忘年会
忘年会
12月28日。
一仕事を終え、昼過ぎに帰宅してから。
カレンダーを見つめて、伊達征士の気分は重くなった。
今夜は、仲間たちとの忘年会だ。
仕事納めの日に、帰省する前に集まって飲もう!と一か月前から決めていたのだ。
決めた時は楽しみにしていたし、当然参加する気だった。
だが。
今は。
行きたくない。
と、いうか行き辛い。
自分の性格から行って約束を破るというのは、良しとはしないし。
また、行かないと告げる時に、その理由を聞かれると嘘が下手なので困る。
だから、行くしかないのだと思う。
分かっていながらも、諦められずにいるのだ。
行きたくない理由は……。
―――なぜ、あんなことを…。
伊達征士の脳裏に、グレーの靄と一緒に浮かび上がる、あんなこと。
あんなこととは、そんなこと。
つまり、人生で初めて他人と床を共にしまったのだ。
もちろん二十代も半ばでは早いとはいえないし。
成人済みなのだから問題はないはず。
ただし。
相手が悪かった。
悪かったというか、今日会う仲間のひとりなのだ。
あんなことのあった後で、顔を合わせるのは非常に気まずい…。
なんでそんなことになったのかと、ずっと思い出し考えているのだが。
4日たった今でも、よくわからない。
わからないままに、そうなっていたのだ。
***
クリスマスイブの日に、特に付き合っている相手がいない友人同士で。
家で鍋を食べるというのは、おかしくないことだろう。
――― 実際、当麻の家で、せめても豪華にと蟹の鍋をご馳走になった。
鍋をつつきながら、酒をのむのも普通だろう。
――― 実際、自分が持っていった日本酒と、当麻が用意していたシャンパンとワインを飲んだ。
なかなか酔いもさめず、終電もなくなったこともあって、泊めてもらった。
今までにも、数回あった。
――― そう。今までは、普通に泊まっていたのに。
その日は、普通じゃなかった。
気づいたら。
キスしていたし、服は脱いでいたし、性行為をしていた。
あれ以来。
当麻には連絡をしていない。
むこうからも来ない。
きっと、当麻も。
当麻を受け入れた自分に対して、声のかけようがないのだろう。
いくら泥酔に近かったとはいえ、記憶もあいまいなままに、一線を越えてしまった。
友人同士で、同性同士で。
本来なら、ありえない。
その良心のブレーキか、酔いのせいか。
最中のことは、思い出せない。
記憶にハッキリとあるのは。
翌日の早朝、まだ暗い時間に目を覚まし。
裸のまま抱き合って眠っていた事実に、呆然としていると。
ゆっくりと昇って来る太陽が、自分たちの現状を朝の光に浮かび上がらせた光景。
本当にあったことだと、現実だと、征士の心に刻まれた。
ショックで震えるままに。
征士は、そっと、当麻を起こさないように、ぐしゃぐしゃの服を身につけ。
逃げるように帰ったのだった。
***
「はぁぁぁぁぁぁ」
征士は深々とため息を吐き出した。
忘年会との、その文字の通りに忘れさせてくれたらどんなにいいのだろう。
いっそ、腹をくくって。
当麻に『共に忘れよう』と告げ、酒を飲み、無かったことにするか。
帰ってきてから着たままだったスーツを脱ぎ。
薄くなったキスマークを確認して、ほっとしつつ。
重い手足を動かして、普段着に着替える。
帰省の準備はもう終わっていて、明日午前中の新幹線で仙台に帰る。
待ち合せまでもうやることがない。
持て余した時間が、征士を悩ませる。
出来ることといえば、息を吐くだけ。
ピンポーン
何度目かの大きなため息を、吐き切らないうちにインターホンがなった。
「はい」
「俺、迎えに来た」
「当麻?」
悩みの種が、玄関にやってきていた。
なぜやって来たのだと、訝しんだ征士だったが。
遼達に会う前に、きっと当麻も『無かったことにしよう』と言いに来たのだろうと思い。
玄関のドアを開ける。
入ってきた長身の男は、妙に上機嫌だった。
「この前さ…」
「ああ。あの件は、もう気にしていない。今日は忘年会だから、忘れるということでいいだろう」
「へ?俺は、この前渡し損なったから、プレゼント持って来たって言おうとして」
「プレゼント?」
当麻がポケットから、小さな何かを取り出し。
品のある黒いベルベットのリングケースが、目の前で開けられた。
「そうプレゼント。ステディリングっていうか。いや、婚約指輪でもいいんだけど。
………お前さ、もしかして、記憶ないのか?」
「……」
ない訳ではないが、ところどころ空白の征士は、なんと応えていいか分からない。
「お前は…確か抱きたいと言ったのではなかったか?」
「そりゃ言ったけど、その前にちゃんと告白しただろ?」
「…………」
『抱く』という言葉の衝撃で、直前の告白の記憶は飛んでしまったようで。
征士の回想映像には残っていなかった。
「で、お前は『わかった。いいぞ』って答えただろ?」
―― まさか?
―― 本当に?
口に出した返事も覚えていなかった。
―― そんな事を、自分は言ったのか?
であれば、あんなことになったのもわかる気がするような…
まだ、呆然と固まったままの征士。
一方で、当麻は半ばあきれながらも、このパターンはイケると踏んでいる。
クリスマスイブの時も同じ状況で、そのまま自分の望む流れになったのだから。
「征士。忘年会ってのは、その年にあったことを忘れるためだけじゃなくて、
その年を忘れないようにするっていう意味もあるらしいから。
俺が告ったこと、もう一生忘れんなよ」
そう言って。
当麻は笑顔になり。
征士の左手を取り。
その薬指に、指輪をぐいっと強引に填めたのだった。
END
ああああウチでよくある酒で記憶ないパターン☆
でも、大好きなの!!!すみませんー(笑
今年もよろしくお願いいたします^^
そして☆
企画様!!万歳!!!ありがとうござます―――O(≧▽≦)O
2016.01.07 七草の日に忘年会ってwww
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