Brassiere





大学生活も三年目に突入すると、色々なことになれてくる。
就職活動を本格的に始めるまでに時間があり、ゼミも授業も選択次第ではそんなに厳しくもない。
一番(暇のある)大学生らしく青春を謳歌できる時期。

自由な時間が増える中で、その使い道に部活動をあげる者もある。
当然、征士もその部類に入る訳だが、ちょっと困った事案も出てきた。
それは「四年生の引退を控えてこれからの剣道部をどうしていくのか」という体のいいお題目を肴に、同期だけの飲み会が頻繁にあるのだった。
付き合いは良くないと認識されている征士でも、誘われれば数回に一回は顔を出さなければならないような気になってしまう…。

征士にしたら、部活の後はさっさとマンションに帰り、夕食を作って当麻の帰りを待っていたいところなのだ。
もちろん飲み会に顔を出すと言えば、当麻の返事は『行ってこいよ』とOK だし、夕食も何か適当に食べるだろう。
だが、当麻の偏食と面倒くさがりを分かっている征士は、その‘適当’がコワイ。
心配のあまり、今朝も温めるだけで済むようにビーフシチューを作ってしまった。
パンがいいなら自分で買ってこいといいながらも、ご飯のタイマーもセット済みと念には念をの入れて。




煮込みに時間をかければ、もっと肉が柔らかくなったのに…。
当麻はちゃんと食べているだろうか。


眼の前で注がれたビールを飲みながら、征士の脳裏をおかんのような心配が過る。
最初は真面目な話をしていたが、三杯目ともなればくけた話題になってくる。
その内容に、征士の興味はあまりそそられないので、ツイ上の空になるという訳だ。


征士の感心を引かない年相応な話題とは――恋愛の話である。
今日のメンバーは同期でも男子だけということもあって、具体的になっていっていた。

今、征士の耳に入ってきた会話は「ブラジャーをどのタイミングで外すか」だった。


「面倒くさいよなぁ」と声が出れば「それが興奮すんだろ」とつっこみがはいり。
暗いシチュでフロントホックが判らず手間取った失敗談に笑いが起こる。
そのまま、どんな色やデザインが好きか、または彼女がつけているかと盛り上がっていく。


「なあ、伊達の彼女は?」


積極的に話に加わらず「そういうものか」と聞き流し静かに飲んでいた征士に、突然話が振られた。




実は。
ずいぶん前の飲み会で付き合っている人がいるかと聞かれ、いると答えてしまっている。
というのも、一番最初の新入生歓迎会で同じことを聞かれた時に、馬鹿正直に「彼女はいない」と行ってしまい、面倒なことになったのだ。
人目を引いてしまう外見と剣道で実績が相まって、その場のフリーの女子の目の色が変わった。そして、その後は、色々、本当に、大変だったのだ。


それ以降、その手の質問に対しては「付き合っている人がいる」と答えるようにしてる。
面倒なことは避けたかったし、実際彼女はいないが、付き合っているヤツはいるのだ。




だから、この場で「いない」とは逃げようがなかった。
「別れた」と嘘をつく機転とは無縁の征士だ。


「まさか、まだシテないとかじゃないよな?」
「いやーもう付き合って三年目だろ?ないない。いくら真面目な伊達でもそりゃないだろ」


記憶力のいいヤツが「大学に入ってすぐに付き合いはじめた」と言ったことを覚えていたために、「実はまだだ」と誤魔化すことさえ奪われた。

答えない征士に、近くに座っている数人の視線が集まってくる。
まだ口々に「お、伊達の彼女か」「興味あるなー」などと言っている。
だが、早く答えなければ待機の静けさを呼ぶだろう。
そうなれば、部屋にいる全員の注目を集めてしまう…。


焦った征士から出たのは――


「…つけてはいないのだ。だから分からん」


「ひぇー」「すげぇ」「えろい」「まじか?」と歓声があがる。

何人も「なんで?」と聞いてきたが、後は「知らん」「分からん」で押し通した。

それ以上の答えを征士から引き出せなった酔っぱらい達は、次の楽しくも馬鹿な話題へと移っていって。
何とかそれ以上の惨事は免れたのだった。




そう、確かに、当麻はブラジャーをしていない。

事実だが。

また、馬鹿正直に答えてしまって、いらない種をまいてしまった。


一応、公然とは言えない恋人を持った時点で、聞かれた時の答えは用意していた。
己の恋人について、詳しく話す気はないが全く口にしなければかえって興味を持たれたり、虚言だと言われてしまう。
それを回避するための応答は、シミュレーションをしていたのだか。
まさかそんな話題になるとは思っていなかった。





深く反省しながら、征士が帰宅すると。
その暗い顔を見た当麻が、何があったのか聞いてきた。


「ぷっ…ブラジャー…って。
 はずすさせてあげらんなくて…ごめんな…。
 ぷくくくっ……ごめんな……本当にごめん」


困窮しただろう征士を想像して笑いで声を詰まらせながら、当麻があやまってくる。


「謝る必要などないであろう」と憮然していたが、次の言葉が征士の落ち込みを一気に引き上げた。


「でも、一生だからさ」


「そうか、一生か」


思わぬプチプロポーズに、当麻を抱きしめてキスをする。
するとちょっと甘いデミグラスソースの香りが残っていて、更に征士は幸せな気分になった。

当麻の背に廻した手に、ブラジャーの存在など触れることは無い。

その経験は一生ないとしても、征士にはどうでもいいこと。
上手く返答できなかったことも、もうどうでもいいこと。になる。


幸せが、今、腕の中にある。


落ち込むきっかけとなったが、こんな機会をくれたブラジャーに。
征士は心から感謝するのであった。




END




ふと何かで(ついったー?)ブラジャーネタを見た気がして(記憶曖昧☆)
ブラジャーに感謝する征士さんwww(変わりモノ!)

開サイト6年目に突入しましたぁw 
いつもありがとうございます!
これからもぼちぼちまいります^^よろしくお願い致しますーっっ!!


後日談 ネタ☆
1) 剣道部で伊達征士ノーブラ好きの噂が流布
2) 女子部員間で密かなノーブラブーム&男子歓喜
3) 征士が当麻のアンダ―サイズAAAカップのブラを通販で購入
4) ブラを見つけた当麻が征士を殴る
などなど…。色々想像すると楽しいですっっ!!!




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