Losing Consciousness・記憶の飛ぶ瞬間
小さい頃から頭の回転は早くて、記憶力も優れていた。
何歳頃から記憶があるか、って話がよくあるけど。
俺は、幼稚園にあがる前からの記憶が残ってる。
小学生になっての記憶は、全てが事細かに思い出せた。
―――つまりは、全てが脳の襞に情報として蓄積されていて、忘れるなんて事は無かったんだ。
忘れてしまえば楽になるって、人は言うけれど。
そんな事が器質的に出来ない俺は、何でもかんでも覚えていて、他人を見下げる事でしか物事を許す事なんて出来なかった。
かなりひねくれたガキだったと思う。
中学生になってからもその性質は健在で。
つまんない事、覚えていたくないガラクタまでを山のように抱え込み、ちょっと苦しくなる時が多くなった。
思春期ともなれば、人間関係も人間感情も複雑になる。
気しない、関わらないと思ってても、勝手に降りかかってきた諸問題は、気分を悪くさせる。
棚に上げてる事は出来ても、忘却とは縁が無かった。
そこで期待したのは。よく聞く『酒を飲んだら記憶が無くなる』ってヤツだった。
記憶が一瞬でも自分の範中から消えるならば――それは恐怖かもしれないけど。
覚えていない事あるってのは、当時の俺には救いになるはずだったんだ。
元から不在の多い両親だから、すぐに試す機会は訪れた。
炭酸だと腹が膨れると思って、ワインを数本買ってきた。
飲んだ経験がないから、どのぐらい飲めば正体が無くなるのか、記憶を失うのかの加減が分からなかったからだ。
限界はすぐに来て――一本目が残り数センチと言う所で、猛烈に気持ちが悪くなってきた。
それまで、ふわっとしていた頭がぎりぎりと痛みを発し始める。
上手く動かなくなった手足を引き摺って、トイレに向かい。吐けるだけ、吐いた。
急性アルコール中毒にならずに助かったけど、翌日も最低のむかむかは続いた。
二日酔いを、中一で体験できた。
それでも、記憶は無くならなかった―――。
嗚呼、これからは、全てを抱えて生きていくしかないんだと、絶望的になっていた。
極力、嫌な記憶を持たないで済むように、過ごしていこうと思った矢先。
やっかいな『敵』が、異世界からやって来て、闘う派目になったんだ。
本当に、ついていないと思う。
酷く消耗してきて、疲れて果て意識が朦朧とする事があった。
そのまま忘れてしまいたい、忘れられるかもしれない、そう希望を持ったけれど。
どんな状況でも、後で記憶をたどれば………必ず、思い出せた。
特殊な回路を持っているだろう俺の頭は、無意識でやった事さえも放置する事を許してくれなかった。
終わった時も。
凄惨な記憶が安堵の温もりを引っ張って、心から緊張が解れるのにはかなりの時間を要した。
◇◇◇◇◇◇◇
それから、何年かが過ぎ。
一緒に戦った仲間である征士と。
紆余曲折・無理難題・相互理解と痴話喧嘩を繰り返し、乗り越えて。
最近、同棲するような関係になった。
同じマンションで暮らすようになると、俺の記憶には奇天烈な征士の行動が増えていき。
思い出して笑える、っていう利点を感じ始めていた。
まぁ、嫌なことばかりじゃない。って、自分の特性を許せる気にもなって来ていた。
そんな風に、過ごし生きていくのだと思っていた。
だから―――征士から言われたこの一言に、心底驚いた。
「当麻……今日は、背中から………」
何をしようかとしていると、ナニをしようとしているんだけど。
ほぼ毎日、濃厚なスキンシップを求めてくる征士。
最初は、体も辛かったけど――慣れて、気持ち良さも大きくなって。
まぁ、いいかと思って毎回付き合ってやってる、セックス。
個人の好みっていうのもあるだろう、征士は正面から顔を見ながらスルのがお好きだ。
所謂、正常位ってヤツ。
から、脚を広げて協力してやったのに。
「後ろを向いて欲しい」
「へ?」
「お前のリクエストだろう」
「んな事、言った?俺が?」
「ああ、一昨日、啼きながら言っていたぞ」
――― ……な、啼きながら……??????
そんな、記憶は無い!
確かに、一昨日は酷かった。
いい加減にしろって怒鳴ってからも、ずっと上に乗られていた。
抱えあげられた腰が、まぁツライのツラクないのってぐらい。
なのに、中が熱くてたまんなくて、有耶無耶になっていって。
何にも言えなくなる程に、攻め立てられた。
失神寸前まで逝かされるのに、最後までは昇りきらせてくれない。
無限に、甘い快楽地獄に漬けられていた、日。
記憶はある。あるけど……。
「腰がツライから、たまには後ろからシテ欲しい、と」
――― 確かに、辛かったけど……?
自分の記憶に残っていないなんて事が、あるのか?
自問自答・記憶精査をする脳内を余所に。
征士は、俺の身体を裏返すように抱えて……。
「はぁっ……んぁ………」
前戯で緩んだ身体の奥に、ゆっくりと浸蝕してきた。
腰の奥と、脳の奥が、一緒に快楽に痺れていく………。
「………あ………せ……じ……たんま……」
「どうした?」
まだ……考えが纏まらない。
それって、俺の記憶が完璧じゃないって事だよな。
「うご………くなよ……」
「無理だ、こんなにイイのに止まるか」
肉のぶつかる音と、濡れた音。
激しくなる征士の息使いと、自分の嬌声。
容赦のない、優しい律動。
中に荒れ狂う、官能の波。
集中できないまま、頭に浮かぶのは。
俺も、忘れる事が、記憶を手離す事が、できる―――。
ずっと、切望していた事が、コイツとのセックスで叶えられるなんて。
しかも、何となく分かってしまった。
きっと、征士だからだ。
記憶を無くしてもいいほどに、信じて気を許してる―――。
浮遊して行く意識が、ある知識に引っ掛かった。
セージって植物の語源。セージの古名は、癒すとか救うって意味があるんだ。
――― ホント……救われちゃったのかも……
だから、ついサービスして言っちまった。「もっと、欲しい」って。
たぶん征士は、この上なく嬉しそうな顔をしているに、違いない。
END
スパークにて無料配布させて頂いたお話を UPさせていただきました!
うん、やってるはなしとか大好きです^^ いつものことです!
ぼちぼちとサイト復旧&書かせて頂きます。
これからも、よろしくお願いしまーす!!
2013.11.01 サイトUP
2013.10.27 イベント配布物
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