帰国した夜に
覚悟を決めて真っ白なドアの前に立ったら。
急に扉が開き。
全面から大量の水があふれ出て。
飲み込まれ。
左右どころか上下も分からないままに、その勢いに流された。
息も出来ずに溺れている俺は。
熱くて苦しくて切なくて、そして気持ちのいい濁流の中でもがき。
必死に泳ぎ。
這い上がろうとして。
できないままに、ただ喘いでいた。
めくるめく一夜と称するよりも、そんな感じだった。
遠くに聞こえるシャワーの音で目が覚め。
昨夜のことをぼんやりと思い出す。
久しぶりに帰国して、征士を呼び出して飲んでいたら。
帰り際にストレートに告白された。
この機会を逃さないぞという気迫を持って。
その告白が、嬉しくないかと問われれば。
帰ってきてすぐに呼び出したぐらいなのだから、正直嬉しかった。
---って思ったことが、そのまま顔に出たんだろうなぁ
そのまま。
近くのホテルに連れ込まれて。
そんな関係になった訳で。
---強引すぎるだろうが!!!
数時間前にあったことを思い出すと、恥ずかしさから征士を責めたくなる。
だけど、征士の所為だけじゃないってのも、分かってる。
嬉し恥ずかし『二人で初めての共同作業』だった訳で。
しかもソレが、すっごくヨカッタ訳で。
水音が止むと。
真新しいバスローブを着て、さっぱりしたという雰囲気を醸す征士が歩み寄ってくる。
---顔は、本当に、俺の好みなんだけど。
「あーあ……俺は、本当は知的で資産家の巨乳美女と結婚するはずだったのに、なんでこんなことに」
抱かれて啼かされたのは、俺だった。
征士はこういったことは不得手だろうと高をくくっていたのに。
ヤバいと思う間もなく、躰はコイツの愛撫に篭絡してしまった。
熱くて優しくていやらしい指先と舌先が、未知の性感をあぶり出す。
隠れていた腹の奥にある芯が赤く溶け始めて、目が開けていられなくなり。
痛みよりも圧迫する存在を受け入れて。
何度かの圧を感じた後、経験したことのない快感が生まれて。
後はよく覚えていない。
いや。
覚えていることが一つある――俺は、プロポーズされた!
口から洩れる声を抑えようと塞いでいた手を取って。
その手のひらにキスをしながら。
『当麻。結婚しよう』って言ったよな…征士は。
『は?アホか!できるか!』『何故?』『男同士だろ』『ではそれ以外は問題ないということだな。法的にはまだ難しいが、生涯の伴侶にして欲しい。ずっと共にありたい。実はずっとそう願っていたのだが、万が一体の相性が悪かったら困ると躊躇していたのだ。その憂いもなくなった』
満足気に言い切った征士は、どーゆー思考回路してんだ。
しかも、最中に、だ。
俺は・・・まだ、あれだ。
告白された時から。
これから仲間からちょっと枠をはみ出して、手をつないだりキスしたり、ちょっとずつ恋人(!)らしくなっていくんだろうなぁ。とか。
ホテルの入り口まで、いや、押し倒されるまで、そう思っていて。
なのに、ヤっちゃって。
しかも、この先のことまで決められて。
―――俺の純情を返してくれ
って言いたくなるような展開の早さだった。
一歩一歩登っていくはずの階段が、超高速のエスカレーターで一気に最上階まで…。
ついていけないというか、ついていきたくないというか。
朝陽を浴びて冷静になると、その急展開に。
ちょっとは文句も出るってもんだ。
「私だって、家の格式に見合った物静かな女性と結ばれるはずだったのだが」
「俺の方が差があるだろ」
「そうか?知的で美形で資産もあるぞ。まぁ胸だけはないが。差でいうのなら私の方が大きいと思うが」
「減らず口だなぁ。でも、俺がいいんだろ?」
「もちろん。当麻もそうなのであろう?」
そうだと肯定するしかないけど。
ずっと主導権を握られている感が、悔しくて。
「だといいな」
そう曖昧さを見せると。
殴れないでいる好みのドストライクの顔が。
少しだけ不安に揺れたら――笑って許してやることにした。
END
じわじわ付き合うのもいいですが、
一気にっていうのも大好きです!!
(っていうか、そんなのばっかりだww)
2017.8.3 kazemiya kaori
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