better not to know 




――― 征士。

知らない方がいい事って、あるんだぜ? 




不機嫌な俺に、その原因を聞いてくる礼の戦士。

それは、心配してくれてんの?好奇心?いたわり?なんなの?


「気にすんな」

「そう言われても、同じ部屋なのだ。気になるであろう」


自室のベッドに横になったままでの受け答え。

顔も向けずにいる俺を、きっと快くは思っていないだろう。


「お前じゃ、解決できない」


―― お前しか、解決できない


真逆の本心は、出せない。



「そうか。では、力になれることがあるのなら言ってくれ」



こっちのベッドに歩み寄ろうとした動きが、止まる。

征士のすんなりと引く態度を、寂しく思う。



なんて勝手なんだろう。

踏み込んで欲しくないけど。

距離を取っても欲しくない。



ますます気分は降下線をたどり、地平線にめり込んでいく。

見当違いとは分かっている。

でも、どうしようもない。

どうしようもないから。



「じゃあ、ちょっとだけ、力を貸してくれるか?」

「ああ。何ができる?」



起き上がって、征士を見れば。

――― 嬉しそうな顔してやがる

人の気持ちも知らないで。

仲間の役に立つのが嬉しんだろう…。



「そのまま、立っててくれ」


重要な事のように、端的に指示を出す。

不可解な指示に、『こうか?』と聞きながら、立ちつくす征士。


「目を瞑ってくれ」


征士は、黙って、真面目な貌のまま、目を閉じる。


「少し…そのままで」


そう言って、征士に近づいていく。



涼やかな線を描く輪郭とそれを隠すような長めの前髪。

肌理の細やかさは、性別を超えていると思う。

まつ毛が微動だにしないのは、これからを知らないから。



通った鼻筋にぶつからない様に、自分の首を少しだけ傾けて。

その下にある柔らかさそうな唇に、自分のそれを近づける。



夢で貪った紅い唇。
現実ではないのに、甘い味と香りがして。
さらに、えげつない欲求が高まり。
鼓動の大きさに、当惑して目が覚めた。


寝不足と不機嫌の原因。




今も。

心臓は仕事を頑張りすぎていて、苦しい。

でも。

征士は、気づかないで欲しい。動かないままでいて欲しい。



「動くなよ」


唇の表皮が擦れるほどの距離で囁き―――触れる。



間もなく。

伝わる。

温もり。

と。

微かな弾力。

柔らかな感触。

ホンの2,3秒。




ビクッと征士が身体を引いた瞬間に――離れた。




「当麻?」



見開かれた薄紫が、困惑と疑惑を映す。

後ろめたくて、直視出来ない。



「知らない方がいいことってのは、あるよな」




呆然としているヤツを、部屋に残して。

発熱する唇を冷ますために。

風を求めて外へ向かう。





知らない方がいいことは、確かにある。



知ってもどうにもならないことは、知らない方がいい。

知ってしまってから――俺はずっと困惑して葛藤して想いをこじらせてる。




だから、征士。

知らない方がいいことってのは、あるよな。





END



何の実験だったのだろうか?
ぐらいのにっぶにぶの征士さんもいいと思うのです!
ふひひひひっ☆
(っていつも似たようなお話ばっかりだ!すみませんっっ)

2015.03.03


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