Trick or Trick 




10月31日。

日本では、月末でただ仕事が忙しいだけの日だったはずなのに。
ここ十年で、徐々に西洋の風習「ハロウィン」が定着、または一般化し始めている。

もちろん、本来の秋の収穫を祝い悪霊などを追い出すという宗教的な意味合いとしての行事ではない。
仮装したり、カボチャのディスプレイをしたり、「トリックオアトリート」といって子どもがお菓子をもらったり…。
クリスマス的なお祭りになっている。



そういった騒ぎにはあまり興味のない征士だが。
巨大なカボチャでランタンを作るという作業が含まれたその行事は、何故か1度だけ『南瓜が好きだ』と言ってしまった自分と結びつけられた。
学生の頃は、カボチャのお菓子攻めにあったり、恋人が『トリックオアトリック』とのたまいながらに選択肢のあたえられないままに悪戯をされた…。
悪戯をされた―――。
ただただ驚くばかりで、防御が後手に回りベッドの上で啼かされた。
男である自分が啼かされたというのは、パートナーが同性であるからだ。
その男の名は、羽柴当麻という。
ヤツにとってはハロウィンなどどうでも良くて、口実にしただけだったのだろう…。

だが、今はもう、いきなり無体を強いられることはない。
関係は続いているものの、大学卒業後に海外に拠点を移した当麻とは、互いの誕生日とクリスマスバケーション以外に会うことは滅多にない。
当麻の誕生日は10月10日で、つまりは先々週にあったばからりだ。
次に会えるのは、12月。
だから、ここ数年のハロウィンは静かなものだ。



離れてしまっている恋人を、こんな形で思い出す。

独りでいるのは当たり前のことなのに。

学生時代を思い出すと、された事への忌々しさと同時に少し物足りない気がした。



ただ、それだけだ。




街の喧噪に、少しだけ影響されたのだろう。
30歳にもなる自分に垣間見えた言いようのない感情に、苦笑いしながら。
足早に、ひとり暮らしのマンションへと帰りついた。


月末だが、今日は少し早く帰れた。
―― 夕飯はせっかくだから、南瓜料理にしようか。
スーツから部屋着に着替え、征士が台所へ足を踏み入れた処で、インターホンが鳴った。


モニターを覗くと、画面には段ボールがアップで写り込んでいる。
「宅急便です」とくぐもった声が、受け取りを催促する。


通販などしない征士への荷物は、大抵実家からかまたは当麻を含めた仲間達からからの物だ。


―― 当麻からだ


とっさにそう思った。


―― 変にタイミングのいいヤツなのだ。


きっと箱の中身はハロウィンのグッズ、もしくは南瓜を使ったお菓子だろう。
クリスマスバケーションのための、エアチケットも入っているかも知れない。


玄関へと向かいドアを開けると、伝票を差し出された。
サインをしながら、送り主の欄を見ると、ToumaHashibaと書かれている。
やはり、な。と思いながら箱の受けとる。


――― いやに、軽いな


不信に思って、箱に付いている伝票の内容物に目を落とす。


――― Love&My…self?


すると。


「まだ気づかねーって、冷たいよなぁ」


立ち去るのが遅いと思っていた配達人から、聞き慣れた声がした。


「当麻?!」


日本にいるはずのない恋人が、宅配業者の仮装をして笑っていた……。









「どうしたのだ?」


それ以上、征士は言葉が出なかった。
とりあえず玄関のドアを閉めたが、たたきから動けずにいる。
離れた場所で働いているはずなの相手が、目の前に現れたのだ。
しかも、宅配業者を装って……。


「ハロウィンだから」

「馬鹿を言うな」


それだけの理由で遊びに来られる距離ではない。
ふざけるなと睨みつけると、隠す事でもないのだろう、さらりと告げられた。


「本当は来年から日本に帰ってくるから、その打ち合わせ」

「ならば、何故この前言わなかったのだ」


この前とは、誕生日に逢った時の事。
もう予定は決まっていた筈だ。
知っていれば、こんなにも驚くことはなかった。


その不満げな顔を分かった上で、当麻は笑いながらに言う。


「もちろん、驚かせるために決まってんじゃん」


―― 確かに驚いた、が!


本来、征士は驚かされる事は得意ではない。
特に、嬉しいことならばどのように反応していいのか、戸惑ってしまう。
当麻に逢えることも、そして来年からはこちらに帰ってくるということも、とても嬉しいサプライスなのに。


なんとか笑顔を作った征士を、「サインしたんだから、受け取れよ」と当麻が抱きしめる。
その暖かさと抱き返した身体の厚みに、征士の現実が追いついてきて。
やっと、身体と笑顔から変な力が抜けて、嬉しさに包まれた。


「ああ、受け取らせてもらおう」

「ハロウィンの夜を楽しもうぜ!」


征士の応えに嬉々として、当麻がキスを求めてくる。
唇を密にしながら、靴を脱ぎかまちを上がり、そのまま玄関脇の寝室へ連れ込む。


素早い当麻の勢いに流されて、寝室に連れ込まれると。
数年前のこと――訳が分からないうちにされた行為が脳裏をよぎって。
制止をかけなければと、唇を離し予防線を試みる。


「まさか、今さらトリックオアトリックとか言わんだろうな」


「トリックオアトリートでもいいけど。お前はお菓子なんか用意してないだろ?」


ベッドに圧しながらTシャツの中に冷たい指が忍び込ませている相手は、悠然と言い放った。


「だったら、悪戯されんの一緒じゃん」


年を重ねているのに、変わらず為される悪戯。
もしくは、年を重ねた分、始末が悪いかもしれない…。



当麻の笑みに、悪魔的なモノを感じた征士だった。



Happy Halloween Love Night !!



END



もう11月なのに、ハロウィンw 季節感なくてすみません^^;
箱の中身が悪戯のためのグッズで。。。という話なのですが、まぁ時間切れ。
私の中では、「ハロウィン≒カボチャ祭り≒征士さんのための…」なので、書きたかったんだ!(満足☆)


2014.11.07


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