべた征士が、一瞬視線を投げて寄越してから。
帰宅に向けて、さっさと歩きはじめる。
「朝から、白昼夢か?」と、当麻は呟いてから、慌ててその後を追っいかけて。
征士の横に並んで、朝陽を浴びながら明るく清々しい光の中を歩いていく。
そう、横に並んで。
これから、ずっと、こんな風に。二人で、歩んで行ければいい―――。
END
素敵な素敵なイラスト様を強奪してきました!そのイメージで、書かせてもらいました → 頂いた素敵イラストさま ■
(頂いたのは初夏だったのですが、UPが遅くなったのは私の所為です。ごめんなさい。企画とかやり過ぎ〜。汗)
テーマというか。念頭に置いたのはヤル前の二人って事で。
えちなくても、お互いに想ってて・・・・・・ってな事を書きたかったのです!!
今日で、サイトも1周年っっ!ありがとうございます!!
2012.09.06 UP
by kazemiya kaori