■ 未来の残像
すっげぇ夢を視た。
しかも、それはかなりの高確率で現実になると―――判ってしまった。
「何を見ている?」
目を覚ますと、同室の征士の着替えを凝視してた。
「いや、ぼ〜としてた。夢が変で」
夢…予知夢より『確信できる未来』を一瞬視たって感じ。
一瞬だけど、それはそれは強烈で。
つい比べるように、征士の上半身を見詰めてしまっていた。
「目は覚めたか?」
少し心配気に、呆れ気味に問い掛けてくる礼の戦士。
規則正しい生活が信条で、寝間着からの着替えはすでに終わってる。
いつも部屋着のまま眠ってしまう俺とは対象的だ。
戦況が厳しいせいか、又は慣れたのか、最近はその事についてのお小言は減ったけど…。
「あぁ。ちょっと作戦練り直すわ。書斎に籠る」
「悪い夢か?」
「いや、かなりいい夢だった」
少し安心したかのように表情を緩めると紫の瞳が細められた。
綺麗な微笑。
――― 近くで視た時は、もっと綺麗だったよなぁ…。
**********
視たのは。
自分のベッドシーン。
天井視点で、浮いてる俺は自分の背中を見下ろしていて。
欲求不満かよ!と思ったけど、どうやら違うらしい。
願望からくる夢じゃなさそうだったから。
出歯亀だ…。
そう呟きながら、自分の背後から、下に組みしいている相手を覗きこむ。
―――え?!胸ない!
夢ぐらい、おっぱい・・・見たかった・・・。
っていうか、相手、男かよ。
下は布団の中なので、見えないけど。
―――えええ?この顔って?!
・・・征士だよな?
恐ろしいけど。
普段と違う表情してっから、自信ないけど・・・。
光を集めたような金髪も、涙のけぶる紫眼も。
めちゃ綺麗だ…。
っじゃなくて!
こんだけのルックスを持ってるヤツはそうそういないだろうから---征士に間違いない。
自分同様に裸で。
組みしかれている裸体は、均整がとれていて。
つい、その白い肌に見惚れる。
ただ。
顔といい、身体といい、今とは少し違う。
青年って感じで…何年後なんだろ?
恐怖半分、興味半分で、更に近寄るとするりと自分と同化した。
「せーじ」
びっくりする程甘い声で呼んでいる。
---今こんな声で呼んだら、殴られるだろうなぁ
蜂蜜色の髪にキスして。
----俺の方が背が高いんだ
腰を動かして。
---気持ちイイ。熱くて、ぎゅって締め付けられて。
---耐えろ!自分!
---って、征士の中なのか!
「…ぁ………ん…」
動くと、征士から色っぽい声があがる。
---感じてるんだ。征士。俺を受け入れて、気持ちいいんだ…。
「とう…ま…」
優しく呼ぶんだな。
---今は、ピリピリした冷めた声が多いけど。
腕を伸ばして、肩にすがってくる征士。
---こんな風に無防備に、甘えるんだ。
「せーじ、愛してる」
抱き締めて、より密着して唇を触れ合わせる。
---柔らかい唇
隣に寝てるだけじゃ、絶対わからない事ばかりだ。
---もっと知りたい。感じてみたい。
そう思った時、『お楽しみはそこまで』と謂われんばかりに目が覚めた。
*********
俺が征士と…。
何で?
最初は、かなり動揺した。この俺が。
何がどーなって、そーなった?
次に、興味がすごく、でてきた。
予想も想像もつかない事態だったから。
そして。
最後には、あの未来を現実にしたいって思っていた。
だってさ…。
同化した時に解った。
あの俺は、凄く幸せだ。って。
泣きたくなるような多幸感。
大事なもんを手にしてる。
人間を小馬鹿にしてる俺が、他人である征士をあんなに愛おしいんで。
阿保みたいに、愛を囁いて、抱きしめて。
今まで感じた事がないぐらいに、満たされてる「自分」が存在した。
世界をなんとかしたご褒美を手にしてるんだって、思えた。
確率の高い未来だと感じられるから―――引き寄せたい。
天空って、時空も操れるのか?
いやいや、だったらもっと近々の戦況や結果を具体的に…と考えてしまう。
たぶん、コントロールはできないのだろう。
もしかしたら、俺を生き残らせるために『天空』が視せてくれたのかもしれない。
トントンと書斎の扉がノックされる。
性格って、こんなところにもでるのな…。
堂々と、でも音は大き過ぎず小さ過ぎず。
征士に向かって「おう〜」と返事をすると、当人が入ってきた。
「朝食はどうする?」
「もらう。その後、皆に話す」
「決まったのか?」
「そ。お待たせしました」
次の突入は俺の作戦待ちだった。
ちょっと効率悪いけど、極力自分も生き残る方法を選ばせてもらった。
今までは、生死を考えず、早く終わらせようとしてた。
でも、変えた。
今は凄く辛いけど、きっといい未来が待っているからさ。
「どうした?私に何かついているか?」
「いや、なんでもない」
ついつい、夢の残像を探して見つめてしまった。
少年姿の征士。
やがて成長して、もっと綺麗になる事を知っている。
今は冷たいばかりに、美しく輝く光の君。
なのに、俺の腕の中で、熱く蕩ける程に艶を発するはず……。
まあ、それは、生き残った後のお楽しみ!って事で。
『未来の俺のもん』と思いながら征士に微笑む。
そして、今に闘いに決着をつけるために、立ち上がり書斎を後にした。
END
無自覚の頃。逃げるなら今のうちに征士さん!
2011.09.29 UP
by kazemiya kaori