まちあわせ




『帰って来た。会いたい。今夜9時、いつもの店で待ってる。当麻』




文字の影に、5年前に突然消えた馬鹿者の青い瞳が見える。

見慣れないアドレスからのメールを開いたのは、偶然か必然か。
自分が連絡先を変えずにいた事は、ラッキーなのかアンラッキーなのか。




大学4年の夏休みに入ってすぐに、海外での就職先が決まったと旅立ち、そのまま音信不通になった当麻。
昨夜まで甘く熱く肌を重ねていたというのに、翌日には近くのコンビニにでも行くように出ていってしまった男。

『別れる』や『待っていて欲しい』など、私たちの関係をどうするのかを話すことなく消えたのだ。
すぐに帰るとも思えないのに…。
「ドイツのMPG(エムペーゲー)に呼ばれてるんだ」
この台詞が最後だった。
ヒドイヤツだ。


たが、私は知っている。知ってしまっている………。
今、当麻は疲れきっているのだ。
そんな時だけ、姿を表す。
以前にも、二度ほどあった。
暗いベッドの上で、熱のひいた体を離し微睡んでいると。
先に眠ったと思っている私を、当麻が背中から抱きしめてきた。
抱くような激しさも愛おしさを伝えるような優しさもない力加減で。
震えているようにさえ感じた、腕。
そして一言、私の名前を噛みしめるように呟いた。
らしくない様を、弱みを背中で知ってしまった。




惚れた弱みか、情けの極みか。



私はこの五年ぶりの連絡を無視できない。


だが、返信などしないし。
学生時代に入り浸った『いつもの店』が閉店したのも教えない。
せいぜい、時間の流れに驚けばいいのだ。


出かける準備をしながら、行くべき店を思い浮かべる。
街の片隅にあった小さな店以外で、向かう場所はただ一つ。
かつて一度だけ行った場所。
いつもの店で食事をした帰りに、ちょっと敷居の高そうなバーを見つけたのだ。
学生には似合わないと知りながら、地下への階段を二人で降りていった。
「記念にいいだろ?」と当麻は笑っていた。
ちょうど私の誕生日で、アトランティック・コニャックという誕生日のカクテルを奢ってもらった店。
バーテンダーの酒も接客も雰囲気も上品で素晴らしかったが、まだその時の私たちには早かった。


「また後で…何年かしてから来よう」
そう言ったのをあの薄情者は覚えてるだろうか。



その店に当麻が現れたら、5年間の音沙汰無しを許してやってもいい。
逢えなければ、それまで。
チャンスは多くないものだ。






それでも、何となく予想できる。


きっと当麻は時間より遅れてやって来て。
慌てた素振りを隠しながら、
「たまには帰ってこないとダメだな」とか言いながら、カウンター席の私の隣に座るだろう。
そして、私にまたアトランティック・コニャックを注文するのだ。



(了)





一日早いけど!
征士さんお誕生日おめでとうぅぅぅぅ(≧▽≦)
すきすき大好きーっっっ!
あああああ目出度い!!!


ちなみに、6月9日の誕生酒アトランティック・コニャックは
ブランデーとコーヒーリキュールとオレンジジュースのカクテルです。
カクテルのメッセージは「手に入れたいものを見極める目の持ち主」
そうなのよねー征士さんは当麻さんを…(愛)
きゃー///うふふふふ(*´艸`*)


2018.06.08

kazemiya kaori



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