A wise horse ―賢馬― 




「そちらではない! 何故いうことを聞かぬのだ!」


―― 今までは、よく命令を聞く賢い馬だったのに…。肝心の所で言うことを聞かない。


反対方向に駆け出した馬に、セイジは怒鳴り声を張り上げた。
それでも声は風に消えていく――それほどのスピードで駆けて行くのだ。
手綱を引いても、一向に速度は落ちない。
それどころかますます速くなり、振り落とされないようにするだけで精一杯だ。


自国に戻る前に訪れた国の国境を少し遡り、敵国の様子を偵察してから帰るつもりだった。
七日間の予定を終えた最後の日。国境警備に見つかってしまったのは、迂闊としか言いようもない。
だか、兎にも角にも逃げる他ない。

三国の境が入り交じるこの地域は、森も深く逃げきれるはずだった。
もう少し右方向に駆け抜ければ、自国の領に達するのに――。
一週間前に乗り換えた新馬がいうことをきかない。

敵国の領内へと脚を向けて、疾走するのだ。
振り返ると、後方に追っ手の姿。木々の間合いに見てとれた。
脚が速いのが、唯一の救い。
しかし、このまま敵国深くに入られては、逃げようがない。







この新しい馬を手にしたのは、ちょうど七日前。
密書を携え隣国を訪ねた際に、大きな市が立っていたのだ。
なかなかの出店の多さに、この国の豊かさを実感した。
この度の友好条約が正式に締結されれば、自国にとってどれ程有益かと心弾む。
一方で敵対している国には、強い牽制となるはず……。
目立たぬ様一人で訪れたのは。
未だ水面下でしか動けていない友好の密約を、反対勢力に見つからないようにするためだ。


密書を手渡すと云う重責を無地に果たし、セイジは気分転換も兼ねて市の賑わいを見て歩く。
と。武具の店の隣で、珍しい青い鬣の馬が目についた。
傍らには売り主の老人がおり、じーっと通りを見ている。
美しい毛並みは目を惹く種だった。
悪目立ちは困ると思い、セイジが立ち去ろうとした時。
しわがれた声に呼びとめられた。


「そこの方、この馬をどうぞ」

「いや、結構だ。私にはこれがいる。まだ十分に走れる」

「ですが、貴方様は選ばれました故。仕方がありません。今、手にある馬も諦めておりますのじゃ」

「何のことだ?」


セイジが不審がっていると、隣をおとなしく歩んでいた馬がぴたりと足を止めた。
もう、共には進めないとでもいうように。


「お代はその馬と交換と言うことで結構です。人間よりも賢き馬ですが、多くは望みますまい」


老人は手綱を交換する動きを見せながら、独り言のように続けた。


「この馬は売ってもすぐに戻ってきてしまうのです。自ら望んで行くというのなら、これほどのことはない」


それから、蒼い瞳を持つこの馬の素晴らしさを語った。
かつては空を駆けたという天馬の血を引き、今も風を切るほどに速く走る。人語を良く解し、主を助ける。
如何に優れているかを語ったのだった。




確かに。
その後一週間に渡った隣国の視察において、よく働いてくれた。

精力的に行動するセイジにつき従う馬は、視察の途中で体力が衰えるものも多い。
それなのに、この青馬は難なくこなした。
しかも、己の目立つ姿を、左程人目を引かないようにする術まで身に付けていた。

何より乗っているセイジが疲れにくかった。
人の動きを良く読み、楽なように乗らせる方法を知っているのだ。
まだ七日しか供にしていないとは思えない程に慣れ、老人が言っていた天馬の血筋を認めざるを得なかった。
セイジが労いと感嘆を込めて、無駄のない均等のとれた躯や能力の高さを褒めると、嬉しそうに嘶く。
セイジも信頼と親しみを持てる相手に出逢えたのが、嬉しかった。そんな関係が、続いて行くはずだった。


その馬がまったく指示に従わない。


焦りながらもしがみつき、森の奥の細道を駆けて行くままに任せるしかない。

あまりの速さと道の悪さに、追っ手の姿は徐々に見えなくなって行く。

やがて小高い丘の縁を迂回するようにして、完全に姿を敵から隠す。

やっと。ややスピードを弛めて、進路を右方向に少しずつ調整をしているのが分かった。







「危ない所だったのだな?」


その日の夕暮れには自国の領にたどり着き、そのまま自分の屋敷に帰って来られた。
敵国内を大回りした事になったのだが、結果として無事だったのだ。
いつも使う道には、少なからぬ追っ手がいたのかもしれない。
あと少しの距離で自国だとの油断を、諌められた形になったのだ。

セイジの問いに、そうだ言わんばかりに青馬は首を縦に振った。


「そうか、礼を言うぞ」


すると、もっと褒めろと云わんばかりにじっと見つめてくる。
人間ならば胸をはっているだろう馬に、「褒美を考えておこう」とセイジは笑いかけた。

そして、もう一度頭を撫でてから、久しぶりの自室へと戻っていった。
疲れが一気に出て、セイジはそのまま眠りに落ちた。






※※※※※






深夜。人の気配がした。


一瞬で覚醒し、身構える。
すると、薄闇に長身の陰がゆらめくのが視えた。


「敵じゃない。セイジ」

「誰だ」


窓際まで歩いてきた男が、月明かりに浮かび上がる。


「俺」

「おれ?」


まじまじと見れば、青い髪と同じ色の瞳―――。


「まさか………妖馬か」

「妖馬じゃなくて、トウマって呼んで」

「トウマ……」

「ご褒美をもらいにきた」


その声が聞こえた時。
セイジはベッドに押し倒され、唇を犯されていた。


「こ…これが……褒美なのか?」

「ああ、何よりの褒美だね」


セイジは夢でも見ているのではないかと思った。

――きっと私は無事に帰ってこられ安堵し、深い眠りに着いているのだ。
  疲れが見せる奇妙な夢……ただの夢だ。


そう思いたかった。でなければ、信じられなかった。
賢いと引き取った馬が人型に変容し、褒美に身体を求められなどと。
しかも、相手も自分と同じ男性体なのだ。


「一目見て気に入ってたんだ。……一週間我慢してた」


抵抗しようにも。
何がどうしたものか、力が入らなかった。
そうでなければ、武勇に秀でている自分がいいようにされる筈がない


セイジの混乱を他所に、トウマは夜着の中に指を忍び込ませていた。


「撫でられるのも良かったけど、撫でる方がスキ」


戯言を口にしながら、トウマの手のひらががセイジの素肌を撫で這い回る。


「………っ」


時折沸き上がる不思議な感覚に、困惑で息が止まる。
セイジの様子を察知すると、トウマは同じ場所に唇を移動させて吸い痕を付ける。


「ぁ」


意図しない声が上がり、セイジの顔に朱に染まった。


「もっとカンジて」


あちらこちらに痕が残され、その度に身体がびくっと震える。


「ぁ…よ……っせ……ぁぁ……」


抵抗もままならないセイジが睨み付けると。
愉しそうに笑うトウマと目があった。と、途端に身体が熱くなる。

人形に変容する妖力の一部なのか、深い藍色の瞳に見つめられると。
明確な思考に霞がかかり、皮膚の下が熱くざわめく。


「んぁぁっ」


トウマに胸を舐められ、濡らしながらねぶられると。
抑えも効かずに、嬌声が唇から零れた。
胸から強く流れた官能が火種となり、欲を発火させる。
下肢が昂り始め、意識がそこの集中してしまう。


「ここもいいんだろ?」


確かめるようにトウマの手のひらに包まれたセイジは、大した刺激など与えられていないのに、硬く泣いている。
与えられた愛撫が、どれ程気持ちがいいか……雄弁にトウマに伝えてしまっていた。


人に変じた相手は、散々セイジの反応を愉しみながら、一度高みに導いた。
そして今度は自身を受け入れさせるために、奥を指で解しはじめる。


――― 生理に反する行為なのに痛みが少ないのは、


青い瞳のせいなのだろうか。
僅かに残る理性が、おかしいと言っているのに、セイジは喘ぐ事しかできない


「……ぁあっぁぁ…ぁ……」


指で中を巻きまわされると、もっと欲しくなるような疼きが広がっていく。
慣らすような丁寧な動きが繰り返され、指の本数が増やされて。


「もう大丈夫かな」


この言葉が合図のように、指よりもあからさまに大きな質量が、裡に侵入してくる。
受け入れるようには出来ていないはずの身体が、ゆっくりとトウマを呑み込んでいく。


「くぅ…ううぁああ…」


痛みはないままに、快感だけが増して中を埋め尽くす。
本来、普通の男なら知り得ないだろう快感に、戸惑いながらも。
せり昇る甘い痺れに押し上げられ、知らずにトウマの肩を縋るように掴んでしまった。


「大丈夫、だろ?」


トウマが何を言っても、返事をする余裕もない。
隙なく密着した部分が、不自然に蠢き――どうにもならない……。


「そろそろ、いいかな」


落ち着いたころを見計らい、トウマはセイジの片腕を取りながら腰に逆の腕を回して、つながったままの身体を抱き起こした。
自らの重みで、最奥までトウマを迎え入れてしまう。


「ッァァ」

「動いて、セイジ。俺に乗るの、得意だろ」


動けずにいるセイジは、腰を掴まれ揺すられる。
と、内壁がめくられる快感に埋め尽くされ、理性が機能しなくなったセイジが、ゆっくりと自ら動き出す。


「んん………んぁ………ぁあ」


自分で動いているのに上がる声をコントロールできない。
強い刺激で一気に達する雄の性とは異なる、どんな刺激でも積み重なるままに深くなる快楽。
その熱さに意識が保てなくなりなりそうだった。
それなのに追い求めるのを、自ら揺れるのを、止める事が出来ない。


「ぁっ………あ………ん………」

「上手いよ、セイジ。こっちの相性も最高だな」


もっと良くしてやるよと告げたトウマの手が、無防備なままに放っておかれたセイジの幹を優しく握り。
セイジの動きに合わせて、手をスライドさせる。


「ぁあ……ト……ウ…マ…ッ…」


そのまま一気に昂っていくセイジ。

合わせるように、トウマは激しく突き上げ、共に限界を迎えた。






はぁはぁと荒い呼吸を繰り返すセイジが、身体を離そうとすると。
腰を掴んでいるトウマの両手が邪魔をする。

「?」

訝しく思うセイジの中で、トウマの欲が質量を取り戻し、理由を告げてくる。

「もぅ………無理だ……」

トウマはにやりと笑い、崩れそうになる征士を抱きかかえた。

「今度は俺が気持ちよくするからさぁ」

 引き攣っているセイジに口づけしながら、上下に律動し開始する

「んっ……あ……んんっ…ひ……」

余韻も熱も燻ぶっている身体が、声を上げさせた。
その甘い響きを愉しみながら、賢馬は明日の事をに口にする。



「どんなに腰が疲れても大丈夫。昼間も落としたりしないから」



 自信のある言葉は、更に続くであろう激しい騎乗を暗示していた―――。



END




スパークにて無料配布させて頂いたお話を UPさせていただきました!

今回のテーマは『真の騎乗位とは何か』でした(笑)←ほんっとにすみませんすみません。
パラレルは苦手ですがどうしても書きたくて、へろりと書かせていただきました。
楽しかったwww
お付き合い頂き、ありがとうございました!

2013.11.07 サイトUP
2013.10.27 イベント配布物
 



 当征TOPへ戻る