Living vagrant spirit 






明け方。
ふとした気配を感じて目を覚ます。


部屋を見回せば。
視界には、見慣れた本棚と小学生から使っている机。
その隣には、古めかしい洋服ダンス、布団をしまう押入れ…。
幼い頃から住み慣れた自分の部屋。仙台だ。

まだ、帰ってきてから一か月も経っていないが、間違えるはずもない。
生まれてからずっと暮らして来た馴染みの深いある部屋。
なのに、違和感を感じる。


何者かに、見られている様な気がしたのだ。


しかも、敵意や殺気ならば即座に反応できるだろうが、悪意は全く感じないのだ。
実は数日前から何となく感じていたのだが、気のせいだろうと思っていた。
だが。今日は、かなりハッキリと感じたのだった。


――― なんなのだ?


もう一度、部屋を見回して様子を伺う。

ピピピピピピピ

張り詰めた空間に、目覚まし時計がけたたましい音をあげた。
布団のすぐ横に手を伸ばし、スイッチを切る。
すると、その不思議な気配は消えてしまった。








そんな事のあった晩に。

大阪へと帰った仲間から、電話がかかって来た。


「なぁ、征士。お前さぁ、困ったことあるんちゃう?」

「無いな」


とっさにそう答えたのは。
弱味を見せたくないとの思いが半分。
明け方の気配には、悪意を感じなかった事が半分。


「何故そう思うのだ」


連絡を取る等という事に頓着しなさそうな相手が、わざわざ電話をかけてきたのだ。
その事が気にかかった。
智将として動いていたヤツでもあるし、理由は聞いておくべきだろう。


……そう言えば。


夏休みまで小田原での共同生活を終えると決めた時から、当麻の様子はおかしかった。
言いたい事があるのに、言えないといった素振りを見せていた。
強気でよくしゃべる男が、口ごもるという不思議な現象さえ見せたのだ。
2度3度と訊ねたが、『急ぎの事じゃない』『妖邪関係ではない』との返答しかなかった。
だから追及はせずに、そのままにして帰って来た事を思い出した。


もしかしたら、当麻が話せずにいた事とこの電話は関係があるのかもしれない。
今日こそは、しっかりと聞いておくべきだろう。


「電話をかけようと思ったきっかけは、なんなのだ」


『いや、なんというか』などと口ごもっている。
声が小さく聞こえてくるのは、600km離れた先に口があるせいではないだろう。


「ハッキリ言わないか!」

「いや、ほら―――夢に人が出てくると、その人に何かあったって言うだろ?
 だから、征士に困った事でも起きてるんじゃないかと思ったんだ」

「私が出てきたのか? 」


困ったこと等は起きていない。全く心当たりはない。
確かに、一年ぶりの仙台での生活は、まだしっくりは来ない。
だが、時間が解決すると分かっている事だ。悩みとは言い難いレベルだ。
ましてや、その事で当麻に助けを求める事など、有り得ない。


「どんな夢なのだ」

「畳の部屋で、征士が寝てる」

「私が寝ている、だけ…?」

「そう。別に困っているとか苦しんでるとかじゃないんだけど。
毎晩見ると、流石に気になるだろ」


だから電話したんだ。大丈夫か?と続いた台詞は、右耳から左耳へと通り抜けた。


「毎晩…」

「ここ1週間ほどかな?連続で」

「………………お前か」

「へ?」

「それは夢ではないかもしれないぞ、当麻」

「えっ?」

「私は何者かの気配を感じていたのだ。寝ている時にな。
お前の方が生霊になって、来ているのではないのか?」


電話の向こうでは一瞬間があってから、『あぁ』と悲嘆にくれたような声が聞こえてくる。
心当たりでもあるのだろうか?


生霊の存在など以前ならば信じなかっただろうが、否定するには奇妙な闘いを経験してしまった。
だから私の中での問題は、精神体を飛ばすのであれば、何かしらの強い思いがあるはずだという事実。
いくら飛ぶのが得意だった男とはいえ、意図的に精神体を飛ばすのは容易であろうはずがない。
という事は、当麻は無意識なのだ。


それ程に―――。


「私に恨みでもあるのか?」


共に戦った仲間であるがゆえに、言いたくても言えなかった事あるのだろうか。
同室で過ごしている間に、私には思いもよらないような不利益を、当麻は被っていたのだろうか。
皆のいる柳生邸では言い辛く、今日まで貯め込んだ、積りに積った恨みのような、何か。


当麻に恨まれていた、と考えると胸が痛む。
信頼していた人間に恨まれていたと知れば、なかなか立ち直れない。
過去の自分の言動を省みて、落ち込むであろう。
私にとって当麻は、ただの友人知人ではない。
生死を共にした、特別な存在なのだ。


だが、生霊を飛ばすほどであるならば。


事実であるならば。


「遠慮なく言えばいい」

「あるのは―――恨みじゃない」


声を発すると同時に、別の言葉が届いた。
恨みではないのか。
それを聞いて、少し安堵する。


「では、何のだ」


先程から、私ばかりが訊ねている。
中身の見えない箱の外側ばかりを伺う様な会話に、苛立ちが募る。

当麻も、ハッキリ言えばいいものを。
顔が見えない距離での会話が、もどかしい。
直に会っていれば、今度こそ逃がさずに聞けるのだが。


「聞きたい?」


この期に及んで、何を言うのだ。
聞きたいに決まっているではないか。


「ああ、もちろんだ!」


「10月の休みに仙台に行って、会って話すから。予定明けといて」


先程の【顔を見て話せば、逃がさずに聞ける】との思いを察知したかのような提案に。
承知したと答えて、電話を終えた。


10日の祝日に来ると言っていた。
ちゃんと聞ければ、もやもやとしていた霧が晴れるはずだ。
その時が、楽しみだ。



自分の部屋に帰って、寝る準備をしながら、部屋を見回す。


もう、あの気配で睡眠を妨げられることはないはずだ。


今晩は、ぐっすりと眠れるだろう。








Living vagrant spirit ―生霊とばすほどに恋してます―  END





【当麻の部屋に入っても征士さんはしばらく無言なんだけど、当麻は何かいつもと違う気配を感じて、
じっと征士さんのいる方を見つめるんです。…そのワンシーンだけの夢だったんだけど、
目が覚めてしばらくしんみりしちゃった。】

とのついったの発言(bykameko様)の前半だけ読んで、勘違い妄想。
風宮脳内変換≒らぶはぴ変換でこうなりました話w
(征士と当麻が逆だしwだってこの設定だと、征士さんの方が絶対早起き!)
ほんとに、しょーもないorz
でもでも、生霊とばすほどに想っていてくれるのっていいなぁって思ったんです(笑)

そんな訳で、kameko様 (無意識の)ネタフリありがとございましたぁ?


2014.09.24




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