■ 優しいお正月
柔らかい出汁の香りで目を覚ます。
いつもと若干違うのは、お雑煮だからだな。
と、寝ぼけた頭で結論を出す。
征士と一緒に暮らしはじめて。
仙台風・大阪風のお雑煮も出た事があったが。
地に倣って、最近は東京風に落ち着いた。
時計を見れば……8時。
早いか遅いかは人によるけど。
自分にしたら早くて、征士にしたら遅い時間。
『正月は家族と家で過ごすものだ』
そう言いきる征士との正月は、もう15回以上。
公的婚姻関係は当然結べないけれど、本当の家族なんだと。
ずっと一緒にいるのだと、実感する日でもある。
ふと。
征士といなかったら、39歳の俺はどんな正月を迎えてるんだろう。
征士は俺と出会わなかったら………。
きっと、名家のお嬢さんと結婚して、子供もいて、厳格な伊達家の正月を迎えるのだろう。
俺は・・・。
結婚して家庭を持ち家族と過ごす、ってのが想像つかない。
その原型が俺の中にないから。
幼いころの記憶では、「HappyNewYear」とシャンパンがはじけ笑い合う大人たち。
翌朝には研究所に出勤したオヤジのパジャマがリビングに脱ぎ散らかされてた。
いつもと変わらない1月1日の朝。
ってなのを、毎年毎年、多少パターンは違えども繰り返したら、征士のような感覚が身につくわけがない。
もうこの歳になれば、親はどっちも家には顔を出さないだろう。
秀ん家にお邪魔して騒いだ後、帰りひとり虚しくなったりするんかな?
その虚しさは、20代なら大丈夫、30代前半も大丈夫だろう……。
ただ、アラフォーともなると、平均寿命半分だともなると。
流石に、ひとりきり&これからも独りは、いくら俺でも寂しい。
かといって、適当なところで手を打って結婚とは、あり得ない。
弱い自分と向き合えず。
想っているという征士を、4年間も返事もせずに待たせっぱなしにしてた。
征士があきらめてくれなかった事に、感謝だな。と強く思う。
でないと、俺は、さびしい正月を毎年毎年、強がって迎えてたかもしれない。
今、温かい新年を迎えられるのは、それから征士とずっと一緒にいるからだ。
珍しくセンチメンタルな気分で。
――― しかも、正月早々にか!歳とっているのを感じるぞ!
自身で突っ込みながらも。
なんとなく。
女避けの指輪を、自分から左手の薬指にしてみる。
いつもは、長期出張や女性のからむ仕事などの時に、征士につけられる程度。
年に数回もしない指輪だ。
「あけおめ〜」
「きちんと“明けましておめでとう”ぐらい言え。―――珍しいな」
キッチンに向かうと。
指輪を目ざとく見つけて、征士の視線を左手薬指に痛い程に感じる。
「今日はそんな気分なんだ!」
テレを隠すように、ぶっきらぼうに断言しても。
嬉しそうに微笑む征士には、意味を為さない。
だから。
話題を変えるために、今の心境を願望に乗せる。
「コレつけて一緒に歩きたいから、海外旅行にでも行こうぜ」
国内で、男同士が同じデザインの指輪をして歩けば。
やはり、周りがザワつくだろうから。
海外の方が、堂々としてられるだろう。
「できれば、一か月ぐらいのんびり」
「新年早々、豪快なおねだりだな」
「でも、叶えたくなっただろう」
「あぁ、どこがいい・・・」
左手を引っ張られ、指輪にキスをされて。
次に、唇にも。
新年最初の口づけを、優しく受け止める。
――― 今年の目標は、海外旅行
楽しい一年の始まり――――――――――――。
END
姫初めの話でなくてすみません(笑)
今年もよろしくお願いしますww
2013.01.01 にブログUP済み分をこちらへ移動しました。
このSSは去年の1月に下書きしてあったネタっす。
(しかも8月に手直し入れてる…何してたんだ去年の自分ww)
2013.01.05 UP
by kazemiya kaori