リップクリーム
今年は寒くなるのが早すぎた。
口づけてきた唇が、がさがさだとはっきり分かるほどに荒れている。
本人は、あまり気にしてないかもしれないが。
――― 明日にでも、買ってこよう。
いつもと違う感触のキスを受けながらに、征士は思う。
例年であれば。
そろそろ必要だなと、征士がリップクリームを二つ購入するのだ。
一つは自分用。一つは、当麻に渡す。
もう、何年も続いている―――。
初めて当麻にリップクリームを買ったのは、高一の冬。
終業式を終えただろう当麻が、ふらりと仙台に現れたのだ。
クリスマスイルミネーションに彩られたケヤキ並木を見たいとかなんとか。
理由はよく分からないまま、大通りを歩きはじめた。
その時、冷たい風に唇が乾き、何気なくリップクリームを使ったのだ。
「それ、ちょーだい」
突然に言われて。
当麻の唇を見てみれば―――荒れている。
飛行機での乾燥や仙台の寒さ等を考えれば、大阪ではなんともなかったのが急に痛くなってきたのかもしれない。
使いさしではよくないだろうと思い。
征士はすぐに近くのコンビニ入り、新しいリップクリームを買って渡したのだ。
「お前って、分かってないよな…」
「何がだ?」
同じメーカーの緑のリップクリーム。
そんな事を言われる筋合いは無い。
――― リップクリームをクリスマスプレゼントだと思ったのだろうか?
会ってからすぐに赤と緑の包みを渡されて、お礼を言っていた。
当然、征士からはプレゼントなど用意していなかった。
というか、来る事など想像もしていなかったのだから、出来るはずも無かった。
「クリスマスプレゼントではないぞ?」
「そう言う意味じゃないよ。まぁ、いいか。そのうち分かるだろ」
『さんきゅ』と受け取り。その場で、リップクリームを塗った当麻。
話はそれで終わった。
征士が。
台詞に込められた意味を知ったのは―――次の年のクリスマスだった。
あれから何年も経って。
お互いに社会人となり、接吻もそれ以上の事もする関係になったが。
毎年、征士はリップクリームを渡している。
『好きな人との間接キス』なのか『想う人の触れたアイテムが欲しい』なのかは分からないが。
普段はひょうひょうとしていて捉えどころのない男の、可愛らしかった発言を忘れたくないからだ。
だから、今年も買うつもりだった。
しかし、急な冷え込みんだために間にあわず。
当麻の唇は、見事にささくれてしまった。
そして。
今の今まで。
リップクリームを買っていたのを、当麻の為だと思っていたのだが。
「…………………ぅッ…んん……?」
薄くザラリとした唇が、触れるか触れないかで肌を這いまわる刺激は予想外だった。
ぞわりとした甘い戦慄が、皮膚を粟立たせる。
それを知って。
当麻は乳首にねっとりと口粘膜と舌でしゃぶり付くと。
硬くなるまで愛撫を続けてから。
十分に紅くなった突起を、毛羽立った唇の先で幾度かこすり上げる。
「――――!ぁあ!」
息をつめて感じていたのに、慣れない刺激に嬌声が漏れる。
濡れた筆先と乾いた花びらに、交互に掃かれる感覚。
たまらずに、下肢が熱く震えた。
「リップクリーム、買わない方がいいかもよ」
征士の反応に、小憎らしい言葉が返されたが。
揚がってくる快感が邪魔をして、声帯がままならない。
「…ぁぁ……………ん…………や………っぁ……」
啼かされながら。
覚えていろ、と。
心の内で、凄むことしかできない。
そんな。
長い冬の夜の始まり―――。
END
いつものようにいちゃいちゃしてます(笑)
同じような話を以前に書いたかなぁ〜?
もしかして、他の方に読ませて頂いたのかなぁ?
って、毎回思うんです。
もしそうだったら、すみません!!!(反省!!!)
ちなみに、変態と切り捨てないのは征士さんの愛ということでww
乙女話にしといてくださいwww
2013.12.16
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