■ 2カ月遅れ … クリスマス イヴ !
クリスマスイブ。
世間では平日とはいえ、イルミネーションにプレゼントだ、ケーキだ、シャンパンだの浮かれ模様だ。
でも、当麻にとっては、それどころではなくて。
今月の初めには帰国したのだが、帰ってきたら帰ってきたで、やる事は山積みだった。
何しろ2か月もいなかったのだ。
もちろん、現地からメールや電話で、指示を出していたものの。
本人がいなければ進まない事や判断つかない事など、掃いて捨てたいほどあるもので。
―― サンタさん。プレゼントをくれるなら、睡眠時間を下さい
本気でそう思うほどだった。
もちろん、睡眠時間を削る事にしか協力しないサンタクロースしかいないので、自分でどうにかするしかない。
今日もまだ仕上げたい書類があったものの。
マメな方である、というか自分に対してだけその性質を発揮する恋人は、イベント事はしっかりやりたいタイプである事は重々承知してしまっていた。
実は、出張に行く前に、彼にとって一大イベントのはずの「自分の誕生日」を忘れていたのが、原因で喧嘩もしていた。
そんな経緯もあって。なんとか、早々と家路についたのだ。
腹いっぱい食って、酒飲んで・・・夢の国に早々と逃げ込む算段をしたいものの。
ここのところ、忙しさのあまり征士をかまっていない。
どの会社・企業も、年末年始に向けて忙しいのだから、お互い様だとは思う。
たぶん、ヤツだって疲れているはず…。
――― でも、大人しく、寝かせてくれない…よな
大切に想われている事は、とても嬉しいし有難い。
本当にそう思う。
でも、生きている以上、身体にも限界ってのはあるもんで。
食事を終え、ソファに移動すると。
目の前のローテーブルに置かれた、二つのケーキを見つめる。
「なんで……2つ?」
その意気込み――何の意気込みだよ――に、ちょっとビビった。
1つは普通のデコレーションケーキ。上にはチョコレートのサンタやら家やらがのっている。
もう1つは、パイケーキ。こんがりと焼き目がついて、とても美味しそうだ。
どちらも、直径15センチぐらいで、左程大きなものではないものの。
甘いものを得意としない征士が用意したのだから…。
きっと、メインはこのパイケーキだろう。
そして、甘い物好きの恋人が普通のデコレーションも大好きだと知っているから、結果、2個用意となった。と想像がついた。
肯定するように。
「こっちがプレゼントだからな…」
言いながら、征士がパイケーキをざっとくりと4つに切り分ける。
「さんきゅー」と言いながら、一切れを受取り、フォークを口に運ぶ。
美味しいけど、わざわざプレゼントだというのだから、何か特別なもんなのかな?
色々考えながら、食べ進めると。
カチッ。
普通のケーキではありえない、固い感触が歯に当たった。
――― ガレット・デ・ロワ か…
本来なら、お正月にフランス等で食べられる伝統菓子。
ケーキの中に、フェーヴという陶製の小さい人形が入っていて、当たった人は幸運が1年間継続すると言われている。
――― これが、プレゼントなわけか
思いながら、当たったぞ、と横に座る征士を見る。
と。いつもの微笑を浮かべながらに、こちらを眺めていた。
目の前で、人形を口から出そうとして。
――― 丸い…形…?指輪か?
地域によってはおもちゃの指輪が入っていて、当たった人は年内に結婚するという…。
――― プロポーズか?
口内で指輪からパイを綺麗に外して、取り出し、まじまじと見る。
内側には、Ptの刻印。
「……って、本物?」
刻印は続いており。 『Please protect touma』
更に、小さな蒼い石と緑の石が内側に填め込まれていた。
サファイヤとエメラルド。お互いの誕生石ではないものの、自身を象徴する石。
「結婚指輪?」
「そう。そして、お守りだ。本当は誕生日プレゼントだったのだが、作るのに時間がかかった」
「あ…」と、不自然なまでに機嫌を損ねた日を思い出す。
―― そりゃ、気合入ってたんだろうなぁ……
『指輪』を用意して祝うはずだった。殊更に特別な誕生日になるはずだった。
「…ありがとう」と呟くように言ってから、ちょっと、不利な状況を感じて。
「プロポーズの言葉は?」
と、負けん気で、聞いてみる。
真面目に口にすれるかと思えば、しれっとかわされる。
「私の誕生日の時に……したつもりだったのだが」
途端に。
顔から火が噴いた。
あれ程に、『征士に惚れてます』と宣言してしまったような事は、未だかつて……ない。
追い打ちをかけるように。
「そして、よい返事も、もらえているはずなのだが」
当麻の反応を見て、意地悪そうに微笑み。
「もう一度、再現しようか?」
「いいよ」と突っぱねて。もうこれ以上、話すのをやめさせようと。
名前を呼んでから、指輪を征士に向けて放り投げ。
そして、王さながらに、左手を差し出す。
受取った指輪にキスしてから、うやうやしく、征士がその薬指に納めた。
「お前の事だから、自分のもあるんだろ?」
当麻の方がやや細いものの、似たような男もののサイズを二つ。
良く発注出来たよな。とか思うが、そんな世間様を気にかける奴でもないのはよく分かっている。
見透かされて、少し照れたように笑って「もちろん」と征士が応える。
「持って来いよ。付けてやる」
取りに行くかと思いきや、ポケットから取り出して。
その意思疎通ぶりに、驚くよりも呆れるのは、一緒に過ごした時間の長さ。
でも。
――― 昔から、こんな事多かったよな。
もしかしたら、逆に。
普段、疎通が過ぎるから、伝わらなかった時に喧嘩になるのかも…な…。
生活を共にしてからの時間を考えれば、いい加減、喧嘩もなくなり、ベッドで交わる事に飽きが来るかもしれない。
ふと思った事もあったけど。
でも、それは、自分達には当てはまらない。
ちょっとづつ、想いを深めながら、まだまだ言い合いやセックスをしながら、暮らしている…。
たぶん、ずっと。
そんな気がする。
当麻は手渡されると、内側をさりげなくチェックしながら、差し出された左手を取った。
同じく薬指に填めて。
「後でさ、それ貸して。言葉を彫るから」
征士の分は、宝石以外は何も施されていない。
「なんと刻印するのだ」
「それは出来てのお楽しみ」
もったいぶるように笑うと、肩を抱かれて。
相変わらずに綺麗顔が近づいてきた。
そうっとキスされて。
軽く触れる程度の口づけを。何度も何度も繰り返す。
いつもなら、激しくなっていくのに。
今日は、髪を撫でながらに。
眠気を誘うように。
頬に。瞼に。
額に。
髪に。
離れていく唇。
「ん?」
言葉にはしないものの、どうかした?とのニュアンスで聞く。
「眠いだろう?当麻」
抱きしめられながら、耳元に響く低い声。
「実は、とっても」
正直に答えると、耳に苦笑した様な振動が届く。
「週末に、たっぷり相手をしてもらうから」
――― 寝ても…いいんだ…
今日は、まだ、水曜日。
征士は、忙しい中、無理矢理帰ってきてくれた事も知っていて。
ましてや、澄んだ瞳が、日に日に澱んでいくのを見ていたのだ。
何年も共に過ごしているのだから、イブにどうしてもヤル!とか、子供じみた事は、今日は言わないことにして。
「やっさしいじゃん」
「ベッドの上で優しくする方が得意だが」
知ってか知らずか、身体を擦り寄せられて。
――― 我慢しているというのに。
「知っ……てる…………よ……」
がくん。と腕の中が重くなって。
ひと足先に夢の国旅立ってしまった恋人を、寝かすために抱き上げた―――。
END
ちと、早いですが。クリスマスネタ!
T様、ご要望(?)にお応えして(笑)
2011.12.21 UP
by kazemiya kaori