4月1日
『俺、征士のこと、愛してるんだ』
当麻がそう言ったのは、飲んでいた店を出てからだった。
駅まで続く、細い裏道の途中。
人気のない、薄暗い闇の中。
告白するには、悪くないシチュエイションだろう。
だが、今日は4月1日。
エイプリルフールだと、知っている。
酔っぱらった当麻の戯れ言、なのだ。
もう、本気に受け取ったりはしない。
去年の二の舞など、踏まない。
一年前の今日。
当麻は、同じような嘘を口にした。
『征士が好きなんだ』と。
新年度に変わった当日だ、いくら準備していたとはいえ。
部署に配属される新人の対応などに追われて慌ただしかった、その日。
私は、エイプリルフールだという世間的な雑事など忘れていた。
だから。
当麻が本気なのではないかと勘違いして。
おおいに戸惑う……。
居酒屋を出てから数メートルで、酔いが一気に醒めた。
なんと答えればいいのかと、沈黙が長く続いたが。
洒落の分からない私に、呆れたような笑いを浮かべて。
『冗談。今日エイプリルフールだろ?』
と、種明かしをされたのだった。
同じ手を食うものか。
台詞で変わったのは『好き』が『愛してる』になっただけ。
いくら鈍いと言われる私でも、嘘だと分かるというものだ。
さすがに今年は、真剣に悩んだりしない。
軽く返せばいい。
悪意のない嘘―――ホワイトライなのだから。
何を言っても、『冗談』で済ませられる日だ。
だから。
「当麻、実は私もお前を愛している」
そう告げた。
言いながら。
冗談のはずが、当麻の顔を見られなかった。
"本当にホワイトライなのか?"
自問する声が、胸の奥底で静かに響いたからだ。
去年、嘘の告白に戸惑ったのは。
いきなりの言葉に驚いたのは、当然だが。
驚きは、喜びの切れ端を踏んでいたのだ。
同性である当麻からの告白に。
怒りではなく、驚きと喜び。
自身の感情に戸惑い、何も言葉は出なかった。
当麻からの想いを、受け取ってしまっていいのだろうか?
受け取りたいのか?
と、言うことは私も当麻を好きなのか?
そういう意味で、だ。
そういう事に、なるのだろうな。
では。自分も同じだと応えなければ。
待て。正直に答えれば、二人で世間に背く事になる。
当麻に、それをさせていいのか?
矢継ぎ早に、湧き出し渦巻く疑問と常識は。
初めて自覚した頼りない恋情に、絡まり固まり。
何も言えずに、沈黙が続いた。
当麻の口から冗談だと出るまで、動けなかった。
結局、『冗談』と言われて。
傷ついた気持ちは、置いてきた。
無かった事にしてしまった。
それから一年間。
今日まで、友としてかつての仲間として、時々飲んだりしている。
会社に勤めるようになっても変わっていない。
今まで通りだ。
自分の気持ちには、目隠しをして。
穏便に、平和な、関係だ。
それが、良いと思う。
時たま、苦しくなるが………。
口に出せば、苦しい処の話ではなくなる。
今日はエイプリルフール。
口に出しでも、本心とは悟られない。
「当麻、実は私もお前を愛している」
本当の想いが。
当麻の耳には冗談として届く―――特別な日。
私からの返事に。
今度は当麻が沈黙した。
去年と、立場は逆転した。
してやったり、と思ってもいいだろう。
笑みを浮かべ、「冗談だ」と言おうとした時。
笑顔がひきつったのを感じ、一瞬出遅れた。
「冗談だ」
「良かった。そうだと思ってたんだ」
やっと口に出した嘘の台詞は。
喜色満面を音にした声に、かき消され。
……無かったものになった、らしい。
「じゃあ、このまま俺ん家に帰ってセックスしようぜ」
「は?」
セックス?
いきなり話が跳んだぞ?
当麻の思考は早過ぎて、私には追い付けない事はよくあるのだが。
穏便でない言葉に、さすがに呆れ。
どこをどのようにしたら、そうなるのだ!!!!!
酔っていたので。
心の叫びは、そのまま口から一気に出た。
「だって、愛の告白して。征士もっ、て言ったじゃん。
両想いになったんだから、いいだろ?」
「当麻……今日は4月1日だ」
「12時過ぎてる。もう2日だぜ」
「………………………………」
そんな馬鹿な。
「去年、固まっただろ?だから一年間猶予をやったんだ。
俺達、10年ぐらいあやふやだったんだから、さ。もういいだろ。」
「いきなり…………」
「お互いの事なんでも知ってる。あと足りないのは身体ぐらいなもんだ。
だから、今すぐセックスしたい」
へ理屈で正当性を主張してくる厄介な、ヤツ。
どうあっても、言葉では勝てる気がしない。
「道でわめくな!酔っぱらい!」
殴ってやろうかと振り上げた腕は、掴まれ。
引き寄せられ、唇が重なる。
軽く触れる感覚。次いで、濡れた感触。
「これ以上わめかれたく無かったら、早く帰って続きをシよう」
私に――選択肢は無いではないか。
答えないでいると。
掴んだままの腕を、表通りへ続く道へと引っ張られた。
終電も無くなったこの時間。
タクシーを捉まえて。
告げられる行先は。
当麻のマンションに違いない。
そう分かっていても、大人しく引っ張られるしか出来なかった。
END
#その後むちゃくちゃセックスした
って、タグがついったで流行ってましたよねwww
そんな感じです☆
エイプリルフールネタを書いてみました!好きなんだぁ〜時事ネタ☆
(うおぅ!原稿も頑張ります!)
2014.03.29
(フライングなのは、当日に更新できないから!笑)
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