■  放課後
 




最近、よく目が合うなと思う。


少し前だが。
彼を見つめている自分に気がついた。




金髪紫瞳という人目を引く容姿を持っている経験上、他人にジロジロと見られるのは不快極まりないとは分かっている。
だから、なるべくそう言った行動は取らないようにしてきていたし。
取りたくなる程に興味を惹かれる人間に出会った事など無かった。
だから。まさか自分が不躾に見てしまう立場になるとは思いもよらず、で。
本当に、最初は無自覚だったのだ。


ホームルームも終わり、皆が部活に、家にと教室を出て行く中。
ずっと、6時限目から眠ったまま放置された彼を何とも捨て置けなくて。
『おい、起きろ羽柴』と肩を揺するように声をかけた。
その時の、ココはどこだったっけ?的な顔から、ああ教室かと独り合点するまでの眼の動きが何とも可愛らしかった。
寝惚けた無防備な頬に、瞳だけが動き始めた脳を映して、はしこく光る。
こんな表情は初めてみたと感じた時に。
―――初めて…見た?
記憶の中に様々な彼の表情や仕草がストックされていたのを知り。
羽柴当麻を注視してしまっていたと自覚したのだ。


どのぐらい前から、見ていたのだろう?
かなり……前からなのだろうか?


進級と共にあったクラス替えで、初めて同じ組になった。
その時からと考えるならば……もう、2か月も経っている。
2ヵ月間も気づかなかった自分の鈍さに呆れもするが。
記憶のストックを広げてみれば……そのぐらい期間が妥当だと思えて仕方がない。


例えば、声。
名前を呼ばれた時の返事の多様さ―――これは、その時の彼の気分によるらしい。
大抵普通のトーンで「はい」と返事をするが、機嫌良さそうに軽い時、やたらに低い時、そして眠っていて返事が極端に遅い時……。
4月の当初は平静な返事が多かったが、最近は遅い場合が増えてきてる。
とか。

例えば、顔。
表情は無表情に近いのに。瞳の奥が雄弁に物語るのが面白い。普段の授業では詰まらなそうに霞がかかる。
きっと別の事を考えているのだろう。
興味のある数学・物理・化学の時は、青い湖面が光を反射したようにキラキラと輝く。
そのギャップの大きさに、その知能とは真逆の幼さを感じる。
とか。

他にも。昼休みに満腹で眠る背中が可愛らしかったり。
男子にしては細い指先に、どきりとしたり。
寝癖ではねた髪先が、気になったり……。
挙げれば、切りがない。
そのくらいに―――観察してしまっていた。



他者に基本無関心な彼が気づくのだから、余程、視線を向けてしまっているのだと思う。
しかも。目が合う、つまりあの青い眼が自分に向けられるのは―――嬉しいのだ、とても。





我ながら、鈍いと思うが。

同性であるのに。

恋しく想っている。





そして。
眼が合うと言う事は、彼も同じように思っているのか。
もしくは、全く逆であるか、どちらかだろう、と思案する。

可能性としては―――前者だと感じている。
希望的観測ではなく。
目を逸らせる時の表情が、嫌悪に満ちていない事と。
最初は驚いたのに見返してきたのに、今は、早々と視線を外す事を鑑みて。
間違っていないのではないかと、征士は思うのだ。






――― もしも違っていたとしたら、その時はその時だ。


このまま、ただ視線を絡ませて喜んでいるつもりはないのだから。
意を決して、訊くことにした。


『当麻は、私の事をどう思っているのか』



また、今日も。
放課後、独り眠ってしまっている羽柴当麻。




ちょうど、良い機会だ。




「おい、起きろ。当麻」


「んあ?ああ、さんきゅ」


「…………………………………………」


「…………………………………………」




近くで、吸い込まれそうな深い蒼に魅入られて。
静かに、見つめ合ってしまう。
『目が合う』という一瞬ではなくて。
お互いに、何かを感じ取ろうかとする、長い間――――――。




その時間を終わらせるように。
当麻は、寝惚けたふりで大きく伸びをして。
ふらふらと起ちあがり、帰ろうとするから。
思わず腕を引いて、去ろうとする身体を引き留めてしまう。


「なに?」


用意していた台詞を再生するつもりだったのに。
掴んでしまった指先から別の欲求が伝わり。
それが、そのまま、音になる。


「抱きしめて、いいか?」


「うん。…って、お前、もうしてるじゃん」


征士の指先から脳へ、脳から声帯へ、言葉が伝わる間に。
発信源の指は、手のひらと腕を配下に納め。
望みのままに、腕の中に抱き取っていた。


なんとも、薄い身体の感触に。
庇護欲が掻き立てられ。更には独占欲を刺激する。


「そうやって誰にでも、同じ返事をするのか?」 


「えっ?」


「どうなのだ」


「なんで、怒ってんの……」


「好きだからだ」


ストレートな返事に、当麻は毒気を抜かれ。
笑いながらも、『誰にもなんて、言わねーよ』と白状して。
背中まで回された腕に、これ以上力を入れさせないようにする。


すると。
苦しい程の捕縛は緩んだが、ホッとする間もなく。
今度は、顎を掴まれて口づけられた。


「伊達ってさぁ………手、早くない?」


どんな事も、真面目にこなしている姿を見ていたので。
そういった方面も段階を踏んで…と、早くは無さそうだと予想していた当麻は。
全く反した行動をとる征士の面白味に、笑いが納まらない。


「遅いと、誰かれ構わずに抱きしめられていそうで心配だからな」


自分でもこれほど早々と行動を起こす方だと思っていなかった征士が。
取ってつけたように、いい訳をして。


「これ以上笑うともっと加速させるぞ。いい加減に止せ」


そう言いながら。
もう一度、当麻の形の良い唇にキスを送ると。
その触れた箇所から、軽い振動が伝わってくる。
加速させたいのか、当麻はそれでも喉の奥で笑声を噛み殺しているのだ。



だからかもしれない。

最終下校を報せるチャイムが鳴るまで。
二人の唇は、離れる事が無かった―――――――。







 END


  
■ Novel ST TOP 


【解説】
好きな人「ぎゅーってしていい?」 羽柴当麻「うん」 
好きな人「そうやって誰にでも許可してんの?」 羽柴当麻「えっ」
好きな人「どうなの?」 好きな人は何故か怒っている…

というお題をついったーで頂き、書いてみたのですが。
あれれ?お仕置きプレイにならなかったよwwただの高校生BLじゃん的な仕上がりです。

とほほですが、anekoさまへ☆

2013.02.01 UP
 by kazemiya kaori